
第四十九章 – 青春時代② 高校生活 Ep.36:ただいま、おかえり、初体験(最高の契約履行編)
エリスの高校生活㉖ ただいま、おかえり、初体験(いきなり不履行!?編)
チャクッ……チャクッ――。甘い甘いキスを終えたエリスとダニエルは、ふと恥じらいを思い出したように目線を外し、飛びっきりの照れ笑いを浮かべる。二人して、平日の昼間からバスルームの床で抱き合って、ひそひそと愛を育んでいる現状を、ようやく意識し始めたのである。二人ともフワフワと浮足立ったような気分で、何だか一歩大人になったような、不思議で甘酸っぱい気持ちだった。
だが現実問題、時間は有限! ダニエルは”タイムリミット”が迫っていることを思い出しては、先ほどの『愛の契約』履行に向けて、早々に動き始めるのだった。
「えっと、それじゃあっ! 今からシャワーでも浴びて、身体拭いて二階に戻って、それからぁ……”エッチ”、しよっか?」彼が勇気を出してそう言うと、相手の男の娘は恥じらいながらも、「う、うんっ! そうしよっ!」と答えてくれる。早速パートナーを支えて立ち上がろうとするダニエルだったが、ふと飛び込んでくる眼下の情景を見ては、すぐに苦笑してパートナーに視線を戻すのだ。
「エリスってさ。本当に”優しい”よね……でも優しすぎて、ときどき”間が抜けてる”って言うかさ……」そこでダニエルが、キョトンとしているエリスにも論点が伝わるように、隣の便器を見つめて種明かしする。「『トイレ、流し忘れてる』よ……」同じ目標を見据えたエリスは、その便器の底に溜まってる己の”聖水”と”星の欠片”とを視認した途端、顔を真っ赤にして”レバー”へと手を伸ばすのだった。
「うわぁぁぁぁぁぁ見ちゃダメェェェェェ!!」
そしてレバーは引かれ、おトイレさんは毎度のように”それらのブツ”を、綺麗さっぱり飲み込んでいくのだった。
ジャァァァァァァー!
*
そうして、シャワーを浴びる段階になった二人。エリスは人魚姫のようにペチャンと床に座ったまま、ダニエルが服を脱いでいく姿を照れくさそうに見つめていた。できれば彼だって、こんなふうにパートナーに恥ずかしい思いをさせたり、迷惑をかけたりもせず、ひと足先に独りでシャワーを浴びてしまいたかった……。
しかし、この家のバスルームは『障害者用のバリアフリー設計』ではなかったので(浴室には充分な手擦りも椅子もない)、安全に配慮して仕方なく、ダニエルと一緒に入ることとなったのだ。まぁ……当の彼氏はノリノリで服を脱いでいるので、特に恥ずかしそうでも迷惑そうでもないのだが……。おかげさまでエリスの方も、『生まれて初めて”ストリップ・クラブ”に来た人』みたいな、何とも”うぶ”な反応を見せてくれる。
「うんしょっと――」ついにアンダーパンツを脱ぎ、エリスと同じく全裸状態になったダニエルは、途端にその『精液で汚れたパンツ』を持ち上げては、「あっちゃ~、これは手洗いしないとダメかもな~」とぼやくのだ。だが当然ながら、傍観するエリスはそれどころではない――今や彼の目にもハッキリと、パートナーの”陰部”が映り込んでいるのだ。
皮が剥け、半勃ちになった、形のいいペニス……。それをチラチラと瞥見しながらエリスは、これから行う行為への『別の意味での不安』を、覚えずにはいられなかった……。あ、あれがダニエルの……うわぁ、すごくおっきい……大丈夫かなぁ、あんな大きなもの……ちゃんと僕のお尻に、入るのかなぁ――(ソワソワ)。
するとその様子を見たダニエルが、何となく解釈したのだろう――突如として手に持ったパンツを差し出しては、こんなことを言ってくる。
「えっとぉ……見てみる? 僕の”精子”……」
「えっ?」あまりのことに、とても理解が追い付かないエリス――彼は咄嗟に両手を掲げては、「い、いいよっ、僕はっ」と遠慮することしかできない。まるで会食の席で、『もっと食べるかい?』と料理を差し出されたときの、小食なゲストのようだ……。
これにはダニエルの方も、そのときのホストみたく残念そうな顔をして、「そ、そう……?」と料理を下げるしかない……。別に自分の精液|(ひいてはパンツ)に特別な価値があるだなどとは思わないが、こうもあっけなく恋人に突き返されると、少し悲しくなってしまうダニエルだった……(何とも切ない男心……)。
※どうやらダニエル、エリスが本物の精液を見たことがないであろうことから、『もしかしたら彼が興味を持っている(あるいは持って”くれている”)のでは?』と推察し、今のような提案に及んでしまったようだ(それにエリスは『タンクも空』だったので、他にソワソワする理由もないと思われたのである……)。
「ご、ごめんっ……変なこと言って……あっ、シャワーの前に、このパンツだけここで洗っちゃうね――」哀愁を漂わせながら、洗面器でパンツを洗い始めるダニエル……それを見ながらエリスは、『何だか、悪いことしちゃったかな……』と、お得意の”過剰なまでの罪悪感”に苛まれるのだ。よって彼の熱心な償いが始まる――。
「えっと……こっちこそごめんっ。つい、驚いて拒否しちゃったけど、君の、その……セイシ(ボソボソ)……見たくなかった、とかじゃなくってっ。何て言えばいいのか~……とにかくごめん!」最初、相手の顔色をうかがいながら謝罪していたエリスだったが、お終いに相手の下半身へと目を落しては、そこで萎んでいくペニスを切なそうに見つめるのだ。
するとダニエルが、ハンドソープをワンプッシュ手に取ってから、やや不貞腐れた調子でこう返してくる。「いいよ、別に……僕が勝手に”先回り”して、いらぬお節介焼いちゃっただけだし……」そうしてワシャワシャと下着を洗っていく彼。
エリス「先回りって?」
ダニエル(頑固なシミと格闘しながら)「いやっ、さっき君が”何か言いたげに”してたから、てっきり『これに興味ある』のかと思って……ほらっ、君って本物の精子とか、見たことないだろうし……」おやおや、まさか彼がここまで正直に自己開示するとは……どうやら私が先ほど入れた注釈は、不要だったようだ。
「あっ、なるほど……」ようやく、相手の意図していたことを知ったエリスだったが、内心かなり複雑だった――なぜなら彼、本物の精子なら一度見たことがあったからだ……そう、以前父親のサミュエルとお風呂に入った、あの夏の『苦い思い出』の日である……。ばつが悪そうに俯く彼……それを見たダニエルは、さらなる”先回り”を禁じ得ない――。
「えっ……も、もしかして……もう見たことあった?」得体の知れない恐怖を感じるダニエル。今ここにいるエリスが間違いなく『ヴァージン』であることは、彼の反応や態度、あと”身体の状態”からも疑いようがなかったが、これほどの美少年なので、これまでどこかで誰かに”イタズラ”をされていても、おかしくはないと思ったのである(ギクッ……)。
『も、もしエリスがそんな目に遭っていたら……』つい弱気になってしまうダニエルだったが、幸い相手は断固として否定してくれる。
「う、ううんっ! 見たことないよ!」小さな嘘、とは言い難かったが、エリスはそう答える他なかった。だって言えるはずがない! 『以前お父さんとお風呂場でエッチなことした』だなんて……ましてや『誘ったのは自分の方』だなんて! これはいろんな人を守るために吐いた、『必要悪的な嘘』なのだ。
「そっか……ごめん、変なこと聞いちゃって」ひとまず安心するダニエル。彼はこうも邪推していたのだ――恋人をあれほどまでに苦しめてる『ジンクス』の元凶が、よもや彼の家族や友人、それか”他の誰か”なのではないか? と……(ギクギクッ……)。だが違うとなってくると、やはり、さっきパンツを拒絶されたのは『自分の性的魅力のなさ』のせいだと、解釈せざるを得なくなるわけで……(どうにも複雑な男心だった)。
引き続き哀愁を漂わせて、下着をワシャワシャしていくダニエルを見て、何か”助け舟”を出さないとな、と思ったエリスが、ついに持ち前の『想像を絶する優しさモード』を発動させる――。
「えっと……さっき少し動揺してたのはね? その……君のおチンチン(ごにょごにょ)が、想像以上に大きくて、逞しかったから……本当に僕のお尻に入るのかなぁ、とか考えてたからで……」エリスが静かに”陳述”し始めると、ダニエルが洗濯する手を止め、水道水を弱めて聞き耳を立ててくる――しかもそれだけではなく、彼の萎んでいたペニスまでもが僅かに首をもたげて、聞き耳を立て始めたのだ!
そのサインを見逃さなかったエリスが(どこ見て話してんねん!)、先ほど彼氏がしてくれた”陳謝”に負けないほどの、”開陳”を行っていく(もうチンたらしてないで、とっとと本番書けや! んなことしてたら他のダブル・クォーテーションのところも、全部下ネタに見えるやろがい!)。←チンピラが何か言ってる。
「……そんなとき、いきなり君がパンツを渡してきたから……思わず反射的に、断っちゃったんだ……ごめんね、君の気持ちも考えないで……」深沈と雪隠(便所のこと)の脇に鎮座したまま、沈鬱した相手の心を鎮撫していく彼……(陳腐な言葉遊びばっかしてんじゃねぇ! も、申し訳ありません読者様! 相方がチンプンカンプンなことばかり言ってしまって……こいつには後でキチン言い聞かせておきますので、ちょっとした珍談だと思ってお許しをっ!)。
読者様の気持ち『カッチーン……』
だが一方で、失意に沈んでいたダニエルの心は、順調に再浮上しているようだ――彼の股間がさらに長くアンテナを伸ばしていき、これから発信されるかもしれない『重要な電波』の受信に備えるている! そしてそれを確認した”ラジオ・パーソナリティ”は、『もう少しでリスナーの心を掴めるかも』と、とっておきのボイス・サービスを提供するのだ(なぜ彼らは揃いもそろって、ペニスを感情のバロメーターみたいに考えているのか……)。
エリス「でも、これだけは信じてほしい! 僕だって君の『彼氏』だもん――当然君のこと『魅力的だ』って思ってるし、今だってホントはね? 君が『射精してくれてたんだ』って実感が少しずつ湧いてきて、どんどんどんどん嬉しくなってるんだ……だからっ――」そこで両脚を開いて、己の恥部を余すところなくさらけ出した彼が、色っぽい顔と声とポーズで、渾身のセックス・アピールをするのだった。「君の精液……あとでたくさん見せてほしいな♡ なんて……」
ブシャァァァァァァァ――(すみません、鼻血出ました)。え、エリス……なぜあんな大胆なことを……未だかつて彼が、あんな”あざといやり方”で、他者のご機嫌取りをしたことがあっただろうか……もうヴィジュアルがすごすぎて、全然ラジオとは呼べない代物に……(※ただし、ダニエルは頑なに自分の手元を見ているので、彼にとってはまだラジオの体を保ってる)。
だがどうもエリス、それもこれもダニエルを想ってしたことのようだ――ちょうど彼の心の声を受信できたので、皆さんにもお伝えしよう。ジャミジャミピッ――。
エリス・ラジオの受信音声『うひゃぁぁぁぁぁ恥ずかしいぃぃぃぃぃっ!! でもダニエルが元気になってくれるなら、これくらいっ……けどやっぱり恥ずかしいよぉぉぉぉぉっ!!』
大分テンパってるようだ(笑) さぁて、これを受けリスナーがどう出るか、見ものである――ちょうど水道の水を止め、下着を固く絞って洗濯機へと放り投げた彼が、一旦ラジオの方へと目線を寄越しては(この瞬間、ラジオはビデオとなる)、またつまらない日常へと戻っていくかに思われた……がしかし! 次の瞬間には彼、アンテナをギンギンにおっ勃てたまま、その”AVオトコの娘男優”のところへとダイヴするのだった――。
「エリスゥーッ♡」※やはりビデオの登場はラジオスターを殺してしまうようです。
「わっ!」恋人に抱きつかれて、懐で甘えられ始めたエリスは、最初こそ『これでよかったのかなぁ?』と言うような顔をしていたが、やがて『ま、いっか!』と開き直っては、幸せそうに恋人の頭を撫でていくのだった。よしよし、いい子いい子……ホントにさっきはごめんね、ダニエル――。
これにて一件落着! あ、めでたし、めでたし――じゃねぇぇぇぇぇぇ! 全くぅ……付き合い始めて早々、痴話喧嘩なんぞするでないわ……君らにとっては些細な時間でも、私にとってはかなり骨を折る文字数なんですぞい……(それはお前の書き方が悪い)。
エリスの高校生活㉗ ただいま、おかえり、初体験(契約不正履行!?編)
と言うわけで、仲良くシャワーを浴びることとなった二人。狭いシャワー室では今、支え、支えられる恋人たちが、共に温かな湯を頭から被りながら、一日の汗と涙と体液を洗い流している。そうしてしばらくは、”ただ気持ちいい”だけの時間が続いていたが、好き合う者同士が裸で密着していて、このまま平穏に済むはずもない――すぐダニエルの左手が、エリスの身体を這いずり始めるのだ。
「ひゃんっ……」恋人の手が左乳首を掠っていき、思わず甘い反応を漏らしてしまうエリスだったが、まだ頃合いじゃないとして彼は、それを咎めるのだ。「だ、ダニエル……? 今はやめよ? ちゃんと身体洗わないと……」するとお相手が耳元で囁いてくる。
「だから、今洗ってるんでしょ……」彼の左手はそのまま腹部を南下していき、やがて観光名所と思しき”小さな突起物”に辿り着いては、それを優しくマッサージし始める。「あれっ? これ何だろう……? すんごくヌルヌルしてる……エリス、何だか分かるぅ?」この迷惑行為に対しエリスは、「し、知ってるくせに……」と恥ずかしそうに顔を背けるだけだ。これを面白く思ったダニエルが、さらなる追及を行っていく。
「まぁ、そりゃね……僕にとっての『世界遺産』だし……」言いながら彼の左手が、クチュクチュと亀頭のヌメリを落していくも、”原因”が先っぽから次々と溢れ出してきて、とても収拾がつきそうもない。「けど、さっきまでこんな”ツンツン”してなかったと思うけど? もしかしてエリス……触られるの、期待してた?」
「そ、そんなこと……」目を瞑って、無心を心がけるエリス。このまま弄られ続けたら、またすぐにイッてしまいそうで……できればそれは避けたかった……これからの『初体験』を大切にする意味でも……。
「じゃあどうして、こんなに”ツンツン”しているの?」俄然、攻撃の手を緩めないダニエルが、性懲りもなく意地悪な質問を続けると、相手は小さく喘ぎながら「だ、だって……君の、が……”当たってる”から……」と返してくる。そう……今やエリスの背中から腰に掛けてのカーブには、同じくヌメヌメになったダニエルのペニスが、脈動しながらピタッと張り付いているのだ。そんな状況下で無心を貫くなど、土台無理な話――彼の研ぎ澄まされた神経は、否が応にも”前と後ろ”に注がれ続けるのだ。
すると突然、どういうわけか”前の刺激”が終わり、相手の左手が”定位置”へと戻っていく。しかしエリスがホッとしたのもつかの間、また左手が脇に挟み込まれたところで、事態が一変する――。
「”僕の”って――フッ――これのこと?」突如、エリスの身体が宙に浮き、驚いた彼が目を見開いて状況を確認すると、眼下には衝撃の街並みが広がっていた――何と、世界遺産にも登録されていた”小さな電波塔”のすぐ傍に、新しく”巨大なランドマーク”が建設されているではないか! あまりに一瞬の都市開発に、原住民は戸惑いを隠しきれない。
「だ、ダニエルッ……下してっ……恥ずかしいよっ……」必死に抵抗するエリスだったが、動けば動くほどに、股に挟み込まれた肉棒の熱が伝わってきて、脳内がリビドーに支配されていく……。どれどれぇ? せっかくなので、彼の思考を『脳内メーカー(昔流行ったWebサイト)』で見てみましょう! えっと『エリス・シンクレア』っと……出ましたっ! 結果はこちらっ!
