
初めに
皆さんは普段「宝くじ」を買うだろうか? ほとんど買わない人も一度くらいは買ってみたことがあるかもしれない。俺はそれほど熱心ではないが、ここ数年は年に一、二回ほど買っていた。買うのは主に年末などの節目のときで、一回に買う金額は3000円か6000円くらいだと思う(バラとか連番で10枚セットで買うことが多い)。
今年も残り一か月となったところで、また「例の宝くじ」が売りに出される季節になった。例によって俺は、今年もまた”夢を買う”つもりで宝くじの公式サイトをのぞきにいったのだが、ふと冷静になって作業の手を止め、「はたして宝くじ購入という取引は、購入者にとってどれほどのエッジ(統計的優位性)があるのだろうか?」と疑問に思った。
そりゃ、圧倒的に購入者が不利で、買い続けても運が悪ければ損害が膨らむばかりだろうな、という一般的な理解は持っていたが、「もしも」を想像してワクワクする娯楽という側面や、多くの収益が各自治体に流れることで、国の財政情勢が大いに改善されているという側面もあることを知っていたので、これまでは深く考えてこなかったのである。
また実際、これまでに数回ではあるが、宝くじで少額当選したことがあったので(一万円が一回、三千円が一回、千五百円が一回、三百円が十数回)、少なくとも宝くじには規定された数の当たりくじはちゃんと入っていて(もしくは仕組まれていない数字抽選が行われて)、絶対に何も当たらないような詐欺ではないという、経験から裏付けされた知識もあったことで、宝くじというシステムに対する警戒感が薄れていたのだ。
しかし今回、とうとうその目隠しが取られたのだ。自分の人生、これからもこのまま宝くじなんて買っていてもいいのだろうか? と――。そこで俺は、それらの宝くじのページに記載されている情報を精査し、これまで自分が考えてきた「もしも」がいかに小さな確率でしか起こらないのかということを可視化することで、自らの購買意欲を消失させることにした。この記事では、実際に導いたそれらのデータとともに、皆さんに今一度「宝くじ」というもののあり方について、自問自答する機会を提示できればと思う。
宝くじの各種データ
全国自治体宝くじ(第1031回)年末ジャンボ宝くじ
- 1本の販売料金:300円
- 販売総額:138,000,000,000円(1380億円)
- 当選総額:68,997,700,000円(販売額の0.499983333…倍:つまり半分未満)
- 発売本数:460,000,000本(1ユニット2,000万枚、23ユニット)
- 当選本数:51,120,030本
- 当選確率:0.1111305 = 11.11305%(そのうちの約89.98%が7等 300円)
- 期待値:184.995円(1くじ買うごとに-115.005円となる:資産が約60%になる)
- 結論:10本に1本は当たるが、その9割が最低金額。よって宝くじの購入は購入者にとってエッジのある取引ではない。
全国自治宝くじ(第1032回)年末ジャンボミニ
- 1本の販売料金:300円
- 販売総額:45,000,000,000円(450億円)
- 当選総額:22,500,000,000円(販売額の0.5倍:つまり半分)
- 発売本数:150,000,000本(1ユニット1,000万枚、15ユニット)
- 当選本数:16,654,950本
- 当選確率:0.111033 = 11.1033%(そのうちの約90.06%が5等 300円)
- 期待値:150円(1くじ買うごとに-150円となる:資産が半分になる)
- 結論:年末ジャンボ宝くじ同様。
関東・中部・東北自治宝くじ(第2667回)100円くじ
- 1本の販売料金:100円
- 販売総額:900,000,000円(9億円)
- 当選総額:388,900,000円(販売額の0.4321111…倍:つまり約43%)
- 発売本数:9,000,000本(ユニット数不明)
- 当選本数:1,001,972本
- 当選確率:0.1113302222… = 約11.13%(そのうちの約89.82%が6等 100円)
- 期待値:約43.21円(1くじ買うごとに-56.79円となる:資産が半分未満になる)
- 結論:年末ジャンボ宝くじなどよりも酷い。
関東・中部・東北自治宝くじ(第2670回)初夢宝くじ
- 1本の販売料金:200円
- 販売総額:5,200,000,000円(52億円)
- 当選総額:2,331,900,000円(販売額の0.44844230…倍:つまり約44.84%)
- 発売本数:26,000,000本(ユニット数不明)
- 当選本数:2,941,902本
- 当選確率:0.11315007692… = 約11.31%(そのうちの約88.37%が5等 200円)
- 期待値:約89.688円(1くじ買うごとに-110.312円となる:資産が半分未満になる)
- 結論:お年玉賞(20,000円 2,600本)がある分、当たりに含まれる最低等賞の割合がやや減るが、それでも当然総額の割合が低いため、年末ジャンボ宝くじなどよりも酷い。
宝くじにおける期待値
宝くじにおける期待値は、1枚の宝くじを購入した場合に期待できる”平均的な当選金額”を表している。全ての等章の当選確率に、それぞれの当選金額をかけたものを、全て足し合わせる(総和する)ことで導びかれる。例えば年末ジャンボ宝くじや、年末ジャンボミニの場合は以下となる。
年末ジャンボ宝くじの期待値
- 1等 700,000,000円 23本
- 1等の前後賞 150,000,000円 46本
- 1等の組違い賞 100,000円 4,577本
- 2等 10,000,000円 184本
- 3等 1,000,000円 9,200本
- 4等 50,000円 46,000本
- 5等 10,000円 460,000本
- 6等 3,000円 4,600,000本
- 7等 300円 46,000,000本
- 販売総数:460,000,000本
となるため、
- 700,000,000 × ( 23 / 460,000,000 ) +
- 150,000,000 × ( 46 / 460,000,000 ) +
- 100,000 × ( 4,577 / 460,000,000 ) +
