
第四十六章 – 青春時代② 高校生活 Ep.33:箱庭の決闘(デュエル) 後編→完結編
注意:このエピソードは24000文字あります。どういうことかと言うと……ものすっごく長いです!(語彙力っ!)
前回までのあらすじ。
突然ルール説明をし始めたセリーヌの影響で、この箱庭療法が単なる心理セラピーじゃないことを悟ったエリス。しかもその正体は何と、どこかで見たことがあるようなシステムを多数搭載した、似非ボードゲームだった!
それから箱庭ではいろいろなことがあった……大地の精霊が大地に還ったり、ダルメシアンの子犬が野良になったり、湖畔に葦の茂みが生えてきたり、工場が建設されたり……(大して何もない!)。
そんな折、子犬が一匹のウサギにちょっかいを出したことから、ゲームは動き始める――何とその”湖畔の茂みにいたウサギ”は、ビックリして対岸まで瞬間移動してしまったのだ! そしてそれを見た”赤い服の子供”が今、故郷を想い出して覚醒しようとしている……。
しかしてゲームは、佳境へと突入! さぁプレイヤー・エリスよ、汝、深層心理を解き明かし、この箱庭を救済せよ!
エリスの高校休日㉗ 箱庭の決闘(デュエル) 後編
「ぐっ……まさかこんな土壇場で、ポーが覚醒するだなんて……」スイス・プランジャンの草原に佇む心理療法施設『ル・シエル・ブルー』の相談室の中で、セラピスト『セリーヌ・オークレール』がクライアントの美少年『エリス・シンクレア』と対峙している。しかも何やら彼女、苦境に立たされたような様子で卓上に載った”おもちゃ箱”を漁っているのだ。どうやら何か探し物をしているようだ。
㋝「ちょっと待っててねぇ~……ポーのスクーター、すぐ見つけるからぁ~……えぇっと、たぶんどこか下の方にぃ~……あ、あったあった!」ようやく目的の物を見つけた彼女。箱から”小っちゃなキックボードの模型”を取り出しては、それを相手に差し出していく。「はい、どうぞ!」
「ありがとう」礼を言って受け取っては、それを卓上にある別の箱へと入れていく少年。その箱には大量の砂と玩具が入っており、彼はその内の一体(赤い服を着た子供のキャラクター)に、その模型をあてがうのだった。「さぁポー、これで君は自由だ」玩具相手に優し気な言葉を掛ける少年。その様は本来の彼そのものだが、観察する心理療法士は何か、相手が纏うオーラが別のものにすり替わったような、説明し難い違和感を覚えずにはいられなかった。
こ、この子……本当にあのエリスなの……? いつもの彼と何かが違う……この違和感の正体はいったい――。
「どうしたの、セリーヌ?」突然、少年が不思議そうな顔をして、こちらの顔を覗き込んでくるものだから、不意を突かれて思考を乱される彼女。「まだセリーヌのターンだよね? このままターンを終了する?」その純真無垢な表情からは、先ほど感じた『強大な何か』の片鱗はうかがえない。やはり気のせいだったのか――。
㋝「え、えぇ……私のターンはこれでお終いよ」こうして終了する第10ターン。
ポイント➉-C『草原の野ウサギを見たポーが覚醒→スクーターを装備してスーパー・ポーに』
㋓?「やったぁ! よーしっ、反撃するぞ~! 僕のターン! ド――」迷いなく、おもちゃ箱からから新しい玩具を取り出そうとする彼だったが、ゲームマスター・セリーヌが、お約束のように茶々を入れる。
㋝「あっと、ドローの前に、葦の茂みが一段階成長するわ。その証として、ここに一本”成長カウンター”を置くわね――」彼女が手元に置いた別の草原パーツ(緑色した土台)に、草パーツを一つ挿していく。「と言うのも、これら葦の高さは最大3mで、出現した時点で20cm、以降1ターン毎に20cmずつ成長していくの――つまり15ターンかけて、最大長3mに到達するってことね! その過程で葦は、最初の3ターンのみ”草原(正確には”葦原”)”としても扱い、以後は完全に”茂み”となるんだけど……どう? ここまではオーケイ?」
オーケイじゃない! 全長60cmまで草原扱いなのには納得いかん! それじゃほとんどの生物が埋もれてまうやろ! それでもウサギがいたらポーは覚醒してたんか!? ああぁん!?(ゲームの整合性が取れなくなって壊れた)
それにアヌビスは、高さ20cmの草原にも立ち入れないほど葦の茂みが怖いんか!? トラウマが強烈すぎるでしょ! 可哀そうなアヌビスッ!(二回目) あとねぇ……いい加減単位を揃えてたもー! cmとかインチとか、このゲーム長さの単位がコロコロ変わって、ややこいわ!(本来スイスでは、メートル法の方が一般的です)
㋓?「オーケイ! じゃあこれで茂みは40センチになったってことだね!」受容能力が高すぎる少年。教科書に登場する”勉強熱心な好青年キャラ”みたいに、ちょうどいい合いの手を打っていく。「でもセリーヌ? もし茂みが”完全な茂み”になっちゃったら、何が変わるの?」彼のその純粋さを観察しながら、セリーヌはひとまず、今相手しているのは間違いなくエリス自身だと確信する。
㋝「葦が完全なる茂みになると、ズバリ! 『何人も釣りができなくなってしまう』のよ!」案の定、どうでもいい仕様を説明してくる彼女。おい先生、もっとまともなこと言えんのか! アン・グリーン先生とか、エレン・ベーカー先生とかを見習いなさいっ!(※どちらも英語の教科書『NEWHORIZON』に登場していたキャラ。私の連想する”まともな白人女性教師”の勝手なイメージ)
㋓「なるほど! 釣りができなくなるのか~……ってどういうことなの、それぇぇっ!?」ついにエリスも壊れたようだ。未だかつて見たことないようなノリ・ツッコミを披露してくれる。よほどフラストレーションが溜まっていたのだろう……。
㋝「つまり船で沖に出ないと、”お魚を釣れない”状態になってしまう、ってこと! 無論それまで通り、普通に茂みに身を隠したりはできるけど、本来水辺でできていた”魚釣り”は不可能になるのよ――ほら、葦が邪魔で道具を持ち込めないから」
㋓「本来水辺でお魚さん釣れたのっ!!?」
㋝「私、工場を建てたとき言ったでしょ? 『水質が汚染されて水産資源が獲れなくなる』って……水産資源って、他に何のことだと思ってたの?」いや、”獲れなく”とは……ってか、工場があるから、葦がどうとか以前に釣れなくないっ!? 何て酷いことをっ!