『愛・欲・愛・欲・愛・欲・愛・欲』
すごい! 見事なまでの愛欲四連コンボッ! これはダニエルもさぞ嬉しかろう!(ランダム生成でこれは……) スタジオからは以上です。それでは映像、現地中継にお返しします。ピッ――。
「フフッ、おチンチン二本生えちゃったね……? 可愛い……」そう言ってダニエルが、目の前にある相手の背中をペロリと舐めると、エリスが「はんっ♡」と言って首を反らせる。全身の感覚が研ぎ澄まされていて、今や上から降り注ぐシャワーでさえも、打ち付ける滝のごとく性感帯を刺激していた。な、何コレ……シャワーの水流だけで、乳首とおチンチンが、こんな……こ、このままじゃダメッ! 早く下ろしてもらわないとっ――。
㋓「ねぇダニエル! 僕たちもう、綺麗になったと思うよ? そろそろ二階に行かない?」
ダ「だぁ~め♡ まだ綺麗になってないところも、あるでしょ? ほらっ、君の『二つ目のおチンチン』……ちゃんと洗ってくれる?」
㋓「えっ? でも……」
ダ「お願いっ♡(背中ペロッ)」
㋓「(快楽に悶えてから)分かった! 洗うよ! 洗うけど……その前に下してくれないと……君だって”このまま”じゃ、重いでしょ?」
ダ「全然。僕、このために鍛えてるから(割と本当)」
㋓「で、でも君、大分長い間入院してたじゃん? その分前よりは筋力落ちてるだろうし、あんまり無理しない方が……」
ダ「大丈夫だってぇ~♪ 君、すんごく軽いから! 筋力落ちてるのはお互い様だし、君に関しては右脚の分も軽くなってるもんね!」
㋓「そ、そぉだけど……」
ダ「ね? だから安心して洗って? ちゃんとおチンチン二本とも綺麗になったら、下ろしてあげる♡」
㋓「も、もう……分かったよ……(ダニエルのイジワル……)」
こうして、彼氏からの無茶ぶり注文を受け、宙に浮いたまま仕方なく、左手を股間へと向かわせるエリス……まだ彼は『手で”本物の男根”に触れた経験』がなかったので、内心すごく不安だった。うぅっ……今から僕、ダニエルのおチン……に、触っちゃうんだ……とにかく、さっさと済ませちゃおっと……早くしないと、もうっ――。
そして彼の手がダニエルのイチモツを捉える。ピトッ――。途端に跳ね上がるペニス――エリスの手の平に、精液でヌルヌルになった亀頭がピタンッと当たる。その感触だけエリスの突起も跳ね、二つは『本当に彼の物である』かのように、脈動をシンクロさせるのだ。
それからクニクニと指を動かし、そこに付いたヌメヌメを取っていくエリスだったが、まるで『本当に自分のペニスを弄っている』かのような錯覚に襲われ、気づいたときには乱れた手つきで、激しいマスターベーションを始めてしまっていた。
「あっ、あんっ♡……だ……だにえ、りゅ……何だか僕……へ、ヘンッ……あっあっ――」無論、扱いているのは相手のペニスだが、その左手からダイレクトに伝わってくる卑猥な形状と、ポジションから来る錯覚とが相まって、彼の理性は崩壊寸前のところまで来ていた。「へんにゃ、きぶんに――んっんあっ♡――にゃっちゃった……」
一方ダニエルも、ここまでの激しさは予想外だったようで、断固としてその刺激に抗いながら、なおも毅然とした態度を貫いていく。「え、エリス……(ふっ)……さすがにもう、綺麗になったんじゃない……?(ふっ、くっ) そろそろ、やめていいんだよ……?(うはっ、おっ♡)……下ろしてあげる……」
㋓「(シコシコしながら)とっ……とまんにゃいっ……」
「くっ、エリスッ――」絶頂の出口が見え始めた寸前、ダニエルが無理やり相手を下ろして、行為を中断する。だがそれも、次なる行為への進展でしかない――彼の理性という名の要塞も、お隣さんの陥落に巻き込まれて倒壊したのだ。相手を壁に押し付けては、そのケツにペニスを突き立てていく彼。「君が……悪いんだからな……君が、こんなにもエロすぎるからっ……」穴の入り口と亀頭の先っぽが触れ合い、ピトッ、ピトッとライト・キスを繰り返していく。やがてペニスがベクトル方向への進行を開始し、前方の固く閉じた肉壁を強引に掘削し始める。
「だにえ、りゅ……」エリスが乱れた顔で振り向いてくる――その焦点の定まらない目を見つめた途端、”掘削機ダニエル”のストッパーが作動する。そう……まだ相手の了承を得てないタイミングで、しかも一度も慣らしていない”地盤”に対して掘削作業を開始したことで、彼のなかにあった最後のフェイル・セーフ機構が働いたのである。
ダニエルの思考回路『止まれっ、僕っ! ホントに初体験がこんなのでいいのか……? シャワー室で、立ったまま、潤滑剤も使わず、バックで……? それにエリスはまだ、受け入れる準備さえできていないんだ……こんなのが初めてで、いいはずがないっ――』
何とか”ドリル”を後退させた彼は、そのまま相手の耳元で「ごめんっ、まだ洗ってないとこ、あったね……」と囁いては、しゃがみ込んで相手の”未開拓地”を真ん前に見据え、意を決して開拓準備に取り掛かるのだった――まず彼は、舌を使って庭園の入り口まで続く一本道を、ペロリと舐め啜っていく。その後で舌を入り口に捻じ込んでいき、限界まで伸ばしきったところでクニュクニュと動かし、ゆっくりと引き抜いていく……そうして最後、彼がシャワーの湯を口に含んで、クチュクチュペッと”うがい”したところで、開拓準備完了である。
立ち上がり、シャワーを止めたダニエルが、傍でフルフルと震えているエリスに肩を貸しながら、「さっ、二階行こっか」と小さく呟くと、エリスは無言で顔を伏せたまま、コックリと頷くのだった。
エリスの高校生活㉘ ただいま、おかえり、初体験(最高の契約履行編)
そうして、身体と髪をタオルドライしてから、二階のダニエルの部屋へと戻ってきた二人。早々にベッドへと倒れ込み、疲労の色をあらわにするエリスに対し、ダニエルは持ってきた『アロエジェル』の蓋を開きながら、ベッドの上で無防備な姿を晒す恋人へと、熱い視線を送っている。
「いろいろとごめん……疲れたよね……? もし、この先に進むなら、もっと疲れるかもしれないけど……どうする?」そう言いながらダニエルが、ジェルを指に取って、ニチャニチャと全体に纏わせていくと、恋人がのっそりとベッドから這い起きては、こちらを向いて優しく微笑んでくる。
「ううん……大丈夫っ。僕の方こそ、待たせてごめん……でも、これでやっと、心置きなくエッチできるね?」そんな可愛いことを言われて、ダニエルと彼のペニスが悦ばないはずがない――嬉々としてベッドに飛び込み、恋人を押し倒していく彼。待ちに待った開拓作業が、今始まる――。
「それじゃあ、お尻の中、ちょっとほぐしていくから……君はその間、こうして開いた状態で、両脚を抱えててくれる?」ダニエルが相手の脚を持ち上げてから、そうお願いすると、相手は「うん、分かったっ」と快く従ってくれる。伴って、ご開帳する恋人の”ひめゴト”を覗き込みながら、満を持してダニエルはそこに、右手の中指を挿し込んでいくのだった――。
するーんっ。ジェルの助けもあり、中指はすんなりと吸い込まれていく。ただ、ある程度進んだところで、秘密の花園が侵入者を検知する――半ば自動的に括約筋が収縮し、彼の指が締め付けられるのだ。
「エリス、大丈夫だから……リラックスして」彼が優しく頭を撫でると、恋人は苦しそうに悶えながら、「う、うん……」とお腹の力を抜いていく。ようやく解放された指を進め、付け根のところギリギリまで侵入したところで、指を折り曲げて、腸壁をマッサージしていく。確か、前立腺はこの辺りに(クニクニ)……うーん、手触りだけじゃ分からないな……やっぱりエリスの前立腺は、発達してないのかも――。
「エリス……少しでも気持ちよかったり、する?」ダニエルがマッサージを続けながら尋ねると、前方の男の娘が突起をピクピクさせながら、こう答えてくる。「わ、分かんにゃいけど……にゃんか、ふわふわした感じ……」直接的な快楽を得られているかは定かではないが、少なくとも痛くはないそうだ。ふわふわした感じ、か……よしっ、今はそれだけで充分だ――。
「それじゃあ、今からもう一本指を入れて、本格的にほぐしていくから、痛かったりしたら言ってね?」そう言うと彼は、一度中指を庭園から引き抜き、再度ジェルを塗り付けてから、人差し指とともに再突入させていく。ぬるーんっ。今度も楽々入っていき、トラップすら作動しないまま最奥まで来れた。
そこから指を――ピース・サインを作るように――横に開いていき、腸壁の緊張を解いていく彼……ある程度やったら、今度は指を交互に折り曲げて、お腹側をも揉みほぐしていく……。その最中、庭園内の指人間が足踏みするたびに、エリスの突起は歩数カウントするがごとく跳ね、甘い蜜を垂らすのだ……(今日の目標は、とりあえず各面”二十歩ずつ”である)。頑張ってね、エリス……これが終われば、いよいよ僕たち、繋がれるからっ――。
*
やがて全てのノルマを達成したところで、ダニエルが指を抜いていく。ヌポッ……。するとどうだろう――指人間が去っていったのがよほど寂しかったのか、庭園の入り口はそれからも物欲しそうに、クパクパと開閉を繰り返しているではないか……。それを見て、準備が整ったことを確信した彼が、「終わったよ、エリス……お疲れ様」と言って、しばらく見ていなかった恋人の”容態”を確認する――。
するとそこには、トロンとした顔で呆けたまま天井を見つめている、『見たこともないほど陶酔した様子の恋人』がいた。彼はダニエルからの「大丈夫?」という質問に対し、「ふぇっ?」と反応した後、すぐに「うぅん……だいじょぶそう……」と答えてくる。となれば、このあとやることは、ただ一つだ――。ダニエルがベッドで正座してから、改まって感謝の気持ちを伝え始める。
「エリス……ここまで付き合ってくれて、ありがとう……君がいたから僕は、ここまで生きてこれたような気がする――”あの昏睡”からも、戻ってこられたような気がする……本当にありがとう」
するとエリスが飛び起きて、こう返事する。
「そんな! お礼を言うのは僕の方だよ! 君が生きててくれたから、僕はまだ笑えてるんだ――人生の喜びを、感じられてるんだよ? ダニエル……」途端に溢れ出してくる涙を拭って、彼が続ける。「だから何度だって言うよ! 生きててくれてありがとう……生まれてきてくれて、ありがとうっ! ダニエルッ!」
「エリスッ――」思わず相手を押し倒し、激しく唇を奪ってしまう彼。この味、この匂い、この感触、この愛……何度交わしても変わらない。僕は君が好きだっ、エリスッ――。そして口づけを終え、ダニエルがゆっくりと頭を上げたとき、一生に一度の宝物のような瞬間が訪れるのだ――。
「君のヴァージン、僕が貰うね?」
「はいっ……お願いしますっ……」
こうして、二人を阻む全ての障害は取り除かれた……今、実に9ヵ月強という長き時を超え、ついに彼らの愛が一つに繋がるのだ――。
「それじゃあ、入れるね?」
「うんっ……」
ダニエルのペニスが、ゆっくり慎重に、エリスの肛門を突き開いていく。ちゃんとマッサージの効果は出ているようで、特に抵抗なく腸壁が道を譲ってくれる。ダニエルとエリスは、互いに見つめ合ったまま、この大切な瞬間を余すことなく記憶に刻み付けている――途端に思い出されるのは、あの『いつしかの放課後』の、楽しくてドキドキした思い出……あの日始まった小さな恋の物語が、時を経るごとに少しずつ育まれていき、今日やっと成就するのである――。
そして、二人は繋がった。「痛くない?」とダニエルが言うと、「痛くないよ」とエリスが微笑む。「ゆっくり動かしていくね?」とダニエルが微笑み返すと、「うんっ、お願い」とエリスが目を閉じる。
そうしてダニエルは、まずペニスをゆっくりと引いていき、出口付近まで来たところで一度止まり、再度ゆっくりと奥へ突いていく。ペニス全体がほどよい圧迫感に包まれていて、とても気持ちがいい――だが何よりも、『自分が今エリスの中にいる』という事実こそが、最高の快楽を生んでいた。とても早くなど動けない。意識しただけで、イってしまいそうなほどだった。
え、エリスはちゃんと気持ちいのかな……できるだけ前立腺の辺り、しっかり刺激してあげたいな――。それからもしばらく動いていると、ふとエリスの目から涙が零れ落ちたのに気づいて、ダニエルが動きを止める。
「ごめんっ、痛かった?」彼が尋ねると、相手はフルフルと首を振って、ただ「嬉しくて……」とだけ返してくる。これにはダニエルも目に涙を浮かべ、「僕も嬉しいよ……」と返すしかない……全身が感動で、打ち震えていた……。
すると相手が、目を開けてこう伝えてくる。「僕はもう大丈夫だから……君の好きなように、動いて……」この言葉が、ダニエルのリビドーを解放する――。「それじゃあ、少し強めに動いていくねっ――」パンッ! 肉を打つ音が響く。かと思えばもう一回。パンッ! そしてそれからも幾度となく、ダニエルの鼠径部とエリスの臀部とが衝突していくのだ。パンッ、パンッ、パンッ!
