[2025年度版]注目されたニュースが株価に与えた影響【米高騰、道路陥没、フジテレビ】

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初めに

 社会問題を提唱し、かつ経済に関する重要なニュースというのは、経験上株価に与える影響が大きい。ここでは直近の事例を分析することによって、ニュースがどの程度株価に反映されるのかを学びたいと思う。

ケース①米の価格高騰

 米の価格高騰問題は、2024年夏頃からニュースで大きく取り上げられるようになった。特に、スーパーで5キロあたり5000円といった高値が報告され、SNSでも大きな話題となった。この価格高騰の主な原因は以下の通りだ。

  1. 天候不順による不作
     2023年の天候不順、特に猛暑や台風などの異常気象が米の生産量に直接的な打撃を与え、収穫量が減少した。
  2. 需要と供給のバランス崩壊
     国内の流通量が不足し、需要が供給を上回ったため、価格が上昇した。
  3. 政府の対応の遅れ
     農林水産省が「24年度の新米が出回れば解決」として対応を遅らせた結果、価格高騰が続いた。
  4. 投機の影響
     一部の業者が買い占めを行い、市場価格を押し上げたとされる。
  5. 需要の増加
     コロナ禍からの回復やインバウンド需要の増加により、米の消費が増えたことも価格上昇に拍車をかけた。

 以上のような理由が価格を押し上げている要因だ。政府は備蓄米の放出などの対策を講じているが、2025年秋の新米シーズン(9月~11月)までは高値が続く可能性が高いと見られている。

このニュースの影響企業

🔥株価上昇が期待される企業:

  • 農業機械メーカー
     米の生産量を増やすために、農家は最新の農業機械や設備への投資を増やしている。これにより、農業機械を製造・販売する企業の売上が増加し、株価が上昇している。例:クボタ(株式会社クボタ [6326]:農業機械の大手メーカー)、井関農機(井関農機株式会社 [6310]:農業機械の専門メーカー)など。
     ↑どちらも24年は下げ続けていたが、25年から(ニュースでの重要度が増してから)大きく値を上げている。
  • 肥料・農薬メーカー
     生産効率を高めるため、肥料や農薬の需要が増加している。これにより、これらの製品を提供する企業の業績が向上し、株価が上昇している。例:住友化学(住友化学株式会社 [4005]:農業用肥料や農薬を製造)、クミアイ化学工業(クミアイ化学工業株式会社 [4996]:農薬の製造・販売)など。
     ↑前者は同様に25年から上げ調子だが、後者は25年度の収益予想がやや低いので足元軟調。もしかしたら今回のニュースが完全には織り込まれていないかもしれない。

⚡株価下落が懸念される企業:

  • 食品加工業者
     米を原料とする食品(例えば、米菓や寿司など)を製造する企業は、原材料費の上昇によりコストが増加している。これが利益率の低下を招き、株価の下落要因となっている。亀田製菓(亀田製菓株式会社 [2220]:米菓の大手メーカー)、越後製菓(越後製菓株式会社:餅や米菓を製造)など。
     ↑前者はものの見事に24年9月から下落、後者は上場していない
  • 外食産業
     特に米を主食とするメニューを提供する飲食店は、仕入れ価格の上昇により利益が圧迫されている。価格転嫁が難しい場合、業績悪化につながり、株価が下落する可能性がある。吉野家ホールディングス(株式会社吉野家ホールディングス [9861]:牛丼チェーン)、松屋フーズホールディングス(株式会社松屋フーズホールディングス [9887]:牛めしを主力とする外食チェーン)など。
     ↑どちらも24年12月から下落。

ケース②日本・埼玉県八潮市の道路陥没事故

 2025年1月28日午前9時50分頃、埼玉県八潮市中央一丁目の交差点で道路が突然陥没し、トラックが転落する事故が発生した。現場は八潮市役所からつくばエクスプレス「八潮駅」方面へ少し南下した県道松戸草加線と潮止通り、浄水場通りが交差する「中央1丁目」交差点だ。陥没直後、側道から交差点に進入したトラックが穴に転落した。