㋓「お魚さん釣ってどうするの……? 食べて元気になったりするの……? それともやっぱり、売ってお金にしちゃうの……?」脳内に”はてなマーク”の大群を押し寄せてきて、彼の仮想脳波モニターが『魚群を見つけた魚群探知機』みたくモヤモヤになった。「あと、もしかしなくても、釣るためには”釣り竿”ってアイテムが必要なの?」
㋝「全部正解よ。売ってお金にすることもできるし、食べることもできる。言い忘れていたけど、各キャラクターには”空腹ゲージ”があって、一定期間ごとに食事しないと”体力”が削られちゃうの。具体的には、子供と小動物は10ターンに一度、大人と大型動物は15ターンに一度、神は20ターンに一度食事しないといけないわ。そしてもし三回体力が削られちゃったら、そのキャラクターは……どうなるか分かるわね?」餓死するんですね!? どんだけ残酷で複雑なゲームやねん! 頭回らんくなるわ! ちょっと長考してもいいですかぁ!? うーん……(長考中)……このシステムを分析するに……率直な意見を述べるなら……そう! やっぱ『神は神』ですねっ!!(長考した結果、このコメント)
㋓「分かるけど、ちょ、ちょっと待って! 僕、もう何がなんだか……そのゲージってどうやって把握すれば?」あっ、あとこれも言わせて! 『みんな空腹に強すぎ』ない!? だって葦は15ターンで最大に成長するんでしょ!? ってことは15ターンで3ヵ月は経ってるはずから……大人は何も食べずに9ヵ月弱生きられるの!!? フード&ウォーター&ファイアー&シェルターが無くても全然大丈夫じゃん! 『エド・スタフォード』も『ベア・グリルス』もビックリだな!(※二方とも世界的なサバイバリスト。どんなに過酷な環境に解き放たれても、少ないリソースを駆使して必ず生還する猛者たち)
㋝「安心して、各キャラのゲージ管理はこっちでやってるから――」彼女が手元の紙を示す。そこに鉛筆でそれらしき記載が……ってそんな”くだらないこと”書いてたの!? てっきりエリスの精神分析してるのかと思って、これまで黙ってたのに……。「これを見るに……今のところ、ラッキー(ダルメシアンの子犬)だけが、召喚から10ターン経過して1ゲージ減っている状態ね。でも大丈夫! 前に言った通り、ラッキーは幸運だから、特に何もしなくても勝手に食べ物を見つけて、生き延びられるわ!」何てラッキーなやつだ!「あとボー(羊飼いの少女)だけど、彼女も玩具だからお腹は減らないわ。減るのは”生き物”だけね」失敬な! 玩具だって生きてるんだぞ! いやむしろ、ここにあるの全部玩具じゃない!? あぁもう、状況が複雑すぎてツッコミが追い付かん!
㋓「でも他の子たちはお腹空くんだよね? ってことは……大変っ! 早く何か釣らないと! あっ、ダメか……もう工場があるんだった……」迷惑千万な工場めっ!「でも念のため教えて。釣り竿はどうすれば貰えるの?」
㋝「本物の釣り竿は買うか、私の工場みたいに召喚するしかないわね……ちなみに値段は25メガ・クレジットよ」※MCはゲーム内通貨。レートは大体ドルとかユーロと同じ。「あといくつかの素材を使ってクラフトすることもできるんだけど……まぁその辺は忘れていいわ。たぶん今回は無理だから」今回に限らず無理だわ! 頼むからこれ以上システム増やすのやめちくり~! もうリアル『マインクラフト』すぎて、全部を正しく処理するなんて人間業じゃないから!