ダニエルは抜くときは真っすぐ、突くときは腹の裏側を突き上げるようにして突いた。できるだけエリスが気持ちよくなれるよう、前立腺の辺りを抉るイメージで動いたのだ。そして努力の甲斐あってか、少しずつエリスの口から、エッチな声が漏れ出してくる。「はっ、やんっ、はんっ♡」まだ緊張からか、声を押し殺している節もあるが、ちゃんと何らかの快楽は得られているようだ――俄然、張り切って突いていくダニエル。パンッ、パンッ、パンッ!
そして1分後、エリスが泣きそうな顔をして、こう自己申告してくるのだ。「ダニエル……僕っ……もうっ……」彼の状態は、ダニエルにも分かっていた――突くたびドロドロのトコロテンが、エリスのペニスから溢れ出していたからだ。だがタイミングはバッチリだった――ちょうどダニエルの方も、限界に近かったのである。となればあとは、二人同時に絶頂できるかどうかだ――懸命に爆発を堪えながら、ダニエルがエリスの左手を握り締める。
「うんっ、僕もっ、そろそろっ……。もしイきそうになったら、僕に教えて……スパートかけるからっ――」パンッ、パンッ、パンッ!
するとエリスが苦しそうな顔をして、ダニエルの右手を握り返してくる。
「じゃ、じゃあ……もうっ、お願いっ――」
彼の言葉を聞き、ダニエルが爆弾の導火線に火をつける。「オッケー! なら行くよっ――」パンッパンッパンッパンッパンッ――。火花が導火線を燃え進み、やがて火薬へと到達するっ――。「エリスッ、好きだっ! エリスッ――」そして火薬が爆発し、何もかもを吹き飛ばしていく。「イグッ――イッ――ぐっ――うっ――あっ……」
エリスの火花も迸る。「ダニエッ――んあっ――イッちゃ――あぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
ビューッ、ビューッ、ビューッ――。ダニエルの精子がエリスの中に注ぎ込まれていく。初セックスで見事同時イキを達成して、中出しで種付けまでできた喜びは、何事にも代えがたい最高の体験だった。当然、その快楽も強烈……強烈すぎて、怖いくらいだ……エリスの方はどうかと言うと――。
彼も意識が飛ぶ寸前だったようだ……大きく胸を反らせたまま、口を開けてビクンッビクンッと痙攣している。全く……いったい二人して、今日だけでいくつの実績を解除したのか……だが若者たちの有り余るエネルギーからすれば、こんなものはまだ序章にすぎなかった――。
ペニスを引き抜いたダニエルは、途端にエリスのお尻から零れてくる自分の精子を掬い取っては、それを自らのペニスに付けてから、エリスの目の前に掲げるのだ。「ほらっ、エリス……君が見たいって言ってた、僕の精子だよ……よかったら、舐めて……」
すると迷わず起き上がり、四つん這いになったエリスが、彼氏のペニスをペロッと舐め、そのままフェラチオを始めてしまう。正しいやり方など何一つ知らない、拙くも初々しいブロウ・ジョブである。最初、棒の周りにキスしたり、睾丸をハムハムしたり、陰嚢を甘噛みして引っ張ったりしていた彼は、やがてその小さな口いっぱいに竿を咥え込み、軽快に搾乳を始めてしまうのだ。
「歯を立てないようにね……そう……気持ちいよ」そう言いつつダニエルが、エリスの下半身を覗き込むと、彼が夢中で自分の物をシコシコしているのが確認できる。ダニエルは嬉しかった。まさか好きな人から口でしてもらえるだけでなく、オナニーまで見せてもらえる日が来ようとは!(しかも感じている顔を、間近で堪能しながらだ!) 思わずイタズラ心が再燃してしまう彼。「あれれ、エリスゥ? 僕のを咥えながら、何してるのぉ? まさかとは思うけど、自分で気持ちよくなっちゃってるんじゃ、ないよねぇ? ちょっと、よく見せてっ――」
ダニエルがエリスの上半身を持ち上げると、彼がベッドに尻もちをついて、恥ずかしいところを全部おっぴろげる。その最中にも彼は、ペニスを扱く手を止めようとしない。それどころか彼、もう一方の手で乳首まで弄り始めてしまうのだ。もう完全に理性を破壊されているようだ。
「ねぇエリス……全部見えちゃってるよ……君のエッチな姿、全部……」相手の恥じらう顔を覗き込んでは、言葉攻めを続けるダニエル。まさかあの、どこまでも純粋で優しくて、遠い遠い憧れの存在だったリアル男の娘の、これほどまでに乱れ切った姿を見られるとは……ダニエルは感無量の思いだった。「エリスのエッチ♡」
㋓「ごめんにゃしゃいっ……でも、とまんにゃくてっ――きゃんっ、やっ――み、にゃいで……」シコシコ、カリカリ……。
ダ「ねぇエリス……そんな、わざわざ自分だけでしなくたってさ……せっかく僕がいるんだからさ……気持ちよくなりたいなら、素直に”おねだり”したら?」そう言って彼が反り立ったペニスを掲げると、エリスが震えながら自慰する手を止め、一心不乱にそれを見つめてくる――次の瞬間、彼はダニエルの方にお尻を突き出しては、精一杯の猫撫で声で、こうおねだりしてくるのだった。
「もしよかったら、君のおチンチン……もう一度、ちょうだいっ♡」
猫エリスの呼びかけに、ご主人様が呼応する。
「よくできましたっ――」(ソフィーが見たら、どう思うか……Part2)
こうして第二ラウンドが始まる。今度はバックからの獣交尾スタイルだ。野生の本能に従い、ダニエルが後ろからマウントを取っては、己のものを深く突き刺していく。途端に悦がる口に左手の指を捻じ込ませ、右手で乳首を強く愛撫してやると、このケツマンコは信じられないほどキツく、締め付けてくるのだ……(ハァ、ハァ、ハァ)。後で後悔するとは分かってる……恋人を乱暴に扱ったと、嘆くことになると分かってる……だけどっ――。
こんなエロい身体を前に、理性なんて何の意味もねぇぇぇぇぇぇ!!!(ダニエル、野生に還る) 男の娘は最高だっ、最高だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 僕がぶっ壊すっ! ぶっ壊すぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!(そ、ソフィーが見たら……以下略)
「だにえっ――りゅっ(あんっ♡)――ちょっと(ひぎっ)――はげしっ――」相手がスローダウンを求めてくるも、そう言う当人の言動からして一致していない――エリスはこの期に及んでまだ、ものすごい勢いで”自家発電”を繰り返しているのだ……そう、言うなればこれは……『高らかにオナニー』状態である! 当然そこに食いつくダニエル……『あんたナニしてんでしょ?』とツッコんでいくのだ――。
「あれれぇ~? ダメじゃないかエリスゥ~(ハァ、ハァ)。せっかく僕がしてあげてるのに、まだおチンチン”シャカシャカ”して遊んでるのぉ~?(ハァ、ハァ)」
”痛い”ところを突かれたエリスは(語弊がありすぎる)、上からも下からも唾液を垂らしながら、ただ呂律の回らない舌で謝罪を繰り返すことしかできない。「ごめん――ふわっ――しゃいっ――わりゅいこで――んぐっ――ごめんしゃいっ――」
「そんな悪い子には――ハァ、ハァ――お仕置きだっ(代々語り継がれてきたセリフ)――」パンッ! ジョッキーが愛馬の臀部に鞭を打つと、愛馬は「ひんっ」と嘶いては、ケツ穴を締め付けてくる。さらにもう一丁っ――。パンッ! ははっ、すごいぞ! 加速する……快楽が、加速するっ――。
「ほらっ、ラスト・スパートかけるよっ!!」ダニエルがエリスの背に覆いかぶさり、両方の胸を揉みしだきつつ、乳首をコロコロと転がしていく。エリスのちっぱいAカップも、仰向けの状態ではなかなかの揉み心地だ。彼が悦んでくれてるのも伝わってくる。となれば後はまた、二人であのゴールを目指して、全力で突っ走ればいいだけだっ――。
その瞬間、ダニエルの脳裏に一つの懸念が浮かび上がる。先ほどエリスから聞かされた『ジンクス』のことである。さすがにあり得ないとは思いつつも、ここまで好き放題”肉欲”を貪ってしまうと、本当に後で”ツケ”が回ってくるのではないかと、思えてくるから困ったものだ……。
『も、もしこの後、本当に何か悪いことが起こってしまったら……僕は一生エリスから、悪役だと罵られることになるのかもしれない……それならいっそのこと、この辺でやめにしといた方が……』つい弱気になる彼の心に、ひと筋の光明が差す――エリスが杖にしていた腕を曲げ、ベッドに顔を突っ伏しては、甘く呼びかけてきたのだ。「だにえりゅ……だにえりゅぅ……♡」
それを受け、彼の闘志が不死鳥のごとく蘇る。
『そうだ! エリスは僕を信じて託してくれたんだっ!! だから僕の未来は悪役なんかじゃない……英雄だっ――』彼は間一髪のところで、エリスの右脚を持ち上げては、身体をひっくり返して落馬を逃れる――。
「エリスッ、気持ちいかい!? ”おまんこ”気持ちいかいっ!?」正常位に戻ってなお、ダニエルが全身全霊で突いていくと、エリスは蕩けそうな顔と声で、「ちきゅびも……おちんちんも……おみゃんこも……じぇんぶじぇんぶ、きもちよしゅぎてっ……おかしくにゃるっ……」と返してくる。
対してダニエルが、「僕のチンポは好き? ずっと欲しくて堪らなかった?」と聞くと、彼は「しゅきっ……だにえりゅのおちんぽっ、しゅきっ! じゅっとじゅっと、ほしきゃったっ!」と赤裸々な思いを吐露してくる。
最後にダニエルが、「僕も君のおまんこ欲しかった……ずっとずっと欲しかった! このまま一緒に逝こう? 誰にも邪魔されない天国へっ!」と言うと、エリスがゆっくり両手で顔を包み込んできて、こうお願いしてくるのだった。
「にゃら、”きしゅ”、して……」
騎手……? いや、『キス』である……。いったい今日だけで何度、彼らは唇を重ね合わせたことか……それでもやはり最後は、そこに戻ってくるのである……それこそが何にも増して、互いの愛を実感できる行為であるからして……。ダニエルは天界からの使者を見るかのように微笑んでは、いとも容易く返事するのだった。「お安い御用っ――」
相手の身体を持ち上げて、騎乗位に切り替えたダニエルは、そこで待ち受ける天使との、再会の口づけを交わし始める。そして交わした傍から、全てが溶けていく……過去も、未来も、現在も……全てのしがらみ、全ての因果関係を超えた先に見える、唯一絶対の光っ!!! 本当の真実!!!