 この事故では、トラックの運転手である74歳の男性が転落後も約3時間にわたり会話が可能な状態だったが、その後連絡が取れなくなった。救助活動は難航し、事故発生から1週間が経過した時点でも運転手の救出には至っていない。原因は、直径4.75メートルの下水道管の破損とされ、陥没に伴う雨水管の崩壊で川の水が逆流し、運転席付近まで水が溜まったことや、地盤が救助用重機の重さに耐えきれず新たな陥没が生じたことが救助の難航に繋がっている。

 これらの事故は、老朽化した地下インフラや豪雨などの自然要因が重なり発生している。都市部では地下施設の老朽化や地盤の弱体化が進行しており、定期的な点検と予防策の強化が求められている。

このニュースの影響企業

🔥株価上昇が期待される企業:

  • 水道インフラ関連企業
     事故後、老朽化した下水道管路の点検や補修の需要が高まるとの期待から、これらの企業の株価が上昇している。日本水道サービス株式会社(上下水道の維持管理や工事)、メタウォーター株式会社([9551]:水処理施設の設計・施工・維持管理)、日水コン(日本水道コンサルタント株式会社 [261A]:上下水道中心の建設コンサル)など。
     ↑日本水道サービスは非上場。メタウォーターは25年1月中旬、日水コンは25年1月下旬から高騰。

⚡株価下落が懸念される企業:

  • 事故現場周辺の建設・不動産関連企業
     事故による信頼性の低下や、今後の工事遅延などの懸念から、これらの企業の株価が下落する可能性がある。株式会社大林組([1802]:最大手ゼネコン。事故現場周辺での工事を担当している可能性があり)、住友不動産株式会社([8830]:総合不動産最大手級。現場近隣での開発プロジェクトに影響が及ぶ可能性があり)など。
     ↑前者は業績好調だったようで大きな影響はまだ見られないが、後者は25年2月から大きく下落している。

ケース③フジテレビ不適切接待疑惑問題

 元タレントの中居正広氏の女性トラブルに端を発した問題。当トラブルに関して具体的なことは分かっていないので、ことのいきさつは客観的な事実のみ記載する。

予備知識①「フジ」系列の企業

 フジテレビは「フジ・メディア・ホールディングス(FMH [4676])」という、放送やコンテンツ制作、広告、出版、不動産などを扱う総合メディアグループの完全子会社である。2008年10月1日に、それまでの「株式会社フジテレビジョン」が持株会社に移行し、「フジ・メディア・ホールディングス」となった。それに伴い、新たに「株式会社フジテレビジョン(新フジテレビ)」が設立され、地上波放送事業を引き継いだのだ。

予備知識②FMHの主な事業一覧

  1. 放送事業(テレビ・ラジオ)
    ・フジテレビ(地上波放送)
    ・BSフジ(BSデジタル放送)
    ・ニッポン放送(ラジオ放送)
  2. コンテンツ・映像制作
    ・映画・アニメ・ドラマの制作と販売
    ・海外展開(Netflixなどのプラットフォームでの配信)
  3. 広告・イベント
    ・フジサンケイグループの広告代理業務
    ・スポーツや音楽イベントの企画運営
  4. 出版・音楽
    ・フジサンケイグループの新聞・雑誌事業
    ・音楽事業(CD・配信など)
  5. 不動産・観光
    ・ダイバーシティ東京などの商業施設運営
    ・不動産事業の展開

予備知識③FMHの企業構造

事業領域主要企業
放送・メディアフジテレビ、BSフジ、ニッポン放送
映像・コンテンツフジクリエイティブコーポレーション(FCC)、共同テレビジョン
広告・イベントサンケイ広告社、フジアール
出版・音楽産経新聞社、扶桑社、ポニーキャニオン
不動産・観光ダイバーシティ東京、フジランド