㋓「もし釣り竿があって、工場も完全体葦の茂みもなかったら、湖畔で”釣り”をすれば必ず釣れるの?」
㋝「釣りの成否は、1~6の数字を宣言して、6面ダイスを振ることで行われるわ。もし宣言した数字の目が”でなければ”、釣り成功となるの。でも魚にもグレードがあって、一回成功しただけではレアな魚は貰えないわ。よってより上級の魚を得るためには、ダイスロールを”連続成功させなければいけない”ってこと。成功回数と各魚の対応表があるんだけれど、これも今は見なくていいわ――ちなみに私は、開始7ターンで超レア魚『イトウ』と『ピラルク』を釣ったことがあるわ! それぞれ20連続成功時(確率約2.6%)と19連続成功時(約3.1%)に貰える激レア魚よ!」
『どう森』かっ!! イトウとピラルクが同じ水域で釣れるなんて、どう森かっちゅーてんねんっ! どうせその上には『シーラカンス』とかいるんでしょ!? あと……このゲームってよくやるの!? 何? この診療所の十八番なの!? てっきりエリスがすでに元気そうだったから、趣向を変えたセラピーしてるのかと思ってたのに! あ~ぁ、そのレア魚釣れたって回のとき、相手してた人可哀だわ~!(セラピストがずっとダイス振ってるとか地獄)
㋓「へ、へぇ~そうなんだぁ~(もうやめたいな、この遊び……)」さすがの彼も諦めモード(笑)「それじゃ僕のターン入るね? ドーロドロドロドローッ!」かと思いきや、意外にも乗り気(爆) ドロー自体は軽そうだけど、ちゃんと熱血デュエ魂は伝わってくる!「来たっ! 僕の切り札っ!」だから’札’じゃないんだって……あとこのゲーム、おもちゃ箱から好きな玩具取れるから、『ドロドロドロー』も『シャイニング・ドロー』も『ストーム・アクセス』もし放題なんですって……。「勝ったーっ!!」マジでっ!? ってかさっきから、セリフが奇跡的に一致しすぎでしょ、エリス……。
㋝「さぁ、ぶつけてごらんなさいっ! あなたの本気をっ!!」ドドーンッ!! なんちて☆ あぁ……思わず実際には鳴ってない擬音語使ってしまったわ……小説家にあるまじき失態……こんなんもう、漫画やん……いやもはや、能やん……(能なんっ!?)……セルフ・ツッコミ乙……。
㋓「行くよ! 僕は召喚フェイズに入って、『イディス』を召喚っ!」ブロンド髪でニット帽を被った、小っちゃな女の子のフィギュアを場に出すエリス。おぉ、どこの”イディスさん”かと思えば、あれは『怪盗グルー』に登場するイディスちゃんではないかっ!(※彼女は三姉妹の次女で、ボーイッシュでおてんば、オマケに空手まで習っていて、通っている道場では先生の足の小指を折ったほどの猛者だ)
って、いい加減せーやエリスゥゥゥゥゥ! まぁーた”格闘少女”かぁぁぁぁぁぁ!! 引きがフェミニストすぎるやろぉぉぉぉぉぉ!! 惚れてまうやろぉぉぉぉぉぉ!!(言いたいだけ)
㋝「こ、ここに来て……イディス、だと……?」と言いつつ、おもちゃ箱を漁り始める彼女。いや、どこに来てイディスやねん! そんな切羽詰まった顔するなやセリィィィィヌッ!!「か、彼女は召喚時に……”姉妹”の内一体を、場に呼び寄せることができる……さぁ選びなさいエリス……姉か妹か……どちらかをっ!」そう言うと彼女は、両手の平にそれぞれのキャラクターを置いて、相手の決断を仰ぐのだ――ってイディス『リクルーター』かよ! 強杉ぃぃぃ! そりゃ青ざめるわ!
㋓「僕が呼ぶのはこの子だっ! 来てっ! 『アグネス』!」噴火した火山みたいな髪形の、愛らしい黒髪の女の子を選んだエリス。ちなみにアグネスはどんな子かと言うと、天真爛漫でユニコーンが大好き、あげくユニコーンと間違えてヤギを養子にするような猛者だ!(猛者ばっかだなっ!) ちなみにそのヤギの名前は『ラッキー』だ!(ラッキーばっかだなっ!) 意気揚々とイディスの隣にアグネスを召喚する彼。
ポイント⑪-A『イディス&アグネスが第1象限の工場の隣に』
㋝「くっ……やはり赤い錠剤を選んできたか……」何がレッド・ピルやねん! やっぱあの二択の示し方、『モーフィアス』の物真似だったんかい! 言わなければ黙ってようと思ったのにぃ~!(※モーフィアスとは、映画『マトリックス』に登場するキャラクター。彼は主人公『ネオ』に『真実を知るかどうか』の選択を迫る際、右手に赤いピル、左手に青いピルを差し出して選ばせた。赤い方が”真実”となる)
ってかアグネスがレッド・ピルなの!? むしろ理性的なお姉さん『マーゴ』の方が現実見てそうだけど!? その真意はいかに!?
㋓「そう、前にボーが”犬か羊さん”を呼び出せたように……きっとアグネスは”ユニコーンかヤギさん”を呼べるんだ……そうでしょ、セリーヌ?」
㋝「Th-that’s right…」テンパりすぎて英語になるのやめれ……。さっき『ミス・グリーンたちを見習え』って言ったのは、そういう意味じゃなかっ!(お前もいろいろと中途半端に訛ってるけどな……) そんでいいのかよ!? ユニコーンが出せるってことは、つまり――。
㋓「来い! ユニコォォォォォォォォン!!」エリスの”ハンド”にあるユニコーンが出るってことぉぉぉぉぉ! それこそまさに、アグネスだからぁ、できたことぉぉぉぉぉぉぉ!!(”天神”みたいに言うなっ! アグネス→アグネス・チャン→天神って、連想が安直すぎるやろっ!)
※天神とは、『株式会社タオ』が発売するパソコン教材の名称。教科書とリンクした学習システムが売りで、かつてそのCMにアグネス・チャンさんが出演していた。ストーリーとしては、彼女の息子さんが帰宅するなり、『天神天神天神ー!』と言って二階のパソコンへと向かっていき、彼女に見守られながら天神で自宅学習する、といった具合だ。決め台詞は『天神だから、できたこと』。
ポイント⑪-B『ユニコーンがアグネスの隣に』
㋝「も、モンスター三連コンボ……」モンスターではない……模型だっ!! じゃなくて……え? アグネスまでリクルーターなの!? 展開力高すぎて反則でしょ!? 完全に大会の環境クラスじゃん!(箱庭療法の大会って何……)「特にユニコーンは、移動力3、戦闘力も神クラス……おまけにその角には水を浄化する作用まであって、しかも付近の”乙女キャラ”を一体背中に乗せることもできる……」うんっ……次のレギュレーションでは禁止だな、ユニコーン!