『僕はこの子と出会うために、生まれてきたんだっ!!!』
「エリスッ!!! 好きだっ!!! 君とともに、僕は逝くぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――」
「僕もイっちゃうっ!!! ダニエルゥゥゥゥゥァァァァァァァァァァ!!!」
バチィィィィィ、バチィィィィィィ、バチィィィィィィィィィィィィィンッ!!! 彼らの体内で、途方もないエネルギーが解き放たれる。その光を見た者、全てをあの世へと旅立たせるほどの、凄まじい大爆発。圧倒的エントロピーの増大が、全ての生物を昇華させ、大地を焦土と化していく。そして火山が噴火する――エリスがペニスが盛大に潮を”噴いた”のだ。
プシャァァァァァァァァァァァァ!!! 朦朧とした意識で天井を仰ぎ、自ら噴射させた体液を浴びるエリス……あ、危なかった……本当に気絶する寸前だった……。彼はそのまま後ろに倒れ込み(ダニエルとの接続が切れる)、ベッドの上で痙攣を繰り返すのだ。今回の絶頂は”過去イチ”ヤバかった……もう彼自身、何が起こったのかも分からないほどに……。
一方ダニエルも崩れ落ちる。精巣のタンクは完全に空になり、文字通り精も根も尽き果てたかたちだ。何とかエリスのいる枕元へと這っていくも、途中で力尽きて倒れてしまう。できることはただ一つ――囁き声で相手に呼びかけるだけだ。「エリス……生きてる……?」すると相手が同じ調子で応答してくる。「うん……何とか……」
続けてダニエルが、呼吸を整えながら「す、すごかったね……」と言うと、相手は「うん……すごかった……」と半オウム返ししてくる。
最後に彼が「ただいま(Je suis rentré)、エリス……」と改まって再会の挨拶をすると、相手は新妻のような優しい声で、「おかえり(Bon retour)、ダニエル……」と返事するのだ。
そして二人は幸せな気持ちのまま、眠りに落ちるのだった……。
*
「ダニエル……エリス……二人とも起きなさい……」
優しい声に導かれるようにして、二人が目を覚ますと、何とそこには、ダニエルの母『ウェンディ』の姿があった。あれっ? どうしてダニエルのお母さんがここに? 眠気眼を擦りながら、エリスがそう思ったのもつかの間――もうすっかり外が暗いことに気づく! あれからどれくらい経ったのか? いやそもそもとして、あの時点で何時だったのか……とにかくもう日没時刻を過ぎてしまっているようだ。
だが、それだけならまだよかった――エリスが重大な過失に気づく! ん? ”あれから”ってことは……ま、まさかっ――。瞬時に自分たちの”身なり”を確認するも、当然そこには一糸纏わぬ素っ裸の自分たちが! しかも片や自分は、お尻から精液を垂れ流しているのだ!(外に出て時間が経ったのはカピカピになってるけど) もはや言い逃れ不可能なほどの、圧倒的”事後感”! エリスは顔を真っ赤にしたまま「こ、これっ、これはっ……」と、取り付く島を探し始める。
するとウェンディが微笑んで、こんな言葉をかけてくる。「いいのよ。言い訳なんかしなくたって……安心して、私は怒ってないから――むしろその逆……やっとあなたたちが結ばれたってことが、嬉しくて仕方ないくらいよ……」エリスは混乱を隠し切れない。へっ? へぇぇぇぇぇぇぇ!!?
彼の顔芸を余所に、部屋の出口へと向かっていくウェンディ。「でももう遅いから、気を付けて帰ってね? あっ、あと――」ドア前まで来たところで、彼女が振り向いてこう続ける。「あなたたちを最初に見つけたのは、私の『母』だから、帰るときはどうか、彼女には見つからないようにね? 彼女、大分ご立腹みたいだったから……『最近の若いモンは性に奔放でけしからん』とか何とか、お小言を食らうのが関の山よ? それじゃあね――」ガチャン。
ドアが閉まった後も、エリスは顔芸状態で固まったままだった。えっと……てことは、つまり……僕たちが裸で寝ているのを発見したダニエルのお祖母ちゃんが、手に負えないと思って娘のウェンディさんに任せたってこと……? それって、要するに……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
*(ほどなくして)
ズーン……。エリスは裸のままダニエルの部屋の片隅で、体育座りをして不貞腐れていた。そんな哀れな恋人に対し、ダニエルは服を着ながらお気楽な態度で、「そんなに落ち込まないで? お祖母ちゃんは別として、ママは全然気にしてなかったでしょ?」と励ますのだ(着替えはクローゼットの中から出した)。しかしエリスは、全く聞く耳を持っていない。「うぅ……もうこの家にいられない……」と嘆き続けている。
すると服を着たダニエルが、そんな彼の背中に抱きついてから、こう続けるのだった。「でもさ、考えてもみて? 僕たち今日、たっくさんエッチなことしたけどさ? その代償として起こった悪いことが、今くらいの些細なことなんだとしたらさ? やっぱり『ジンクスなんか嘘っぱちだった』ってことにならない? どう思う?」
この言葉に、エリスの沈んでいた目が、やや見開かれる。確かにそうだ……あのジンクスが、本当に自分が恐れていた程度のものだったのなら、まず間違いなく今回の違反は、大災害レベルの災厄を招くはずである……なのに、そうなっていないということは……この”賭け”は自分たちの勝ちなのかもしれない……。彼の目に涙が滲む。
「それとも……やっぱりまだ怖い? 僕を信じたこと、後悔してる?」ダニエルがそう尋ねると、傍の美少年は涙を流しながら振り向いて、こう答えるのだった。
「ううん……後悔なんかしてない……ひとっつもっ!」
こうして彼らの、長い長い水曜の午後は、終わりを迎えた。ジンクスという強大な――されども不確かな――敵を打ち負かすことができたエリスは、これからどんな人生を歩んでいくのだろうか……? 願わくば、この愛、この幸せ、この平穏が、いつまでも続きますように……。
第五十章 – 青春時代② 高校生活 Ep.37:夢、見つけたよ(蒼天(ル・シエル・ブルー)編 終)

エリスの高校休日㉚ 奇跡を告げる金属占い(モリブドマンシー)
これは、まだエリスとダニエルが結ばれる前のお話。時は約3カ月前、2042年1月11日(土)まで遡る。この日エリスは年明け早々、セラピスト『セリーヌ・オークレール』との三回目の――そして、予定されている限りでは最後の――セッションを迎えようとしていた。
予約していた午後1時きっかりに、エリスが父サミュエルとともに『心の診療所”ル・シエル・ブルー”』を訪れると、受付には相も変わらず無愛想なオーラを纏った受付嬢『ジャネット』がいた――ただし彼女、まだサミュエルに少し”フォーリンラブ状態”のようで、彼の来訪に気づいた途端、身なりと表情を引き締めるのだった。
サミュエルがいつものごとくヴァーチャル診察券と保険証を開示すると、ジャネットは恍惚とした顔でサミュエルを見つめたまま、「はぁい、確かに~♡」とバーコード・スキャナーを構えたまま、しばらく相手の左手に嵌められた結婚指輪を頑なにスキャンしようとしていた。
これに対しサミュが「あー、大丈夫ですか?」と尋ねると、ジャネットはようやく正しいスキャン対象を捕捉しては、「すみませ~ん、ちょっとボーっとしてました~」と仕事に取り掛かり始めるのだった。全く、『愛は盲目』とはよく言ったものだ……。
*
それからジャネットに、『もうセッションの準備は整ってるから、相談者はそのまま相談室へ入ってください』と言われたエリスは、約3週間ぶりに『心の間』を訪れようとしていた。去年謎の『箱庭療法ゲーム』を受けて以来の訪問である――。
ガチャ。彼が扉を開くと、室内で椅子に腰掛け、優雅に脚を組んでいたセリーヌが、笑顔で立ち上がってこう挨拶する。「あけましておめでとう、エリス!(Bonne année, Ellis!) いや~今朝は寒かったわね? 放射冷却ね? や~ねぇ?」いや、おばんかっ! 会って早々『気象』の話すなっ!
※ちなみに放射冷却とは、物体が熱エネルギーを電磁波として放射(熱放射)すること。地表は日中、太陽からの輻射を受けて加熱されているが、夜間は逆に放射することで冷却している。地表の放射冷却は、雲や風がない夜ほど顕著となる。スイスのレマン湖周辺は湿度が多いので、冬場は曇りがちなのだが、珍しく晴れると一気に放射冷却で冷え込む。
対してエリスは、小春日和のような温かな微笑みを浮かべながら、「ふふっ、あけおめセリーヌ。確かに午前は寒かったけど、午後はすっかり温かいね? フェーン現象だね? やったね!」と答え――って君もかいっ! 天気以外の会話の掴みってないものかね……。
※ちなちな、フェーン現象とは湿った大気が山脈にぶつかった際、『上昇→冷却→水蒸気が凝縮して雲や雨に→凝縮熱が発生し冷却に拮抗→やがて乾燥して下降→加熱→凝縮熱分が加算されて元よりも高温になる』というプロセスを経て、風下に温かな風をもたらす現象である。スイスはジュラ山脈とアルプス山脈に囲まれているので、この現象が起きやすい(よって現在、エリスたちのいる地域は真冬にもかかわらず気温は13℃もある)。
セリーヌ(エリスを椅子へ案内しながら)「えぇ、ホントにありがたいわ。暖房費節約でフェーン様様よっ!」
エリス(コートを脱いでコートラックに掛けながら)「うんっ! おまけにポカポカして気持ちいし! アルプス様様~」この部屋に入るのはまだ三回目だが、彼のリラックスした様子を見るに、もはや実家と遜色ない居心地の良さを醸し出しているようだ。
セリーヌ(元いた椅子に座りながら)「ささっ、座ってすわって! 早速セッションを始めましょ! いちおう今回が”ラスト”だから、できるだけあなたと話したいわ」
エリス(例の1stクラス的ソファーに腰掛けながら)「そっかぁ、これが最後なんだよね……何だか寂しいな」
㋝「そうね、確かに寂しいわ。でもそれは、『あなたが元気になった』って証拠でもあるわけだから、これは”嬉しい寂しさ”よ。そう思わない?」
㋓「そう、だね……うん! そう思う! じゃあ今日は悔いがないように、セリーヌといっぱいお話したいな」
㋝「ふふっ、もとよりそのつもりよ。それでぇ、クリスマスや年末年始はどうだった? 普段と変わりなく?」
㋓「うん。いつものように、家で家族と過ごしたよ。チーズフォンデュ食べたりして」
㋝「いいわね! 私もクリスマスは実家に帰って、母や親戚とチーズフォンデュを食べたわ。あと年越しは友人たち(全員、独身の女友達)と集まって、公園で花火したりもしたわ。あなたはニューイヤー花火はしたぁ?」
㋓「ううん、僕は毎年、遠くで誰かが打ち上げてる音を聞きながら眠るだけ。いつも22時には寝てるから、あんまり起きてられなくって(笑)」
㋝「なるほどね(笑) ごめんなさい、野暮な質問だったわ。慣習とは言え、あなたみたいな人たちにとっては、ニューイヤー花火なんて迷惑なだけよね?(わ、私たち大人の憂さ晴らしが、こんな幼気な子供の安眠を妨害してたなんて!)」
㋓「そんなことないよ! おかげで夢のなかでは綺麗な花火がたくさん見られたんだ! だから僕もいつか、家族や友達と花火して新年を祝いたいなって思ったよ?」
㋝「エリス……(い、いかん……もう涙腺が……)」
㋓「あっ、そうそう! 伝統行事と言えば、”あれ”したよ! あの、『モリブドマンシー(Molybdomancy)』! この前お父さんが突然買ってきて、『一緒にやろう』って誘ってくれたんだ(照)」
ここで恒例の予備知識ターイムッ――。
予備知識⑦ モリブドマンシーについて
モリブドマンシーとは、さまざまな形に鋳造された鉛や錫(融点の低い金属)のインゴットを溶かして行う占いのこと。ドイツ、オーストリア、スイスなどでは、新年に今年の運勢を占うために伝統的に行われており、ドイツ語圏では鉛を溶かすバージョンを『ブライギーセン(Bleigießen)』、錫の方を『チンギーセン(Zinngießen)』と呼んだりもする。ただし鉛は人体に有毒なので、最近はもっぱら錫や蝋(ワックス)で代用される(蝋のバージョンは『キャロマンシー(Carromancy)』などと呼ぶ)。
やり方としては、インゴットをスプーンの上に置いて蝋燭の火で炙り、完全に溶けたら水に落として、再度固まったときの形やその影などを見て、さまざまな解釈を当てはめていく。以下にその解釈の例を掲載しよう。
①形そのものから読む(伝統的な方法)
動物の形
・鳥:良い知らせ、旅立ち、自由
・魚:豊かさ、成功、流れに乗る、予期しないチャンス
・馬:力、前進、助けてくれる人、新しい車
・蛇:変化、注意、知恵
・蝶:変容、恋愛の進展
物の形
・鍵:新しいチャンス、秘密の解放、キャリアアップ
・船:旅行、移動、人生の転換
・家:安定、家庭運、安心
・指輪:結婚、契約、絆
・星:幸運、インスピレーション
・籠:豊作
・樹木:成長、家族の絆
・月:満月なら夢の成就、半月なら夢半ば、三日月なら夢の始まり
・サイコロ:賭博運アップ
人の形
・立っている人:自立、決断
・手を伸ばす人:助け、協力者
・二人の人影:恋愛、友情、協力関係