本題 – 今事件のいきさつ

24年12月

  • 24/12/19 – 最初の記事が掲載される
     小学館が発行する女性向け週刊誌『女性セブン』が、「中居正広 巨額解決金乗り越えた女性深刻トラブル」と題した記事を掲載。2023年6月初旬、タレントの中居正広氏の自宅マンションで行われた食事会にて、中居氏が芸能関係者の女性Xとの間でトラブルを起こしたことを報じた。
     またその記事では、この食事会がフジテレビ編成幹部社員のA氏の呼びかけにより催されたことが示唆され、A氏は当日をドタキャンとたとも報じられた。このことによりフジテレビによる有力者への「性上納」疑惑が浮上した。性上納とはつまり、「女性を性的な目的で献上する接待行為」という意味である。
  • 24/12/26 – 文春砲の第一弾
     株式会社文藝春秋(ぶんげいしゅんじゅう)の発行する日本の情報週刊誌『週刊文春』が、「中居正広9000万円SEXスキャンダルの全貌」と題した記事を掲載。編成幹部A氏への突撃取材を行い、食事会へのセッティング疑惑を否定されたが、依然として発起人はA氏であるとした(後日訂正)。

25年1月

  • 25/01/08 – 文春砲の第二弾
     『週刊文春』が「X子さんの訴えを握り潰した『フジの3悪人』」と題した記事を掲載。被害女性Xが事案発生直後に、当時「成制作局アナウンス室部長」を務めていた佐々木恭子アナウンサーに相談していたことと、Xの知人による証言などが記載されていた。
  • 25/01/14 – ダルトンによる一度目の公開書簡
     FMH株式の7%保有するアクティビスト(いわゆるモノ言う株主)である「ダルトン・インベストメンツ(アメリカの投資運用会社)」の関連会社「ライジング・サン・マネジメント」が、FMHの取締役会に対し「第三者委員会の設置および信頼回復に向けた対応のお願い」との書簡を送付。
  • 25/01/16 – FMHの株価下落
     一連の週刊誌報道を受け、それまで1,800円台半ばを推移し、ゆるやかに上昇基調にあったFMH株が連日急落した。出来高は急増し、16日には直近3週間で13%下落した。
  • 25/01/15 – 文春砲の第三弾
     週刊文春が「中居正広『9000万円女性トラブル』新たな被害者が爆弾告白『私もフジテレビ編成幹部によって“献上“された』」と題した記事を掲載。全容を知るとされる「被害女性の知人」の証言として、女性が会食には中居氏に誘われたことを明記したが、第一弾記事についての訂正はされなかった。
  • 25/01/17 – FMH株の出来高急増
     投資系インフルエンサーの扇動により、FMH株の出来高が急増した。インフルエンサーたちは同年6月に開催される「株主総会」への「出席チケット」であるとして、最低単元100株の購入を推奨するなどの扇動を行った。
  • 25/01/17 – フジテレビ社長・港浩一による記者会見
     会見時間は約1時間45分に及び、港浩一氏は中居氏の件に関しては2023年6月(トラブル発生直後)に既に把握していたことを明らかにした。記者グループ19社33人のみが参加できた。中継や動画撮影は禁止されていたため、会見の様子は写真のみで報道され、一部で「紙芝居会見」と揶揄される事態となった。
     これ以降多くの会社がフジテレビ(FNS)へのCM出稿を中止、および放送中のCMを取りやめする事態となった。フジテレビ内部による試算では、1 – 3月期のCM差し止め分で「マイナス200億円」という可能性が報告された。
  • 25/01/20 – HMH株価急上昇
     「株主総会の出席チケット」として買いが空売り勢の売り圧力を上回ることとなり、ショートカバー(売り方の買い戻し)も相まって株価は急上昇した。また当銘柄は株価純資産倍率(PBR)の低さや、都市開発・観光事業(サンケイビル、グランビスタホテル&リゾートなど)の含み益もあったため、その割安感からバリュー投資としての買いもあったとみられる。
  • 25/01/22 – ダルトンによる二度目の公開書簡
     ダルトン・インベストメンツの関連会社であるライジング・サン・マネジメントがFMHに対し書簡を提出した。そのなかで彼らは「このような曖昧模糊とした対応は、フジ・メディア・ホールディングス・グループの隠蔽体質を露呈しているとしか思えません」と同社を批判し、フルオープンな(全てのメディアに開かれた)記者会見の開催を求めた。
  • 25/01/23 – 第三者委員会の設置
     FMHとフジテレビの両社が臨時取締役会を開催し、日本弁護士連合会のガイドラインに沿った第三者委員会を同日付で設置したと発表した。調査は2月以降に実施され、調査報告書は3月末を目処に提出するとした。
  • 25/01/27 – 『週刊文春』が記事を訂正
     第一弾の記事にて書かれた「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」との部分を「その後の取材により『X子さんは中居に誘われた』と訂正。
  • 25/01/27 – 10時間越えのやり直し会見
     当社側からは嘉納氏、港氏、遠藤氏、FMH社長の金光修氏の4名に加え、フジテレビ次期社長の清水賢治氏が参加した。メディアの数は191となり、出席者数は異例の437人に上った。会見は午後三時から翌日の午前二時まで続いた。
     会見前にはフジテレビ社長の港浩一氏、会長の嘉納修治氏、副会長の遠藤龍之介氏が辞任を発表。会見では同社は間接的に、編成幹部の呼びかけによる食事会が今回のトラブルの遠因になった可能性を認め、第三者委員会(第三者の弁護士を中心とした調査委員会)で調査される運びとなった。