㋓「これで準備は整った! 僕は移動フェイズに入って、ボーをセリーヌのワンちゃんに向かって一歩前進!」初めて箱庭に来たにもかかわらず、これまで何もしていなかったボーが、やっとこさその細い足を前に出して、気品溢れる歩き姿を見せてくれる(幻覚)。これで彼女はケルベロスへと一歩分近づいたが、それでもまだ二体の間には二歩分の開きがある。「続いてノーム(地面に埋まっているトンガリ帽子の大地の精霊)を、ガネーシャ(地面に埋まっているゾウの顔した富の神様)に向かって移動!」
㋝「ノームは森の小人モードになっているから、移動速度は通常の――」はいはい、また”三倍”ね。「――七倍よ」七っ!? なにゆえ!?「”大地の精霊”の異名は伊達じゃないの。だから砂の上を走る自転車よりも、倍以上速いわけね」う~ん……たぶん『7人のこびと』になぞらえてそうだな~――何て言ってる場合じゃなくて! えっ!? そもそも自転車って、砂の上を走ってる前提だったの!? だとしたら~……特に、何もないです(納得した)。
㋓「分かった! だったらお言葉に甘えてっ――」嬉しそうに、砂に埋もれたノームの足を摘まみ、七歩分の距離を目分量で移動させていく彼。それによりノームが通った後には、耕された大地の痕跡が残されていく――おかげさまで、すでに干上がっていた小山は、ノームの移動に際して半壊した。とは言え、これでガネーシャとの距離はかなり縮まり、残り六歩分程度となった。「すごい、もうこんなに近づいた!」
㋝「あっと、忘れちゃだめよエリス? ラッキーも気まぐれに移動するのよね? それじゃあ今度こそ、対岸のポーを眺めに水際まで近寄るはずね?」
㋓「その通~り! ラッキーも移動!」子犬のフィギュアを湖畔の茂みに入れる彼。「そこで大人しくしててね、ラッキー? 間違っても湖の水なんか飲んじゃダメだよ? 今は毒が入ってて、病気になっちゃうからね?」フラグにしか聞こえない……。
ポイント⑪-C『ボーとノーム、ラッキーが移動』
㋓「さぁて、満を持して主役の登場だ! 覚醒したポーの力、見せてやる!」スクーターに乗った赤い子供のフィギュアを掴む彼。「”スーパー・ポー”の移動速度は十倍! しかも出会いがしらにずんぐり抱擁ができるっ……だったよね?」
㋝「やぁ~っておしまい!」やられる側が言うんかい!
㋓「それじゃ遠慮なくっ! ポーをアヌビスの隣に移動っ! そしてこのタイミングで、ポーの特殊能力発動! 二人は熱い抱擁を交わす! イチ、ニのサンッ! ビッグ・ハァ~グッ♪」ポーとアヌビスの二体を、仲睦ましげにピッタリくっつける彼。「これでアヌビスはもう、誰にも攻撃できないよ!」
㋝「――と思うじゃない? でもアヌビスは『神』!! つまり人間が定めるコンプライアンスの枠組みの、外にいる存在なの! よってポーの特殊能力に縛られる時間は、わずか1ターンのみっ!!」だから何度言わせるんじゃ! 神だけ従えとけやこのゲームゥゥゥゥゥ!! インチキ効果もいい加減にして大概にしやがれぇぇぇぇぇっ!!(その誇張こそいい加減にしろ)
㋓「けど、ポーが移動できる範囲内であれば、何度でもアヌビスは止められるよね? 今はそれで充分だ!」確かに……むしろ接近するだけで自動的にハグできるポーの方が、この場では何倍も恐ろしい存在か……。アヌビスの移動力は3だから、移動力10のポーは奴から七歩分の距離を保っていればいいだけだもんな……。「そのままポーを元の位置に戻して、”封印”されているスマーフェット(青い肌の森の妖精)にビッグ・ハグ! って……効果ある?」
㋝「残念ながら、ビッグ・ハグでは封印状態を解くことはできないわ。前に言ったように、生と死は自然の理だから、コンプライアンスだけでどうこうできる問題ではないの」
㋓「そっか……なら仕方ないっ! ポーをさらに二歩移動させて、ナニカノ工場(金属を加工して何かを作っている工場)にビッグ・ハグッ……とか、してみたりして?」お茶目な調子で微笑むエリス。か、可愛いっ……けど、たぶんそのムーヴも――。
㋝「さすがにハグしても、工場は稼働し続けるわ――いやそれどころか、逆にヤル気満々になるかも!」やっぱし……って何でやねんっ! 湖に重金属垂れ流すなんて、充分子供向け番組のコンプライアンスに違反してるだろっ!
㋓「えぇっ!? じゃじゃあ、今のナシッ!」そ、それはさすがに……大会だとジャッジ・キルされるぞ、エリス……(だから何の大会やねん)。「気を取り直して、僕はポーを四歩進めて工場の裏側に配置! これで攻撃フェイズに入るよ!」※このターン出たイディスたちは『召喚酔い』で動けない。
㋝「あらっ? ”誰にも攻撃させない”んじゃなかったかしら? って……そんなこと言ってられないわよね? さぁ、思う存分、攻撃しなさい!」
㋓「うん、そうする! ポーでナニカノ工場に攻撃! 悪い工場は、メッだよ!」ポーで工場を小突くエリス――ってポーは攻撃できるのっ!!? 子供向け番組に争いはないんじゃないの!? 自分はビッグ・ハグで”攻撃不可の呪い”かけるのにぃ~!?
㋝「くっ……これで工場への”迷惑レベル”が1ポイント加算されたわ……あと二回攻撃されたら一日休業を余儀なくされる……」と言いつつ例の手元の紙にそのカウントをメモる彼女。「ちなみに工場への攻撃は、ただの”迷惑行為”だから、ポーにも許されているわよ……」あっ、ご説明どうも……って誰に説明したのっ!? まさかとは思うけど、ここで言ってること聞こえてるの!? 怖いんですけどぉ!?