☆ちなみに溶かす前のインゴットの形にも意味があり、人生の特定の領域と解釈されたりもするが(例えば船なら『旅行中』など)、スイスなどで伝統的に行われるモリブドマンシーでは、主に今年一年の運勢を対象としているので、元の形状は無視されることが多い。
②固まる瞬間の“動き”から読む
モリブドマンシーでは、落ちる瞬間の”動き”にも意味がある。
・勢いよく広がった:エネルギーが外へ向かう、挑戦の年
・細かく散った:忙しさ、情報が多い、注意散漫
・ゆっくり沈んだ:安定、慎重さ、落ち着いた一年
・跳ねるように固まった:予想外の出来事、サプライズ
③影(シルエット)で読む(ドイツ・北欧でよく使う)
固まった金属を光(多くはそのまま蝋燭の光を用いる)に翳し、壁に映る影を読む方法。
・影が大きく見える:自己評価の上昇、野心
・影が歪む:迷い、未確定の未来
・影が二重に見える:二つの選択肢、二重生活、秘密
・橋に似た影:人生の転換期、成否を分かつ課題
☆影は“潜在意識”の象徴として扱われる。
④抽象的な形から象徴的に読む
モリブドマンシーは、極めて複雑な抽象形状になる場合が多いので、次のような形状象徴や空間象徴的な解釈も役に立つ。
・曲線が多い
→ 柔軟性、流れ、感情の豊かさ
・角ばった形
→ 決断、挑戦、障害
・穴が空いている
→ 未完成、空白、チャンスの余地
・とげ状の突起
→ 注意、対立、エネルギーの暴発
・輪のような形
→ 循環、再スタート、約束
・表面が泡立っている
→ 泡の大きさや量に比例して金運アップ
・壊れやすい、壊れた形
→ 不運、感情の断絶
・体積・密度
→ 将来訪れるその出来事の重大さ
⑤金属の“質感”から読む
・表面が滑らか:穏やかな一年
・ざらざらしている:課題が多い、感情的が荒れる
・光沢が強い:成功、注目、魅力
・くすんで見える:疲れ、停滞、慎重さ
⑥方向性で読む(北欧式)
固まった形の“尖っている方向”を見る。
・上向き:成長、希望
・下向き:内省、節約
・右向き:未来志向、行動
・左向き:過去の整理、回想
⑦心理学的な解釈(投影法として読む)
抽象的な形状ゆえ、ロールシャッハ・テスト(スイスの精神科医ヘルマン・ロールシャッハによって考案された、投影法を用いた性格検査法)のようにその人の投影した象で読むこともできる。
・何に見えたか
・どこに目が行ったか
・どんな感情が湧いたか
これらは『その人の無意識』を反映している。
例:
・“鳥に見えた” → 自由への願望
・“鍵に見えた” → 新しい扉を開きたい気持ち
・“壊れた形に見えた” → 不安や疲れ
とまぁ、こんなようにさまざまな視点で解釈して楽しむことができるわけだが、要するに『茶葉を読む』などの占いと大差なく、仮にハリポタのハーマイオニーがこれを見れば、間違いなく眉唾物だと一蹴するだろう。なのでモリブドマンシーは、あくまで『おみくじ』のような伝統娯楽だと言うのが結論だ。しかしながら、たまにはそういう未知の力に運命を委ねて、スピリチュアルな気分に浸るのもまた一興ではなかろうか? それではエリスたちの会話に戻ろう――。
㋝「へぇ~モリブドマンシー! 懐かしいわねぇ? 確かにこの時期、ちょくちょくお店でも見かけるわね。それでそれで? エリスの今年の運勢はどんな感じだったの?」
㋓(嬉しそうに胸元から何か出しながら)「ジャーン! 僕のはこんな形だったよ!」彼が取り出したそれは、実際にそのとき溶かした錫で作ったペンダントだった。しかして肝心の形状は――。
㋝「まぁ素敵! 溶かした金属をペンダントにしたのね? よく見せて――」椅子から身を乗り出して、クライアントの胸元にあるペンダントを凝視する彼女。「うわぁ、綺麗ねぇ~。こんな複雑でオシャレな形にもなるものなのねぇ~」と感想を述べつつ、心理カウンセラーの性として、ついそこに表出した意味を汲み取ろうとしてしまうのだ。
セリーヌの心の声『えぇっと、全体的に適度な大きさでまとまっていて、輪っかのような形をしてるわね。表面は概ね滑らかで、ところどころ尖ったりざらざらしてたりもする――なるほど、たまたま空いていた穴のところにネックレス・リングを通したのね? そしてそして、その形を見て”何に見えるか”と問われれば、真っ先に出てくるのは”指輪”かしら――ってえっ!? 指輪を首から下げてるなんて、まるで『フロド・バギンズ(※指輪物語の主人公)』じゃない! 可愛すぎっ!♡』
㋓「えへへ、でしょ? 僕も嬉しくってつい、お母さんから”いらないネックレス”貰って、ペンダントにしちゃった! セリーヌには何に見える? 僕は何となく『鳥さんが止まってる三日月』みたいだなって」
㋝「私は『宝石を頂いた指輪』に見えたわ! でもその解釈も素敵ね? そして一度そう聞いてしまうと、そう見えてくるものだから不思議――あっ、でも! そこの鳥さんのところは今は『天使の翼』にも見えるかも! とすると、その輪っかは『天使の輪っか』? いや全体として見れば『ドラゴン』? ホント、いろんな見方ができて面白いわねぇ」
㋓「うんっ! 僕、占いのことは”てんで”分かんないけど、何だか今年は『良い年』になりそうだなって、そんな予感がする……そう……すごく良い年に……」そこで彼が、物思いに耽るようにやや表情を曇らせたのを見て、セリーヌが優し気にこんな言葉をかける。
「もしかしてだけど、今”ダニエル”のことを考えてる?」エリスが小さく頷くと、セリーヌは「彼、目を覚ましてよかったわね……? あれから進展はあった?」と続ける。エリスは数秒黙然してから、やがて首を横に振ってこう答える。「ううん、詳しいことは何も……でも、少しずつ回復には向かってる、って……」
「そぉ……早く元気な姿が見られるといいわね……? きっとそのペンダントは、彼が全快するって未来を知らせる、”お告げ”なのかも」彼女がそう言うと、エリスは小さく笑って「だといいな……」と呟くのだった。
と、そのとき! セリーヌが突然、左手を押さえて苦しみ始めるのだ!「あイタ、あイタタ~」心配したエリスが「大丈夫!?」と聞くと、彼女は苦悶の表情でこう説明する。「い、いけないわ……私、自分が『金属アレルギー』ってこと、すっかり忘れてたみたい……さっき”あなたのペンダント”に触った左手が、炎症を起こしてヒリヒリしてきちゃったわ」
当然エリスは仰天する。「うぇぇぇっ!?」すると彼女は、「ちょ、ちょっとごめんなさいっ、手を洗ってくるわねっ」と言って席を立ち、退室していく。エリスはガチャリと閉まったドアを見つめたまま、ただ素っ頓狂な顔で戸惑うばかりだった。『うぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?』
そのペンダント、奇跡か、それとも……。
エリスの高校休日㉛ 笑いのスモールバン★セオリー
それから1分ほどして、セリーヌが心の間に帰ってきた。それまで不安を紛らわせるように、室内を――さながらシャトルランでもするように――行ったり来たりしていたエリスは、彼女が帰還するやいなや心配そうな顔を向けて、恐るおそる「手の具合、どう?」と尋ねるのだった。
すると渋い顔をした彼女が、左手を痛々しく閉じたままエリスの方に接近してくる。「油断したわ……まさか錫みたいな、比較的安全な金属でもこんなことになるなんて……見てよ私の手――」そう言って彼女が、いきなり自身の左手の平を開示してくるものだから、思わずエリスは心臓をドクンッと跳ねさせてしまう。
――がしかし、どういうわけか彼女の手には炎症など全くなく、そこにあったのはただ一つ――銀色の『ユニコーンの玩具』だけだった。へっ……? エリスが拍子抜けするのと同時に、セリーヌが盛大にネタばらしする。「タダーンッ! バジンガ~!(bazinga!:冗談よぉ~!) アレルギーって言うのはウッソ~♪ 騙されたわね~エリスゥ~♪」エリスはもう何が何だか分からず、ただその場で固まることしかできない――。
※例によって『バジンガ』とは、ドラマ『ビッグバン★セオリー』でメインキャラのオタク天才物理学博士『シェルドン・クーパー』が使う言葉。シェルドンはしばしば周りの人たちに難解なイタズラを仕掛けては、このセリフを吐いてそれがジョークだったことを明示し、相手の神経を逆撫でする。
――そんな彼を見て、愉快そうにユニコーンのフィギュアを振りかざす彼女。「ほらほら~、このユニコーンも金属製よ~! もちろん覚えてるわよねぇ~? エリスゥ~?」そう、何を隠そうそのユニコーンとは、以前この部屋で『箱庭ゲーム』をしたときに、エリスのピンチを救ってくれた”あのユニコーン”なのだ。だがしかし、そんな事実は彼の硬直を解くのに何の役にも立ちはしない。
引き続きセリーヌが話し続ける。「しかも何ならこの子、そのペンダントと同じ『錫』を主成分にした合金、ピューター製なのよぉ~! もし私が金属アレルギーだったら、そんな物持ってるはずないわよねぇ~? 違うぅ~?」さすがにこうも大人げなく煽られては、寛容なエリスでさえ溜息が漏れるのを禁じ得ない――呆れた気持ち93%に、安心した気持ち7%が混ざった溜息が、彼の口から一つ零れる。
そしてようやくエリスが、『ドッキリに対するリアクション芸』という、割と苦手なパフォーマンスに踏み切るのだった(彼はほとんどの場合、『えぇぇぇぇ!?』という顔芸一本で闘っている)。気になる今度のリアクションは――。
エリス(やや憤りをあらわにして)「もう……本気で心配したんだよ……? 何がしたかったの、セリーヌゥ?」どうやらパターンB『呆れ返って、普通に会話する』を発動したようだ。やはり彼から新しいリアクションを引き出すためには、熱湯風呂にでも突き落とさないとダメなのかもしれない……そりゃさすがに、ホッついわぁ……。
セリーヌ(おもしろ可笑しく笑いながら)「えぇ? だってあなたがまた、難しい顔して考え込んでいたから~、ここいらで”ちょこ~っと”イタズラでも仕掛けて、ユーモアを取り戻してあげたかったのよぉ~♪」
㋓(益々呆れながら)「それで金属アレルギーの振りを? それはちょこ~っと違うと思うけど……」全くだ……あんな不謹慎な冗談、優しい”ターゲット”ほど笑わせられなくなる悪手だろう……本当にセリーヌはたまに、セラピストとは思えないほどぶっ飛んだ一面を見せてくれる……。「それに僕、そんなに難しい顔してたぁ? あんまり実感ないんだけど……」
㋝「あれっ? どうだったかしら? まぁいいじゃないっ! 細かいことはぁ~(充分してたわよ、エリス……私はカウンセラーなんだから、それがペルソナかどうかは見れば分かるわ……)」すっ惚けて話を流した彼女は、それから左手のユニコーンをエリスへと差し出して、こう続ける。「それより……はいっこれ! このユニコーン、あなたにあげるわ!」
㋓(益々戸惑いながら)「えっ? でも……どうして突然?」
㋝「んー、まぁ餞別と言うか、今回の私たちの『出会いの記念』にと言うか……とにかく、忘れないうちに渡しとこうと思って」
㋓(ユニコーンを見つめたまま)「……」
㋝(優しく微笑みながら)「”ラッキー・カード”よ。この子もあなたのところに行きたがってる……受け取ってくれるかしら?」いやだから”カード”じゃ――って……まぁいっか、こんなときに無粋なツッコミを入れずとも……。さてさて、次なるエリスの反応は――。
腰に両手を当て、心底不満そうな顔をしたエリスが、まさかまさかのこんな発言をする。「えぇ~! ”ラッキー”って言うなら、僕『ラッキー(ダルメシアンの子犬)』のフィギュアが良かったなぁ~」
この予想外すぎる反応に、今度はセリーヌの方が面食らってしまう。「へっ……?」まるで子供のクリスマス・プレゼントを間違って買ってきた、間抜けな親のような気分に苛まれる。
するとすぐさま破顔したエリスが、嬉しそうに彼女の手からユニコーンをかっさらっては、「なぁ~んて冗談っ☆ バジンガ~! 引っかかったなセリーヌゥ~!」と相手を揶揄うのだ(彼はバジンガの元ネタは知らなかったが、何となくニュアンスは理解できたので、とにかく言ってみたらしい)。これにはさすがのセリーヌも、『やられたわ』というような顔をして、人差し指を何度も相手に振りかざすしかない(どうやら、彼女が見抜けないペルソナもあるようだ……)。
しかし何はともあれ、サプライズ・プレゼントは成功したようだ――目の前の美少年が嬉しそうに玩具を両手で包み込んでは、「ありがとう、セリーヌ……僕この子、きっと大切にするね?」と喜んでくれる。それだけで彼女の心は、温かく幸せな気持ちに包まれるのだ(俄然、結婚・出産願望が強くなる彼女だった……)。
『あぁ……結婚したいなぁ! 子供欲しいなぁ、もうっ!(売れ残り女性の心の叫び)』
エリスの高校休日㉜ 夢、見つけたよ
そんな謎のドッキリ大作戦も終わりを迎え(大、作戦……?)、また椅子に腰掛けてセッションを仕切り直すことになった二人。今度のトピックは、エリスが切り出したこんな話からスタートする――。
㋓「あっ、そうだ。僕、今日どうしてもセリーヌに伝えておきたいことがあって」
㋝「あら何かしら? どうぞ言ってっ(ワクワク)」
㋓(どこか照れながら)「実は僕ね……『夢』、見つけたんだ」
㋝「夢? もしかして、将来の夢のこと?(わ、私より先に結婚相手を見つけたのかしら……何て、十中八九”キャリア”に関しての話ね)」