- 10,000,000 × ( 184 / 460,000,000 ) +
- 1,000,000 × ( 9,200 / 460,000,000 ) +
- 50,000 × ( 46,000 / 460,000,000 ) +
- 10,000 × ( 460,000 / 460,000,000 ) +
- 3,000 × ( 4,600,000 / 460,000,000 ) +
- 300 × (46,000,000 / 460,000,000 ) =
- 35 + 50 + 0.995 + 4 + 20 + 5 + 10 + 30 + 30
- =184.995
年末ジャンボミニの期待値
- 1等 30,000,000円 150本
- 1等の前後賞 10,000,000円 300本
- 2等 1,000,000円 4,500本
- 3等 10,000円 150,000本
- 4等 3,000円 1,500,000本
- 5等 300円 15,000,000本
- 販売総数:150,000,000
となるため、
- 30,000,000 × ( 150 / 150,000,000 ) +
- 10,000,000 × ( 300 / 150,000,000 ) +
- 1,000,000 × ( 4,500 / 150,000,000 ) +
- 10,000 × ( 150,000 / 150,000,000 ) +
- 3,000 × ( 1,500,000 / 150,000,000 ) +
- 300 × ( 15,000,000 / 150,000,000 ) =
- 30 + 20 + 30 + 10 + 30 + 30
- =150
宝くじの実態
宝くじは日本では一般的に、総販売金額の約50%が賞金総額として設定される。つまり全て買い占められた場合でも、販売金額の半分の利益が運営側に転がり込むことになる(実際には全て買われることはまずなく、当選くじの出現も運によるため、運営側の利益も上下する)。そのうちの約15%は印刷経費や売りさばき手数料などに消え、1%強は社会貢献広報費(地域文化の振興やコミュニティ活動の支援などを行うための資金)に充てられる。
そして残りの金額(現実的には販売額の30~40%程度)は、運営側である各地域の自治体に納められ、少子高齢化対策、防災対策、公園整備、教育及び社会福祉施設の建設改修などの、さまざまな公共事業に使われる。上記のデータを見ると買う気が失せるが、それらの収益が国の財源となっていることを思えば、こういった仕組みが存在するのもあるレベルでは正当化されうるのだろう。
ちなみに、2023年度の宝くじの売り上げは約8,088億円で、そのうち約2,964億円(約36.6%)が収益金として地方自治体に納められたようだ。一方で、日本の2023年度の国家予算は約107兆円なので、宝くじの収益金が国家予算に占める割合は約0.28%程度にとどまっている(※宝くじの収益金は自治体に納められるので、直接的には国家予算に組み込まれてはいない)。これを安いと見るか高いと見るかは、人それぞれだろう。
お終いに
人は宝くじを買うとき、大金持ちになった自分の輝かしい未来を思い描きながら買うものだ。決して金を取られ損して、惨めな気持ちになるのを我慢して、「いや、私は自治体に寄付するために買ったんだ」などという言葉で自身を慰めたりするために買うわけではない。
であるならば、あなたのお金はもっと有益なこと使うべきかもしれない。なぜならば、宝くじで輝かしい未来を掴めるのは、ほんのひと握りの強運の持ち主だけだからだ。あなたはこれまでの人生で、自分が幸運の女神に微笑まれた人間だと思うだろうか? 答えがYesでもNoでも、宝くじを買うのはやめておくが吉だろう。
宝くじは不思議なことに、世の中が不況になったとき売り上げが伸びる性質がある。またお金持ちよりも貧乏人が買うのだという――追い込まれている人々に限って、”一発逆転”を狙って賭けに出るのだ。彼らはそれがどれほど不利な取引だったとしても、”もしも”の成功さえあれば、全てが肯定されると信じているのだ。売上金を見るに、それほど多くの人々が宝くじを買うのだから、世論すべてが「この世界は運で決する」と満場一致で認識していると言って差し支えないだろう。
そう、この世界は運で決まる。まずこの世が存在するかどうかの運、この世に産まれるかどうかの二択、性別の二択、人種の運、先天的な健康度の運、それらを定義づける遺伝子の運、生まれる国の運、生まれる地域の運、生まれる家庭の運、産まれてからのあらゆる経験の運、そして地上で行う種々の運ゲーの運。あなたはそれら数々の”勝負”に勝ってきた人間だろうか? もしあなたが宝くじを買おうとしているのであれば、恐らく答えはNoだろう。
Noの人ができる最善の選択は、これ以上の”敗北”を増やさないことだ。お金は使わなければ意味がないが、もっと言えば、「お金は自分の幸せのために使わなければ意味がない」のだ。だからあなたはできるだけ運ゲーを避け、大切なお金を自分が本当にワクワクすることや、欲しい物のために使うべきだ。お金は手段であって目的ではないことを、ゆめゆめ忘れることなかれ。賢く使えば1万円でも1000円でも、たとえ数百円程度でも、確実に自分の幸福に変換していけるはずである。
いつものごとく、これら全ての説教は、愚かな自分に向けて書いている。よく言われることだが、「誰だってミスはするし、ミスしたっていい。でも失敗から何も学ばない人は愚か」なのである。ミスすると人は自暴自棄になって、また次のミスを誘発しがちだが、そんなときこそ立ち止まって考えてみるのが大切なのだろう。俺はもう宝くじを買わないよう努めるつもりだが、もしまた”もしも”の概念が誘惑してきたなら、そのときはこのページを読み返して決心を再確認するつもりだ。
余談が長くなってしまったね。それじゃあここいらで記事を終わりにするとしよう。どうも最後まで読んでくれてありがとう。皆さんがよい年末・年始を迎えられることを祈っているよ。”運が良ければ”、また次の記事で会おう。
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