㋓「だね! じゃあ僕はこれでターンエ――」
㋝「見てエリス! 大変っ! ラッキーが勝手に湖の水を飲んでるわ! よほど喉が渇いていたのね……」
㋓「うぇぇぇっ!? ラッキー!? 飲んじゃダメって言ったのに!」早すぎたフラグ回収……。
㋝「まずいはね……これでラッキーは重金属中毒を引き起こして、あと10ターンで命を落としてしまうわ……何てのは冗談! すごくラッキーなことに、彼が飲んだ場所の水は、まだ汚染されてなかったみたい!」運こそ、最強の力……。
㋓「よかったぁ……」ホッとひと安心する彼。こんなことになるなら、いっそボーでラッキーを再捕獲しようかとも思ったが、そうするにも手数が足りなそうなので、今はラッキーの幸運を信じて前に進むしかなさそうだ。「それじゃ今度こそ、ターンエンドだよ」
ポイント⑪-D『ポーがアヌビスをハグ→ポーが工場を攻撃』
㋝「素晴らしい反撃だったわね? でも私はさらにその先に行く! 私のターン! まずは葦が60cmに成長! 次いで工場からの売上10MCを獲得!」成長カウンターを一つ進めた後、懐から玩具のコインを一枚取り出しては、それを机に置く彼女。どうやら、あの安っぽいメッキ塗装のコインが10MCのようだ……。「からのドロー!」また可愛くないのが一瞬見えた……。「エリス、忘れてないとは思うけど、スマーフェットの命の灯が消えるまで、あと3ターンよ? あなたに残されてるのは、あとたったの1ターン……覚悟はできているわね?」
㋓「もちろんだよ。きっと救ってみせる……」
㋝「よろしい。そんなあなたに敬意を表して、私もとっておきの切り札を見せるわっ――」バンッ! 湖の真ん中に、とてつもなく巨大な何かを叩きつける彼女。灰色をした蛇のように細長い謎の生物……ま、まさか……あれはネッシ――。「泉より来りて、世界樹の根を齧れっ! いでよっ! 『ニーズホッグ』!」ネッシーじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!
※ニーズホッグとは、北欧神話に登場する蛇みたいなドラゴン。九つの世界を支える『世界樹ユグドラシル』の根っこに齧り付くことで、絶えず宇宙の秩序を蝕んでいる。北欧神話には『アースガルズ(アース神族の国。天界)』『ミッドガルズ(人間界)』『ヨトゥンヘイム(巨人の国。神々の敵対勢力)』『ヴァナヘイム(ヴァン神族の国。もう一つの天界)』『アルフヘイム(エルフの国。光と美の世界)』『ニダヴェリル(ドワーフの地下帝国。鍛冶と工芸の世界)』『ニヴルヘイム(氷と霧の世界。一部ヘルの領域を含む)』『ムスペルヘイム(火の国。破壊と混沌の世界)』『ヘル(冥界。死者の魂の安息地)』の九つの国が存在し、ニーズホッグはニヴルヘイムの泉『フヴェルゲルミル』に棲み、罪人の血を吸ったりもする。
㋓「なにこれぇ……つ、強そー……」突如、箱庭の中央部に出現した禍々しい怪物を前に、堪らずドン引きするエリス。
㋝「ニーズホッグは世界を蝕む蛇っ! 召喚と同時に、箱庭の根っこに齧り付く!」箱庭の根っこってどこやねん……(セリーヌがニーズホッグのフィギュアを掴み、湖の真ん中をガブガブさせる)ってそこなんっ!? 座標の原点が根っこっ!? いや原点と根は違うやろ……。「これにより即座に、箱庭の全キャラに対し”ダメージ1”加算!」なぬっ!? ってことは空腹ダメージを受けている野ウサギとラッキーが残り体力1、他のキャラたちは残り体力2ってこと!? そんなもん禁止だ禁止ー!「そして以後、私のターンが来る度に、同じ追加ダメージが世界を襲う!」蛇め……世界を壊し、喰らうヘビめ……。「アーハッハッハッハッハーッ!」もう完全に悪役だな……セリーヌ……。
㋓「ど、どうすれば、こんな怪物を倒せるの……?」うん……こいつだけは100%モンスターだわ……。
㋝「ニーズホッグは『死と腐敗の象徴』! 神話では終末『ラグナロク』をも生き延びたのだから、倒す術などありはしない!」
㋓「そんな……それじゃ僕の負け……ニーズホッグを倒す手段は……ない……」
彼が箱庭の不条理に屈しそうになったそのとき、心の奥底から響く声がある。
『あきらめるな、エリスッ。まだ希望はある。みんなの力を信じて、次のターンに全てを託すんだっ』
えっ? 今の声って……誰なの? 僕を呼ぶのは……?
思わず動きを止め、心を澄ます彼だったが、同じ声は二度現れることはなかった。しかし確かに聞こえた、自分を応援してくれる温かな声……どこか懐かしくもあり、勇気と希望に満ちたような、荘厳な声……。その正体に心当たりはなくとも、彼が希望を取り戻すには、充分すぎる出来事だった――。
㋓「セリーヌ……僕は……まだ諦めないぞっ!」勇ましく盤面に向き合う彼。そうだ……きっと今のは『僕自身の声』……こんなところで諦めるなって言う……僕自身の声なんだっ――。
㋝「よかろう……ならば超えて見せよっ! 我が最強の僕、ニーズホッグをぉぉぉぉぉ!!」ゴゴゴゴゴゴゴ!! ただの模型とは思えないほど、迫力と威圧感を放つ大蛇。「続けて我は、手中にある10MCをリリース!」せっかく手にした玩具コインを親指で弾いて彼方へと飛ばす彼女。資金を手放したということは……まさか――。「これにより我は、魔導具『戒めの呪符』を入手!」初お目見えのシステム『貿易』か! 彼女が他国から輸入した物とはいったい……ってあれは『臨時休業(Fermé temporairement)』って書かれた、ただの表札じゃねぇかー!!「そのまま呪符をナニカノ工場に装備! これで工場は”訪問不能”となる!」工場が居留守使って、違法業務続けてるだけでしょうがっ!