㋓「うん……まだ、朧気なんだけど」
㋝「それは素晴らしいことよ。もしよかったら聞かせて、あなたの夢のこと(め、めっさ気になるっ)」
㋓「うん……えっとね、僕……将来はセリーヌみたいな、『心理カウンセラー』になりたいな、って……」
㋝「えっ?」あまりに唐突なことで、つい絶句してしまう彼女。嬉しさよりも、そう思ってもらえたことへの驚きが勝ったのだ。
㋓「セリーヌ、前に言ってたよね? 『カウンセラーを志したきっかけは、お父さんが亡くなった悲しみを、とあるカウンセラーとの対談や、アートセラピーに救ってもらったから』だって」
※実は彼女、そんな話もエリスとの初回面談のときにしていました。生粋の”パパっ子”だった彼女は、高校生のときに急病で父を亡くしており、以来しばらくは失意のどん底に沈んでいたのですが、とある恩人カウンセラーとの出会いを通して、徐々に生きる希望を取り戻していったのです。
そして彼女のこの『心の間』に飾られている『二つの抽象画』も、実はそのとき彼女自身がアートセラピーの一環として描いたもので、一方(クライアント側にある方)は元気になる前に、もう一方(彼女の後ろにあり、クライアントの目に入る方)は元気になった後に描いた作品なのです(実際の絵柄は、ご想像にお任せします)。
彼女のバックグラウンドに関わる重要な事柄ですが、第四十二章では尺の都合上、泣く泣くカットすることになりました。こんな場所での事後報告で申し訳ありません――ちなみに彼女が婚期を逃してしまった理由も、未だに心のどこかで亡き父の面影を追い続けているからです(理想が高いというか、とにかく包容力を求めてしまう)。それでは会話に戻りましょう――。
㋓「それを聞いて、今の僕の状況と少し似てるなぁと思って……僕もセリーヌと出会って、たくさん救われたから……」ようやく嬉しさが、驚きに勝ってくる……セリーヌは泣きそうになるのをグッと堪えて、目を閉じ、頷きながら傾聴を続ける。必ずしも報われるとは限らない仕事だからこそ、こうやって人情溢れるフィードバックを貰える機会は、誠に得難いものだった――彼女は今、その喜びを嚙みしめているのだ。
㋓「それにセリーヌ、こうも言ってくれたよね? 『僕なら”心のノブレス”になれる』って……実はあれ、すっごく嬉しかったんだ……『その言葉に恥じぬよう生きよう』って、そう思えるくらいに……」これにはついに、ペルソナを破面させてしまう彼女――泣き顔を隠すよう両手で顔を覆い、即席のペルソナで事態をやり過ごすのだ。
彼女の心の声『全くこの子は、嬉しいこと言ってくれちゃって……こんなん泣くわ……涙ちょちょぎれるわ……』
彼女の号泣を余所に、エリスが話を続ける。「それで……もし本当にそうなれるんだとしたら、その力を困っている人たちのために使いたいなって……ねぇ教えてセリーヌ……心理療法士って、どうやったらなれるの?」
『ここはちゃんとプロとして答えなければ』そう思った彼女は、ありったけの精神力を振り絞っては、短時間で新しいペルソナを”錬成”し(まるで錬金術師!)、穏やかな顔で両手の覆いを外すのだった。
一つ深呼吸してから、彼女が話し始める。「そうねぇ……本気で心理療法士を目指すなら、まず大学に入って『心理学』を学ばないといけないわ……我が国スイスで言えば、『チューリッヒ大学(Universität Zürich)』の『哲学部(Philosophische Fakultät)』とかが名門ね――哲学部にはいろんな学科が含まれているけど、この場合は『心理学科』を専攻することになるわ――ちなみに私もそこで学んだのよ」
㋓「セリーヌの母校? チューリッヒ大学って普通に大学入学資格があれば入れるの?」
㋝「確かに、我が国の大学は”オープン入学制”を採用しているから、多くの大学・学部にはマチュリテさえあれば入学可能だけれど、医学部と心理学部だけは例外で、医学部は入学前、心理学部は入学後に選抜試験が実施されるわ――理由は単純、それらの学部が”人気”だからよ」
㋓「入学後に入試? そんなことってあるの?」
㋝「こんがらがるわよね。でも事実なの。この『1年次選抜試験(Propädeutikum)』という仕組みは、唯一、心理学部にのみ課せられた課題であり、言わば『進級ふるい落とし試験』なの。試験は講義と同じで『2学期制(秋春セメスター制)』になっていて、心理学部はまず、普通に9月に入学してからしばらく講義を受け、だいたい1~2月に実施される一次試験を受けることになるわ。進学するには全ての科目で合格しなければならず、再試験は各科目につき一度だけ可能。そうして無事、二次試験までを突破して初めて、『心理学部』として進級できるってわけ――しかもチューリッヒはドイツ語圏の大学だから、当然試験も講義も全てドイツ語で行われる……フランス語圏の高校生が目指すには、なかなかに高いハードルだと言えるわ」
㋓「そ、そうなんだ……そんな大学に行ってたなんて、セリーヌはやっぱりすごいや……僕、今は学校でドイツ語のコースを履修してるんだけど、きっとそんなレベルじゃ通用しないよね……」
㋝「そうねぇ……勉強のレベルもさることながら、この分野は人との対話も極めて重要になるから、かなり高度なドイツ語力が求められるわ――あっ、あと言ってなかったけど、私は『ロスティグラーベン(Röstigraben:スイスにおけるドイツ語圏とフランス語圏の文化的境界)』である『フリブール(Freiburg)』という町出身だから、自然と両言語が身に付いてたっていうのもあって、何とか進級できたのよ」
㋓「そっか……じゃあ僕が今、一番しなくちゃいけない勉強は、『ドイツ語』ってことになるんだね……それで仮に、もし入学できたなら……その先はどうすればいいの?」
㋝「3年通って学士号を、さらに2年通って修士号を取得した後で、大学とは別の専門機関で『ポスト修士研修』という訓練を4~6年こなして、最後にそこの最終試験を突破してようやく、『連邦認定心理療法士(eidg. anerkannte Psychotherapeut/in)』の資格が得られるわ。要するにそれを取得して初めて、『カウンセラーとして個人開業できる』ってことね」
㋓「て、てことは……最短でも高校卒業から9年はかかるんだね? うっひゃ~、気が遠くなるなぁ……覚悟はしてたけど、大変な道のりなんだね……」
㋝「えぇ、確かに大変よ……何せ我が国では、『心理療法士は医師と同等の地位』と見做されているから……責任ある仕事には、それ相応の対価が必要ってことね……(実際、その教育を受けるための費用も莫大なんだけど、それは黙っておきましょう……)。あ、あと、さっきあなたは『最短で9年』って言ったけど、実際には9年で開業まで漕ぎつけられる人は、ほんのひと握りの人たちだけよ――かく言う私も、決して優秀な生徒というわけではなかったから、大学では1年留年、ポスト修士研修も6年丸まる費やしてやっと、この資格を取得できたの。その間も仕事はしてたから、その貯金を使ってどうにか、取得して間もなく開業まで漕ぎつけたけど、結局12年もかかったことになるわね――こんな、脅すようなことばかり言って申し訳ないけど……」
㋓「僕……何だか自信なくなってきちゃった……まだ挑戦すらしてないのに……」
㋝「大丈夫! みんなそういうものだから……。とにかくまず、『やってみたい』『挑戦してみたい』と思えたことがこそが、何よりも重要なことなのよ――だってそれだけで、スタート地点には立ってることになるんだもの! あとは『どこまで歩いていけるか』……それはどんな分野でも一緒、でしょ?」
㋓「そう、だよね……うん、そうだ! うぉーやるぞぉ~! かかってこいドイツ語~!」
㋝「あっと、それなんだけど――別にドイツ語は必修というわけではないわよ? あくまで心理学修士からの資格取得が条件だから、フランス語圏の大学で心理学を学べばそれで問題はないの――ごめんなさい、今さらだけど……だから、『ジュネーヴ大学(Université de Genève)』とか『ローザンヌ大学(Université de Lausanne)』とかでも全然オーケイだと思う――ちょっと私は、他の大学のことは詳しくないけれど、純粋に『心理療法士になる』って目的だけなら、その方が数段近道でしょうね」
㋓「へ? そうなの……?」
㋝「えぇ! たぶん心理学のほとんどの分野においては、それらの大学に有意な差はないと思うわ――まぁ強いて言えば、教育水準の面でやや、ジュネーヴが優勢ってとこかしら? たしか、WHOなどの国際機関とも連携してるから」
㋓「なぁんだぁ~、気張って損しちゃった~……あれ? じゃあどうしてセリーヌはチューリッヒ大学を選んだの?」
㋝「んー、理由はいくつかあるけどぉ、一番はそこが『私の”恩人カウンセラー”の出身大学だった』からね――何と私の”お師匠様”も、そこに通ってたのよっ! ちなみにその人は、まだ現役バリバリでフリブールにてカウンセラーを続けていて、私が地元を離れて開業するに至った経緯もそれよ――”彼女”とクライアントを取り合うようなことは、したくなかったの。それで、いろいろ検討した結果、このプランジャンに来たってわけ。この辺はまだカウンセラーが足りてないように見えたから」
㋓「なるほど! それで僕はセリーヌと出会えたんだね! 何だか運命的だな~」
㋝「ふふっ、そうね? 私もあなたと出会えて、ここに来て本当によかった思ってるわ」
㋓「それでそれで? チューリッヒ大学を選んだ他の理由は?」
㋝「よくぞ聞いてくれた! そう、実は理由は他にもあって……何を隠そうチューリッヒ大学は、カウンセラーにとっての最重要分野『臨床心理学(Clinical Psychology)』の国内最高峰だからよ!」
㋓「臨床、心理学……?」
㋝「えぇ! それはカウンセラーに必要な学問のなかで、最も『核』となる分野で、実際にこうして人と接しながら、その人の”悩み”を理解したり、安全に”支援”したりする方法を、実戦的に学ぶ分野なの。ひと言で言うなら、そうね……『人の弱さ受容しつつ、壊れないように扱うための知識』と言ったところかしら……この臨床領域においては、チューリッヒ大学は他のどの大学よりも、充実した研究環境だと言えるわね――何せ、チューリッヒはスイスで最も人口が多い都市だし、連携している病院の規模も最大だから」
㋓「そういうことかー。じゃあとりあえず僕も、チューリッヒ大学目指してみよっかなっ」
㋝「へっ? ど、どうして……? 別にローザンヌかジュネーヴでいいんじゃない?」
㋓「えっ? でも臨床心理学においては、チューリッヒが最高なんでしょ? それに僕だって、”お師匠様”と同じ大学に行きたいなって」
㋝「いやっ、マジでごめんなさいっ! つい自分語りしたくなって、自分の出身大学中心で話を進めちゃったけど、ホント、心理学学ぶだけなら、どこでも大差ないからっ!」
㋓「大差ないなら、なおのことチューリッヒでもいいんじゃないの?」
㋝「んーそれがね……言い忘れてたけど、大学入学時に与えられる『学生番号』は、スイス全土で共通なのよ……だからもし、あなたがチューリッヒを選んだとして、そこの入学後試験をパスできなかったりしたなら、もうスイスのどの大学でも『心理学は専攻できなくなっちゃう』の。何が言いたいか分かるわね? 『一発勝負の闘いに、わざわざ言語的なハンデをしょって立つべきじゃない』ってことよ。ただでさえ難しい試験だから、無難にフランス語圏の大学にすべきだと、私は思うな」
㋓「ぐ、ぐぬぬ……そんな仕組みが……それによく考えたら、チューリッヒに行っちゃったら、友達や家族ともお別れしなきゃいけないんだ……」
㋝「そうそう。あまりにもリスキーすぎると思うわ……悪いことは言わない、ドイツ語圏を狙うのはやめておきなさい」
「そ、そうなのかもしれない……でもっ――」突然と、エリスが席を立ってこう宣言する。「どこの大学に進学するにしても、とにかく僕は心理療法士を目指してみるよ! そのための勉強なら、何だって頑張ってみる! そうしていつの日か僕も、セリーヌやセリーヌの”お師匠様”のように、困ってる誰かを助けてあげられるような立派なカウンセラーに、なれたらいいな……」
「エリス……」夢と希望に満ちたような若者の顔を見上げながら、セリーヌはかつての自分を見ているような、懐かしくも甘酸っぱい気持ちに包まれていた。もちろん現実は厳しい――努力や情熱だけで夢が叶うほど、甘くはないと分かっている……。だがしかし、今、目の前でやる気を漲らせている彼の姿を見ていると、不思議と大丈夫だと思えてくるのだ……そう、”大丈夫だ”と……。
だからこそ彼女は、最後のアドバイスとして、こんな言葉をかけるのだった――。
「今日はあなたの夢のこと、聞かせてくれてありがとう……ささやかながら私も、その夢、応援してるわ……でもこれだけは覚えておいてね? 『夢は一つじゃなくてもいい』ってこと! それに『夢を叶えるだけが、幸せの形ではない』ってこと! って……こんなこと言われずとも、あなたなら分かってるわよね……」
そう……この子なら”何があったって”大丈夫……仮に職業としてのカウンセラーにはなれなくたって、この子なら自然と周りの人々を幸せにして、それでこの子自身も幸せになれるはずだわ……だって人を幸せにするのに最も大切なことは、理論でも知識でもなく、『愛』と『優しさ』なのだから――。