25年2月

  • 25/02/03 – ダルトンによる三度目の公開書簡
     ライジング・サン・マネジメントは一連の騒動について、その原因がFMH及びフジテレビ両社の取締役相談役を務める「日枝久」フジサンケイグループ代表にあると断定し、彼のことを「巨大な放送グループを40年近く支配してきた独裁者」と中傷したうえで、彼の取締役辞任を求めた書簡を提出した。この書簡はいきすぎとしてダルトン側の正当性を疑問視する見方も見られた。
  • 25/02/07 – レオス・キャピタルワークスの株式大量保有発覚
     SBIグループ傘下の資産運用会社「レオス・キャピタルワークス」がFMH株式の5.12%を保有していることが、関東財務局に提出した大量保有報告書によって明らかとなった。レオスはFMH株について「倒産する可能性は低く、長期の株価上昇余地が大きい」と判断し、1月20日以降、FMHの保有比率を段階的に引き上げていた。
  • 25/02/14 – 藤野英人氏への取材
     レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長は、テレビ朝日の取材に対し「アセット(資産)を軽くしてそれでこれからの株主代表訴訟とか備えながら未来志向の投資をするというやり方もある。逆に言うとフジテレビ事業を売却して不動産になるという二者選択になると思っている」と述べた。

なぜFMHの株価は上がったのか?

  1. 企業として大きな注目を集めた
  2. もともと低PBRで割安だった(株価に対して潤沢な資産があった)
  3. しかし業界の大物たちがそれらの資産を私物化していたため株価の水準が低いままだった
  4. ダルトンなどの大株主たちが此度の事件に乗じてそれらの大物たちの失墜を画策した
  5. 株はその期待感の現れとして買われた
  6. またFMHの収益の大半は不動産業から来ているので、フジテレビ事業が終焉を迎えたとしてもグループ全体としては致命的ではないと評価された

まとめ

 株価はその会社の価値を正確に反映しているものではなく、ときに投資家の心理により大きく変化することがある曖昧なものである。よってニュースは株価に多大な影響を与えうるものであり、その度合いは民衆が受けた精神的衝撃に比例するのだ。

 こういった事例はこれからもたびたび起こることだろう。年に一度、あるいは数回起きるかもしれない。投資家としてそういったビッグウェーブに乗り遅れることがないよう、常日頃からニュースを注視し、それらが世間の目にどう映るのかを予想し、有利に働く企業・不利に働く企業を正確に見極める力をつけることが重要である。

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