㋝「そして移動フェイズへと移行し、ケルベロスを第1象限側に一歩移動! さらにアヌビスをポーから三歩離し、ターンエンドォォォォ!」アヌビスが茂みの外周に沿って移動し、ウサギの隣まで到達する。
ポイント⑫-A『ニーズホッグが湖の中心に降臨→全キャラに1ダメージ』
ポイント⑫-B『10MCを使い表札を買う→工場に装備して攻撃をブロック』
ポイント⑫-C『ケルベルスとアヌビスが、それぞれ天敵から離れるようにして移動』
かくして迎える、運命の第13ターン。葦が80cmへと成長……ドローの前に、一つ深呼吸をして心を落ち着けるエリス……。大丈夫、きっと何とかなる……仲間を信じて突き進むんだ……完全無欠なんてない……だからきっと、ニーズホッグを倒す方法だってあるはずなんだ……そう……完全無欠なんて、ありはしないんだ――。
ここに来てついに、『完璧などない』ことを悟ったエリス……これで彼はもう、完璧主義の呪縛に苦しめられることもないのだろう……だがそれもこれも全て、心に巣食う魔物『ニーズホッグ』を倒して、初めて言えること――勝てエリスッ!! 勝って全ての苦しみに決着を着けろぉぉぉぉっ!!(いつからそんなシリアスなゲームになったん……)
『ニーズホッグの弱点……弱点……確かニーズホッグは、ラグナロクを生き延びた北欧神話の怪物……北欧神話……ラグナロク……そうかっ!』何かに気づいて、おもちゃ箱の中を見つめるエリス。彼はそこにある一つの可能性を見定めて、やがて全てを懸けるように手を伸ばすのだった――。
㋓「ドローッ!」エリスが取ったそれは、厚紙で作られた『一対の翼』だった。キャラではなくアイテム系の”手作り玩具”のようだ。
㋝「そ、それは……聖遺物『天馬の翼』!!」おぉ! 何やら強そうな予感が! その証拠に、中二臭い横文字のオンパレードだ!(まぁ”名前負け”って言葉もありますが……)「それは聖獣にのみ装備可能で、装備された聖獣は移動能力∞となり、三回行動が可能となるっ!!」えぇぇ……名前負けどころか……。「しかも一度だけ”未知の力”を解き放ち、”奇跡”を起こすことができる! タイミングも効力もプレイヤーの自由!」ゴリゴリのチート・アイテムじゃねぇぇぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
㋓「しめたっ! なら僕はこれをユニコーンに装備っ!!」すかさずセリーヌから差し出だされたセロファン・テープを受け取り、張りぼての二翼を一角獣の背中に貼り付ける彼。「進化せよ! ユニコォォォォォォン!!」ギュインギュインギュイィィィィィーンッ!
㋝「くっ……これでユニコーンは、究極完全体『天馬の一角獣』へと生まれ変わった……」※ユニコーンとペガサスの要素を併せ持つ聖獣は、『マイリトルポニー』などでは『アリコーン』と言われたりもします。
何や究極完全体って! 究極体の時点ですでに完全体の上やろっ! 仮にユニコーンが素の状態で完全体クラスなんだとしても、何か装備するだけで跳躍進化するなっ! こんな究極完全なやつで勝利してしまったら、エリスの完璧主義が助長されるやろがいっ!
㋓「それじゃ移動フェイズ行くよっ! まずは地中にいるノームを……ここに移動だ!」ノームを野ウサギの横に配置する彼。「そしてドワーフ・モードを解除! 地上へ戻れ、ノーム!」と彼は、迷いなく小人の足を砂から引き上げては、そのまま地面を整えてそこに立たせるのだ。
㋝「な、なぜそんなことを! 七歩分の移動でガネーシャを掘り出して、100MCもの大金を獲得するチャンスだったのに!」
㋓「いや、これでいいんだ……見せてあげる! これが僕の本当の狙いだっ!」彼が次に掴んだのは、移動力10を有するスーパー・ポーだった。「ポーを八歩移動させて、ウサギさんの隣へ!」もう移動量に対する歩数計算まで完璧にこなしている彼……目分量の1.5インチが身体に染み付いていると見える……。「するとビッグ・ハグが強制発動! ポーはウサギさんを抱きかかえようとする――」
㋝「無駄よっ! たとえ直接的な攻撃じゃないとしても、誰かが自分に触れようとすれば、当然ウサギは脱兎と化す! 発動せよ! 脱兎……しまった! そういうことかっ!」
㋓「気づいたようだね? 今ウサギさんは、逃げたくても逃げられないんだ……なぜなら四方を障害物に囲まれているからっ!」※現状、ウサギの左には湖、上にポー、右にアヌビス、下にノームがいる。
㋝「こ、こんなことが……ああ、あり得ないぃ……互いの特殊能力が反発しあっている!」いや、充分アリエールでしょ……こんなカオスなゲームなんだし、この程度のイレギュラー、イレギュラーですらないわ……。「ハグが脱兎となり、脱兎がハグとなる……脱出不可能な領域で野ウサギがあたふたしている!」ウサギを摘まむ彼女の左手が、尋常じゃない速度で震え始める。「脱兎、ハグ……ハァグ、脱兎……ハァグ、脱兎っ……ハァグ、脱兎っ! まさに無限ループッ!!」ハァグ、脱兎! の語感良すぎだろぉぉぉぉ! まさに永遠リフレインッ!!