エリス「うんっ! 忘れないよ、何があっても!」
こうして、彼らのラスト・セッションは過ぎていった。あれからも二人の対話はしばし続けられたが、さながら夜通し夢を語り明かす親友たちのように、彼らの話は尽きることがなかった。やがて終了時刻を告げるアラーム(セリーヌのスマホのアラーム)が鳴った際に、エリスの方から連絡先の交換を申し出て、セリーヌがそれを快く承諾(通常はあり得ないことだが)したのを最後に、このセッションは終わりを迎えた。
ようこそ、ここは『心の診療所”ル・シエル・ブルー”』……心の悪天候に見舞われた誰かが、澄み渡る蒼空を取り戻すための場所……今日も誰かがここで、清々しい気持ちで天を見上げようとしている……そしてその視線は時に、夢という名の地平線へと向けられることもある……まだ見ぬ地平線の先には、いったいどんな景色が待っているのだろうか……? それは走り続けた者だけが知る絶景に違いない……息をのむほどの、圧倒的な絶景に……。
蒼天(ル・シエル・ブルー)編 完
第五十一章 – 青春時代② 高校生活 Ep.38:恋の五角関係(高校卒業(ラ・フォン・デュ・リシー)編 始)

エリスの高校生活㉙ ラヴ・ウォー・ゲームは突然に
本日は2042年4月17日(木)。エリスが恋人のダニエルと、念願だった『ラヴラヴ・初エッチ』を行った日の翌日である。その日の朝、エリスはいつにも増してキラキラした面持ちで学校に登校していた(ちょうど、自転車で学校の敷地内に入ったところ)。このニヨン・モーザー学校に通えるのもあと1年と1ヶ月余り。彼は悔いのないよう毎日を一生懸命に過ごそうと、心に決めていたのだ。
彼はいつものように自転車を駐輪所に停め、校舎の入り口へと歩いていく。”昨日の今日”なので、まだ身体には疲れが残っていて、節々が痛かったが、それでも恋人が奇跡的に生還してくれたことと、そのうえ自分を”抱きしめて”くれたことへの幸せが、彼の足取りを軽くしていた。よぉ~しっ! 今日も勉強頑張るぞぉ――。
彼が校舎に入り、擦れ違う友達と挨拶を交わしながら自分のロッカーへと向かっていくと、何やら廊下に”人だかり”ができているのが目に留まる(今日エリスは家を出るのが遅かったので、現在は8時05分。もう大半の生徒が登校している時刻)。いったい何だろう? 不思議に思いながら彼が近づいていくと、その人だかりの中心にいた人物が、彼に気づいて手を振り始める。
「あっ、エリス~! おはよ~!」
その人物とは何と、まだ自宅療養で休学を続けているはずのダニエルだった。これにはエリスも「ダ、ダニエル!?」と仰天しては、その人だかりに加わるしかない。「どうしたの? まだ療養中って言ってなかったっけ?」
すると彼がこう説明してくれる。「うん、今日のところはまだそう――でもあまりにも体調が良かったから、今朝はちょっと顔を出しに来たんだ。そしたらなぜか……みんなに捕まっちゃって(苦笑)」
どうやら彼、長期に渡って休学している理由や、『あの事件』についての詳しい経緯、昏睡の体験談などを教えてくれと、学校のみんなから質問攻めに遭っていたようだ(事件のことはニュースでも報じられたが、とてもその全容までは見えなかったので、これまで校内でもさまざまな憶測が飛び交っていた)。
そんな折、目的の人物であるエリスが現れたことで、彼は取り付く島を見つけたと言うわけだ――極力目立たず生きてきたダニエルにとって、それはちょっとした人気者気分を味わえる滅多にない機会だったが、やはり衆目に晒されるのは苦手なようだ――彼の苦笑した顔が、そのことを雄弁に物語っている。
「そっか……えっと、いつくらいから復学できるの?」エリスがそう尋ねると、ダニエルは途端に難しい顔になって、まさかまさかのこんな重大発表をする。「そのことなんだけどさ……実は僕、『もうこの学校はやめる』ことになったんだ」
「えっ……」エリスの顔から血の気が引く。あまりに突然のことで、とても思考が追い付かない。「何で、どうして……」するとダニエルが後頭部を掻きながら、言い辛そうにこう説明してくれる。
「ほら僕、9ヵ月以上も休学しちゃってる状況じゃん? 今から君たちの授業に混ざっても、この学校のカリキュラムとしてはもう、同じタイミングでの大学入学資格取得はできないみたいで……仮にこの学校を続けるにしても、また9月から『君たちとは一つ下の学年』として、再配置されるしかないらしいんだ……」
エリスや周りのみんなが黙っているので、ダニエルがさらに続ける。「それに我が家にはもう、この学校の学費を払えるほどの経済的余裕がないから、それならいっそのこと、9月から別の州立校に移った方が賢明かなって……ごめん……いきなり現れて、こんなこと言って……」
エリスはまだ実感が湧かなかった。12歳でこの学校に入ってからと言うもの、ダニエルとは実に4年もの長きに渡って、共にスクール・ライフを過ごした親友だったからだ。まさかそんな当たり前の日常が、これほどまでにあっけなく崩れ去ろうとは……。エリスは震えた声で、「そ、それって……決まったことなの?」と質問を繰り返すことしかできない。
ダニエル「うん……少なくともこの学校には、もう戻らないと思う――さっきは『やめる』なんて言い方しちゃったけど、そもそも今年度の学費は支払ってないから、厳密には僕はもう、この学校の生徒ではないんだ……だから今日はエリスに……みんなに……お別れを言うつもりで来たんだ――」そこで周囲を見回した彼は、一つ深呼吸をしてから、満を持してこう続ける。「さよなら、みんな……今までありがとう」
これには周りにいた生徒たちも、悲し気な顔で労いの言葉をかける他ない――みんなして口々に、「そんな……」とか「マジかよ、ダニエル……」とか「ただでさえ大変だったのに、これからも大変なんだな……」とか「新しい学校に行っても、元気でね?」などと返事する。彼のことがあまりにも不憫で、全員が彼に代わって、世界の不条理を嘆きたい気分だった。
そんななか、まだエリスだけが納得できていない――つい彼はその嘆きを口に出してしまうのだ。「で、でも! 他にも選択肢があるんじゃない? 健康上の理由なんだし……きっと学校側に掛け合ってみれば、特別な処置とか受けられるんじゃ……だって僕のときはそうだったよ? 去年(3学期の初めに)2ヵ月間のブランクがあったときには、補習授業と宿題で対応してもらったもん! だからこんなの酷すぎるよっ!」
するとダニエルが、彼を安心させようとしてか、こんなことを言う。「いいんだよ、エリス。これはもう、僕が決めたことだから……それに勘違いしないでね? 何も僕だって、『ただ闇雲に時間を無駄にして、1年間の遅れを受け入れる』ってわけじゃないんだ」
当然エリスは、訝し気に眉を吊り上げては、「えっ? それってどういうこと?」と尋ねるのだが、ダニエルは待ってましたと言わんばかりに、決然とした態度でこう答えるのだ。
「新しい学校に編入するまでの間――そしてもちろん、編入してからも並列して――、僕は『自主学習で遅れを取り戻す』つもりだよ。そうしてゆくゆくは、来年の春にある『連邦マチュリテの国家試験』に挑戦するつもり……要するに、そこでもし合格できれば、君たちに追いつくことができるんだ」
そう、スイス・マチュリテは『国家資格』に該当するため、州立校や私立校が提供する『州立マチュリテ』のみならず、スイス連邦政府が直接提供する『連邦マチュリテ』という資格も存在するのだ。その試験は年に一度、主要都市の会場で数週間に渡り実施され(受験費用はかかるが、その他に特別な要件はない)、合格すれば州立マチュリテ同様、ほとんどの大学に無試験入学が可能となる。
ただし連邦マチュリテは、主に独学の社会人や、やむにやまれぬ事情で通信教育や自宅学習を選択した人たちが受験するものなので、合格率はかなり低くなっている(必ずしも彼らが準備不足だったというわけではなく、難易度そのものが州立マチュリテとは一線を画す)。
そのため若者は学校に入学して、そのカリキュラムに沿って安全に州立マチュリテ取得を目指すわけであるが、ダニエルはこの正規ルートに乗りつつも、独自に連邦マチュリテも受験することで、エリスたちとの学業的な開きを半ば強引に埋めつつ、あわよくば母親の経済的負担も緩和できればと画策しているようだ。
かなりハードな道ではあるが、彼の表情を見る限り、決して生半可な気持ちで言っているわけではないと分かる。それを感じ取ったからこそエリスは、これ以上食い下がるようなことはしなかった――彼は吊り上げた眉を元の位置に戻しては、全てに納得したようにこう言うのだ。「そっか……もう君がそこまで考えてるんだったら、僕も君の転校を受け入れるよ……でも残念だな……もう君と学校で会えないなんて……」
するとダニエルが突然、とんでもない所業に出る――何と彼、みんなの見ている前で、エリスの頬にキスしたのである! あまりのことに、当のエリスはカチコチに硬直してしまい、観衆は口をあんぐり開けて唖然とする……そんななか彼は、落ち着いた様子で微笑んでは、さらなる暴挙に踏み出すのだ――。
「安心してエリス……君が呼んでくれたら僕、いつでも君の傍に駆け付けるから……って、こんな当たり前なこと、改まって言うことでもないか? ははっ……でも念のため伝えておくね? 何たって僕は、君の『彼氏』だから」
――パリーンッ! 付近のロッカーで、誰かが何か落としたようだ――まだ硬直しているエリスは知る由もないが、それは手鏡で身だしなみを整えていた『ソフィー(元エリスのご主人様)』だった。彼女は期せずしてダニエルの”愛の囁き”を聞いてしまい、その最後に発せられた『奇天烈なワード』に動揺しては、うっかり手鏡を落してしまったのだ。
彼女の内なる自問自答が始まる。『はっ? 今何か、おかしな幻聴が聞こえたような……いえ、きっと聞き違いですわねっ。”ワタクシのエリス”に限って、その辺の有象無象と恋仲になるなんて……ああ、あり得ませんわっ!』
観衆たちにしても同じ思いだった。みんな声にこそ出さなかったが、心のなかでは『ダニエルがエリスの彼氏……? はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?』と絶叫していた。となればあと気になるのは、当のエリスがどんな態度で否定するのか、それだけだった――やっとこさ彼の硬直が解ける――。
「だ、だだ、だに、だだに、だにえる!? ど、どど、どうしてそんなこと……わわ、わざわざ、こんなところで言わなくたって……」そこにあったのは、桃のように真っ赤に熟したエリスの顔だった(観衆たちが真相を知るのに、それ以上何が必要か?)。そしてあろうことか、その観衆たちのなかには『いるべきではなかった者たち』が、さら二人いたのだ――。
「えっ? だって――」ふとダニエルが廊下の一端(エリスの背後)を見据え、挑発的な笑みを浮かべてこう答える。「ちゃんと示しておかないと……『この子は僕のもの』だって……じゃないと、『悪い虫』が付くかもしれないでしょ?」
そこにいたのは何と、今しがた登校してきた『ニコラ(エリスの幼少期からの幼馴染)』と『キアラ(エリスのバンド仲間)』だった。ダニエルは主にニコラに対して見せつけるように、エリスの身体をそっと抱き寄せては、その側頭部にキスして、髪に指を通すのだ――そのあからさますぎる個人攻撃に、ニコラの目は大きく見開かれる――。
朝から大あくびをしながら登校していたニコラだったが、今や完全に眠気が吹き飛んでいた。代わりに湧いてくるのは、困惑と焦燥と、訳の分からない苛立ちだけ……。あんっ? どうなってんだこりゃ……? エリー、何でそいつに抱かれてんの……? それに『彼氏』って……い、意味わかんねぇ――。
だがショックを受けているのは、彼だけではない――当然キアラにとっても、それは悪夢のような光景だった。な、何やってんだいお嬢……あっちにソフィーもいるってのに……なのにどうしてそんな奴と、堂々とイチャついてんのさ……それに前言ってくれた『あの言葉』、あれは嘘だったんかい……? 『アタイらは特別だ』って……あんた言ってくれたじゃんよ――。
そんな彼らの動揺こそ、まさにダニエルが欲していたものだった――満足げにエリスのことを放した彼は、改め直して辺りを見回していき、そこにある唖然とした顔一つ一つを見定めた後、やがて清々しく微笑んではこう挨拶するのだ。
「それじゃ、そろそろ部外者は退散するよ。みんな、会えてよかった。さよならっ――」そうしてその場を立ち去っていくダニエル……後に残されたのは、間抜けな顔に繰り抜かれた『ジャック・オー・ランタン』たちと、さらに赤みを増した『禁断の果実』だけだった――。
廊下をズンズンと闊歩する彼の顔に、暗い陰が落ちる。忘れるなよ、ニコラ……そしてエリスに恋焦がれる他の連中――とりわけ『ファン・クラブ』の奴ら――も……『この僕こそが、彼の正式な恋人だ』ってことを!! 僕がいないからって、学校で彼に何かしようものなら……お前たちタダじゃおかないからな――。
ついに起こるか、恋の全面戦争……。
番外編⑨ ”E・ラヴァーズ”のドタバタ会議!