㋓「でも無限なんて、それこそあり得ない! なぜならウサギさんの”逃走心”にも、限界はあるはずだから!」ユニコーン・ペガサスの移動力は……今は考えないでおこう……(もっとも、それもプレイヤーの移動能力という限界はある)。あと逃走心って何? ”闘争心”の親戚?「よってビッグ・ハグ成功! ウサギさんはテレタビーランドの仲間――ひいては僕の仲間となる!」まさかスマーフェットでもボーでもなく、ポーが誰かを”懐柔”するとは……。
㋝「い、今さらウサギを手懐けたところで……何の意味もな――」
㋓「それはどうかな!」出たっ、伝家の宝刀!「僕はポーを右に一歩移動させ、ついでにアヌビスにビッグ・ハグ! そしていよいよ、真打ち登場だ!」仰々しい張りぼてを付けた一角獣を左手に持つ彼。「ユニコーン・ペガサスをボーの傍に移動! そしてボーをその背中に乗せて、合体っ!」ちょうちょうちょまちょま、ちょうちょうちょまちょまっ――。「聖誕せよっ! 超越究極完全体『ヴァルキュリア・ボー・ピープ』!!!」ちょー待ーてよーぉぉぉぉ!!(乗っただけ融合キターーーーーー!!!)
※本来ヴァルキュリアが乗っているのは、空を翔ける”戦馬”であって、天馬や一角獣とは別物です。
㋝「ふ、ふつくしぃ……」全くふつくしくねぇわっ!! フィギュアの製造元もキャラの世界観も違いすぎて、”ひとっぽっち”も調和してないからっ!!
㋓「すかさずヴァルキュリア・ボー・ピープをケロちゃんの傍に移動させ、攻撃フェイズに移行!」ケロちゃん言うなっ!「まずはヴァルキュリアでケロちゃんを攻撃! この瞬間ボーの特殊能力『愛の飼い馴らし』が発動! 獣であるケロちゃんを仲間にする!」あっ……能力変わってないってことは、普通に馬に乗っただけのボーなんですね……ってかボーの懐柔効果に名前あったっけ!? えっ? エリス自分で考えたの……?
㋝「け、獣が……ボーの友達に……」これがホントの、けものフレ――。
㋓「戦闘を制したので、”僕のウサギさん”が三歩跳ねる! ぴょんぴょん、ぴょんっ!」ぴょんぴょぴょぴょん、ぴょぴょんぴょんぴょぴょん♪ って、ええぇぇぇ……まさかエリスの狙いって――。
㋝「残念だったわね。ウサギを三回跳ねさせて、復活アイテム『復活祭の卵』を手に入れる魂胆なのでしょうが、ウサギのコントロールがあなたに移った時点で、私が進めた”一回分のカウント”はリセットされているわ。ゆえにあなたが卵を得るには、あと二回戦闘で勝利する必要がある。この盤面でそれをするには、一度切りの”奇跡”に頼る他ない!」もうとっとと奇跡起こして直で”勝利”しろよ……。
㋓「甘いよセリーヌ! 君は一つ見逃している!」
㋝「何ですって!?」
㋓「君は工場に表札を付けて、部外者の立ち入りを制限したつもりだろうけど、そこには一つ、大きな穴があるんだ!」
㋝「な、ナニッ!?」そんなシンプルなリアクション使い出したら、もう末期ですわ……。それに穴とかナニとか、もう少し別の言い回ししてほしかったな……ほらこれ、日本語の小説だからさ……。
㋓「ズバリ言うね? そんな表札は……幼い子供たちには、無意味っ!」ズバーンッ! ってへっ? 無意味って、”子供たちには読めない”ってこと? フランス語でもそういうのあるの?「『臨時休業(Fermé temporairement)』なんて書かれたって、子供たちは理解できないし、そもそも実際には営業中な以上、物理的に入り口が開いているわけだから、子供たちが興味本位で入ってきちゃうことだってあるよね? それに付け加えると、『イディスもアグネスもアメリカ人』なんだ! だから、はなっからフランス語の看板なんか読めっこないんだよ!」
㋝「が、ガビーンッ!!」ぐうの音も出ないと、時として人はこういうリアクションを取ってしまうらしい……。「世界標準な看板にすべきだったぁぁぁぁぁ!! ピクトグラムゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」いや、仮に絵だったとしても、あの二人なら入ってくると思うぞ……。
㋓「と言うわけで、イディスとアグネスで工場に突撃ー!」あぁ……二人が工場内で暴れ回っている光景が目に浮かぶ……。「これで合計三回の攻撃を受けた工場は、本当に臨時休業を余儀なくされる!」工場長……さすがにあの三人からの攻撃には我慢できなかったか……。「それだけじゃないよ! 二回分の勝利がウサギさんを跳ねさせる! ぴょぴょぴょぴょぴょぴょーんっ!!」このターンで一気に、湖畔を離脱して第3象限の小山の向こうへと移動するウサギ。
㋝「い、イースター・バニーが発動し、卵がコントローラーの手に渡る……」用意周到な彼女、間髪入れず玩具の卵をエリスへと献上する。
㋓「やったったったっ卵っ!」ハグ脱兎の件で、語感の虜になったのか……この世界……。「でも僕のターンはまだ終わらないっ! 攻撃フェイズから能力フェイズに移行し、ケロちゃんを解放!」せっかく懐柔したケルベロスを野良に戻す彼(これでケルベロスは、ラッキー同様、誰のコントロール下でもなくなった)。「続いて”移動フェイズ②”に移行! これは三回行動が可能なヴァルキュリアがいるときのみ許された、エクストラ・フェイズだっ!!」しかも”奇跡”の行使権まで残ってるし……使いようによっては、”ずっと俺のターン”も夢ではないのか……。「再び次元を駆けろ、ヴァルキュリア・ボー・ピープ! 目的地は、アヌビスの前だっ!」
㋝「血迷ったわね! まさかとは思うけど、冥界神アヌビスに攻撃を仕掛けようと言うの? なら返り討ちにしてくれるわっ!(※アヌビスはハグで攻撃できないが、当然、攻撃されれば正当防衛は行う。だって命の危険を前に、コンプライアンスなどとは言ってられない)」いやっ、でもたぶん――。
㋓「アヌビスは、上位の神以外との戦闘では必ず勝つ、無類の強さを誇るキャラクターだけど、それは裏を返せば、『上位の神には負ける』ってこと!!」ですよねぇぇぇぇぇぇ!!(当たり前のことしか言ってないけど)
㋝「上位の神……まさかっ――」
㋓「ヴァルキュリアはすでに神の次元へと到達している! ボーは羊飼いの女の子から、”天空の女神”へと生まれ変わったんだ!!」ボー……今度こそ持ち主に恵まれたのか、はたまた恵まれなかったのか……玩具の人生も、大変だな……。
㋝「なら試してみなさいっ! 本当にボーがアヌビスを超えたと言うのなら!」
㋓「やってやるさっ! 行けっ、ヴァルキュリア・ボー・ピープ!! ラヴ・ドメスティケイション!!」
㋝「迎え撃て、アヌビスッ!! 冥封砂棺!!」
バチバチバチバチィィィィィィッ!! 両者の攻撃は互角!! いや違うっ! ヴァルキュリアが優勢だっ!! でもなぜ!?