それからの授業は、どうにも『実』が入らない生徒たちばかりだった。みんな、本当にジャック・オー・ランタンにされてしまったかのような――心にポッカリと穴が空いてしまったかのような――気分だった。それほどまでに、『エリスに特別なパートナーがいた』という事実は、多くの生徒たちに『重大な悲報』として受け取られたのだ。
そう……もはや”エリス”という美少年の存在は、この学校にとって『なくてはならないアイドル』の域にまで達していた――現時点で、全校生徒数459名を誇るこのニヨン・モーザー学校には、いつからか彼を秘密裏に慕う者たちが結成した、『エリス・ラヴァーズ ― 秘かな憧れ(Ellis Lovers — Longing In Secret)』なるクラブまで存在するほどだ(現在会員は52名。内49名は生徒、3名は先生。男女比率6:4。通称”E・ラヴァーズ”)。
先の出来事は、このメンバーのうち少なくとも九人に目撃されており、情報はSNSを通じて瞬く間に拡散――多くのメンバーがトーク画面上にて、『学園生活の終焉だ』などと喚き散らす事態に発展していた。
同時に、この悲劇をもたらした張本人であるダニエルには、これまで以上にきつーい”ヘイト”が向けられることとなり(※彼はエリスから特別な感心を向けられていたので、元々目の敵にはされていた)、アプリ上では『次現れたら脚引っかけて転ばしたる!』とか、『俺は自転車の”サドル以外”全部盗むわ』とか(それは悔しくなるからやめてあげて)、『もう我慢できない! 今日の放課後あいつの家行って、ピンポン・ダッシュしてくるっ!』とか(いつの時代の嫌がらせや)、『ワイは夜中にアプリでイタ電かけてやる!』とか(特殊詐欺の手法!)、ボロクソに叩かれていた。
しかし一方では、『このカップリング(ダニ×エリ)』に萌えを感じる女子メンバーたちもおり(何でも、彼らの圧倒的”不釣り合いさ”が、逆にイイらしい……)、その子らの擁護も相まって、この『ダニエル裁判』は泥沼の様相を呈することとなる――ちなみに女子たちの言い分はこうだった。
ある女子はこう言う。『彼(ダニエル)、結構素敵よ! あの儚げな感じがいいわ!』
またある女子はこう言う。『ああいうタイプに限って、将来リッチになったり、”あっち”が上手だったりするのよね~(ジュルリ……)』
またまたある女子はこう言う。『とりま、彼がエリスをお姫様抱っこしてる絵描いたわ(まだ下書きだけど)』
そして一枚の画像がシェアされる。それはお姫様の格好をしたエリス(やや美化されている)が、王子様の格好をしたダニエル(とんでもナッシングなほど美化されている)に抱きかかえられている絵だった。
女子たち『キャーッ!』『尊い……』『推せるっ!!』
男子たち『……(ドン引き)』
終いには女子たちが大盛り上がりで、二人のCP名まで考え始める始末で、男子たちはダニエルへの嫉妬心をグッと堪えて、しばし鳴りを潜めるしかなかった――以下が、腐ガールズ・チャットと化したトーク画面の一部始終である。
女子A『Daniel×Ellisかぁ~。無難にDallisなんかどう?』
女子B『悪くない! けど、もうちょっと捻り欲しいかも!』
女子C『niEllisは?』
女子D『個性的だけど、逆に捻りすぎじゃない? 何か発音がロシア語っぽい』
女子B『私はいいと思うけどな! 早く決めて”ニェリニェリ”したい……』
女子A『ニェリニェリはあかんやろ……生々しすぎるっ(ハァ、ハァ)』
女子C『同志よ、アイディア求む……』
女子E『DaniElli(イントネーションはDanielのままで)』
女子D『それだー!』
女子B『ダニエリィィィィィィ!!』
女子AC『ダニエリに、けってーいっ!!』
と、ここまでが本日の放課後までに交わされたチャットとなる。今後もこの『E・ラヴァーズ』の活動は続いていくだろう……。もしその動向が気になるようならば、ぜひ君も”我々の”一員となって、我らが”エリス様”へと想いを馳せようではないか! それでは、これにて本日の活動記録を終了する。会員No.001『匿名希望の部長さん』より。
(どうでもいいけど、こいつら……よく教師三人も参加しているグループチャットで、こんな和気あいあいと暴走できるな……)
エリスの高校生活㉚ 恋の五角関係(ラヴ・ペンタゴン)
謎の”秘密結社”が裏で暗躍?していた同日。実際の学校ではどんなことが起こっていたのだろうか? 早速見ていこう――。
まず話題の中心人物であるエリスなのだが、彼は授業中もずっと恥ずかしそうに俯いて、肩身の狭い思いをしていた。ただでさえ高校生というのは、自他の恋愛事情に過敏になっている年頃だ。そんななか自分の交際関係が一方的に明るみに出たのだから、彼が居心地の悪さを感じるのも無理はない。
彼の心の声『うぅ……何だか今日は、いろんな人に見られてる気がする……誰を見てもすぐ、目が合っちゃうし……あぁぁぁ! どうしてダニエルはあんなこと言っちゃったんだろぉぉぉぉ! わざわざ他人に言うことなんかないのにぃぃぃぃっ……ううん、もしかしたら言うべきことなのかもしれない……けど! そのタイミングは自分で決めたかったよ……特に、ソフィーとキアラにだけには……』
そう、彼はただ照れ隠しで俯いていたわけではなく、そのほとんどはソフィーとキアラへの罪悪感だった。以前、彼女らからの告白を蹴ったにもかかわらず、自分は勝手に別の人と付き合い始めていたわけだから、それを知った彼女らが傷ついているであろうことは、明白だった……。だからエリスの思考のキャパシティは、『どうやって切り出そう』『どうやって謝ろう』『どうやって納得してもらおう』そんなことばかりで占められていた。
一方そのころ、エリスとは別の教室で『地理』の授業を受けていたソフィーはと言うと(彼女は『英語 + フランス語』のコースなので別教室)……案の定、ご立腹のようだった。先ほど手鏡を割ってしまい、先生に手伝ってもらいながらガラスの破片を掃除していた彼女は、そのせいで怪我してしまった右手の人差し指(絆創膏が巻かれている)を見つめながら、また心を闇で覆い尽くそうとしていた。
だ、ダニエル・シャステル……ですって……? よりによってあんな……あんな『クソナード』が、ワタクシのエリスの恋人ですってぇぇぇぇ!?(く、口が悪いですよ、ソッちゃん!) ワタクシは認めませんわ……認められるものですかっ! 全く、何を考えてるんですのエリスは……自分を”安売り”するのも大概にしなさいなっ!(ダニエルに失礼すぎるっ!)
他方、また別の教室でフランス語による地理の授業を受けていたキアラは……何と授業そっちのけで、超小型『Bluetoothイヤホン』を使って音楽を聴いていた!(試験だったらカンニング疑惑案件!) だが誤解しないでいただきたいのが、普段は彼女も真面目に授業を受けて、勉学に勤しんでいるのである……しかし今日ばかりは仕方ない――彼女も少し、ブルータル・デス・メタルでも”あおって”、絶望に浸りたい気分だったようだ(酒みたいに言うなっ!)。
余談だが、彼女がその授業中聴いていたバンドは『Fleshgod Apocalypse』。以下のような楽曲が順番に再生された(どれもなかなかに、お誂え向きなタイトルだ……)。
・Agony(苦悩)
・Temptation(誘惑)
・The Hypocrisy(偽善)
・The Violation(違反)
・The Betrayal(裏切り)
・Labyrinth(迷宮)
・Kingborn(偽りの王)
・Elegy(哀歌)
その最中、彼女が考えていたのは、こんなこと。
『チクショウ……ついにお嬢も”人妻”か(いろいろと間違いすぎてる!)……あ~あ、負けるならソフィーにだと思ってたんだけどな……まさかよりによって、あんな……あんな……(まさか君もじゃなかろうね、キッちゃん?)……取り立てて形容する言葉すら見つかんないような奴が相手だなんて……(ある意味ソフィーより酷い!)』
『いや待てよ? あんな奴でも彼氏になれるってことは、アタイにもまだワンチャンあるんじゃね……? 体よくお嬢を唆してさ……『スイスも一妻多夫制になったよ』とかなんとか言ってさ……そうすればアタイも、お嬢の”彼氏”になれるんじゃね……?(全てが間違ってる!)』
『って、そりゃ無理な話か……きっとお嬢があいつを選んだのだって、それだけ個人的な繋がりが強かったってだけのことだろうしな……初めからアタイには勝ち目なんかなかったんだわ……そう、アタイはいつだって、お嬢の『好きな人ランキング』の”下位常連”なんだから――』
そして二時間目が終了し、10分間の小休憩が始まった。そこで最初に動き出したのは、先ほどソフィーと同じ教室で地理の授業を受けていた『ニコラ』だった。彼はクラス移動の最中だったエリスを捕まえては、訳も告げずトイレの個室へと誘うのだ――仕方なく、とぼとぼと彼に付いていくエリス……(まるでサマースクールのときの”あのシーン”を、立場を逆にして見ているようだ)。
ガチャンッ! 二人して個室に入ったところで、早速ニコラが本題に入る。「なぁエリー……さっきアイツ(ダニエル)が言ってたことって……マジなの?」
分かりやすく狼狽えるエリス。「ふぇっ? ま、マジって、何がぁ? あぁ! 『ダニエルがこの学校やめる』って話ねぇ~? ざ、残念だけど、マジだよぉ――」
「――『アイツがお前の彼氏』って話だ……」小さくも、重々しい声でそう呟くニコラ。怒っていると言うよりは、どこか悲し気だ……。そしてこうなってしまっては、もうエリスに打つ手はない――彼はただ正直に、「うん……本当だよ……」と答えるのだ。
「いつから……?」ニコラがさらに追及してくるので、エリスはそれに対しても淡々と答えていく。「えっと……たぶん去年の”あの日”からだと思う……あの日ダニエルから『好き』って言ってもらえて、それで僕も『好きだよ』って返したんだ……それだけで、『恋人』って言えるのかは分からないけど……」
「チッ……そういうことか……」途端に苦悩の表情を浮かべるニコラ。彼も今やっと理解したのだ。つい最近までエリスたちが置かれていた苦難・苦境を――彼らは想いが通じたその日に離ればなれとなり、片やエリスは罪悪感と引き換えに右脚を失い、片やダニエルは9ヵ月の時間と一家の大黒柱を失ったのだ。”恋人”とは名ばかり……彼らの時間はほとんどずっと止まっていて、最近ようやく動き始めたところなのだ……。
そこまで考えが及んだからこそ、なおのことニコラは苦しかったのだ。この状況下でダニエルを否定することはできない……それはさすがに最低すぎる……そもそもここまで差を付けられた時点で、もう勝負はついているのだ……いかに自分が奥手だったか――小さなプライドに縛られて、身動きが取れず、結局”現状維持”に甘んじてしまった臆病者だったか……悔やまれるのは、そんなことばかり……。
しばらく逡巡した後、最終的に彼の口から出てきたのは、こんなド直球な質問だった。「それで……もう”した”のか? キスとか……セックスとか……」頼むエリー……『してない』って言ってくれ……お前がそう言ってくれさえすれば、俺は信じっから――。この期に及んで、まだそんな淡い期待を抱いている自分にさえも、嫌気が差す……。
「そ、それは……」さすがのエリスでも、その質問にはすんなりとは答えられなかった。だが嘘を吐いたり、お茶を濁したりする気にもなれなかった――どういう理由にせよ、ニコラがこれほど真剣に知りたがっていることならば、自分も正直に答えないといけないな、とエリスは思った――。「うん、したよ……”つい昨日”……僕はダニエルとエッチした……」
ドクンッ――。ニコラの胃がストレスで痙攣する。幼少期からずっと傍にいて、親友としても”それ以上”としても、ずっとずっと好きだった相手が、別の奴とひと足先に大人の階段を上ったという事実は、彼にとってあまりにも痛恨の極みだった――それも『つい昨日』の出来事……遣る瀬無い、なんてものじゃない……。
ニコラは込み上げてくる吐き気に抗いながら、無理やり笑って質問を続けることしかできない。「へぇーそうかい……それで……”気持ちよかった”か?」自分が最低のクズに思えてくる……端っから自分は『何者でもなかった』はずなのに、どこかエリスを”自分のもの”のように捉えている節があった……身勝手にも……。あーあ、ダッセーなぁ俺……これじゃ丸っきしソフィーじゃん――。
「それは、その……」先にも増して答えづらい質問に、エリスは困ったように言い淀む。それから来たるは、恥じらい二割、困惑八割の沈黙だった。どうしてニコはそんなこと聞くんだろう? 考えても答えは出なかった。「き、気持ちよかったよ……彼、僕のためにすごく、気を遣ってくれたから」
「へぇーそりゃすげー……」もはやニコラの心は壊れる寸前だった。この先にさらなる自己嫌悪が待っていると分かっていても、嫉妬心が湧き起こってくるのを抑えられない。「そんでそんで? 具体的にどんなことしたん? その結果『何回イッた』んだよエリー?」ケッ……そりゃ気ぐらい遣うだろうさっ、当たり前だろ……そんなん俺だって出来たわ……あぁクソッ! 何で俺こんなイラついてんだよ、チッキショォ――。
「ごめん、さすがにそれは……言えないよ……」エリスが申し訳なさそうに俯く。こればっかりは極めてプライベートなことなので、いくら親友の頼みとは言え無理だった。だが仮に彼が赤裸々トークを始めたとて、ニコラは『いや、やっぱいいわ。聞きたくねぇ――』と突き放すのがオチだった。
だからこそ、エリスのこの当然の反応が、反ってニコラを冷静にしたのだ――悔しさをグッと堪えた彼が、歪んだ笑顔を浮かべながらエリスの肩をトンと叩く。「いや、こっちこそごめん……嫌なこと聞いちまって……」どう足掻いても、過ぎてしまったことは変えることができない……それならいっそ、『諦めて』しまった方が楽なのだろう――。「ともかく、いいパートナーができてよかったな……ちゃんと『大切にしてもらえ』よ……それじぁ、俺はもう行くわ。せっかくの休み時間、こんなことに付き合わせちまって悪るかったな――」
そうして、その場を立ち去っていくニコラ。残されたエリスは、個室の壁に身を預けたまま、その緊張が解けるに従い床にへたり込むのだった。な、何だか今日のニコ……ヘンだった……どうしてあんな、悲しそうな目をしてたんだろう……あんな目見せられたら、僕だって悲しくなっちゃうじゃんか――。
それぞれの思いが交錯する『愛の五角関係』が、4月のモーザー学校に『桜の花びら』のごとく花開く……。遅れてやってきた春の香りに、若人たちが見る色は青か、それとも……。泣いても笑っても最後となる『高校生活最終編』が、今始まる。


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