㋝「ぐぬぬわぁぁぁぁ……アヌビスの種族そのものが仇となったかぁぁぁぁ!!」
㋓「そうっ! アヌビスは神様であると同時に、”ワンちゃん”なんだ!!」
※アヌビスのモデルは、死肉を貪るため夜な夜な墓地の周りを徘徊していた『野犬やオオカミ』とされる。古代エジプトの民は、その様子を見て『獣が死者を守ってくれているのだ』と誤解した。
㋝「くうぅん、なことが……イヌ属であることが災いしたと言うのかっ……い、イッッッヌッ……」もう誰もそんな言葉使わねぇわ……リアルでならもっとな……。
㋓「これで君も仲間だっ! こっちへ来い! アヌビスッ!!」
㋝「らっ……ラヴュゥゥゥゥゥゥッ!!(アヌビスさん、愛に屈す)」そんな『はぷー』みたいな悲鳴上げないで……とは言え、これで――。
懐・柔・成・功っ!! アヌビスがエリスの軍門に下ったぁぁぁぁ!!(ついでにウサギもぴょんっ)
㋓「この時を待っていた! 僕は戦闘終了後、ヴァルキュリアを分離!」馬上からボーを下ろす彼。彼女が降り立ったすぐ横には、残り1ターンの命を懸命に繋いでいるミイラ・スマーフェットの姿が――。「そして攻撃フェイズ②を続行! アヌビスを従えたボーで、スマーフェットに攻撃!」あれっ? ヴァルキュリアじゃなくなったボーは、エクストラ・フェイズで動けるの……? まぁ”ボー自身”としてはこのターン行動してないから、別にいいのか……(ゆっるゆるのルール! 略してゆるーる!)。
㋝「自分の仲間に攻撃するなんて! ついに分別を失ったわね、エリス!」
㋓「違うよ! これがスマーフェットを救う唯一の策なんだ! 行っけー! アヌビスッ!! 葬送時期尚早波っ!!」ダサすぎる攻撃名を叫びながら、スマーフェットの身体を覆う白リボンを解いていく彼。とは言え良かった……よもや自らの手でスマーフェットを黄泉の国に旅出させてから、”タマゴ”で蘇らせる算段かと……。
㋝「よ、よく気づいたわね……アヌビスが『ミイラ化を解くこともできる』って……」
㋓「そんなの簡単だよ! だって攻撃を受けて”封印”されても、まだそのキャラクターは6ターン生きてるんだよね? それってただ単に、『身動き取れなくて呼吸もしづらい状態で、放置されてるだけ』ってことでしょ? それならミイラ作りの達人であるアヌビスなら、元に戻すことだってできるはずだもん!」そ、そんな”状態”だったの……? だったらポーがハグしたとき、気づいて助けてやれよ……。
㋝「そ、そこまで分かってて……どうやら術中にはまったのは私だったようね……あそこにアヌビスさえ置かなければ……」
㋓「ううん……全部偶然だよ……でも偶然だっていい! この世界を平和にできるならっ!!」
㋝「来なさいっ!! ラスト・バトルよっ!!」
㋓「うんっ! でもその前に、僕はイースター・エッグを使う――」そう言って手の中で温存していた卵を、ゲームマスターに返す彼……だがそうは言っても、まだ死者は出ていないのだが……? その真意はいかに――。「対象は『スマーフェット』だっ!」
㋝「卵をキャラに食べさせようと言うの……?」
㋓「そう……だって命を取り戻すほどの卵なんだもん……きっと食べても美味しいし、弱った彼女も元気になるはずだよ!」
㋝「なるほどね……いいわよ! 試しに与えてみなさい?」返された卵を、さらに突き返す彼女。
㋓「うんっ!」卵を妖精の口元へと運ぶ彼。「さぁスマーフェット? 美味しい卵だよ? お食べ?」※本来スマーフたちは、森で採れる食材ばかり食べているので、ほとんど菜食主義的な食生活を送っている。だがもし彼女が、動物性たんぱく質も吸収できるのだとすれば、あの小さな身体に行き渡るだけの充分な栄養素を、あの卵は備えていることだろう……頼む、スマーフェット……雑食であれ――。
キュイィィィィィィンッ!! スマーフェットの身体が光り出す!(妄想) すぐさま彼女が目を覚まし、身体中に漲っているパワーを実感するのだ!! せ、成功だっ! さすがはイースター・バニーよりいでし、究・極・完・全・食っ!! これにより彼女の体力が全回復したばかりか、全てのステータスが引き上げられた『アルティメット・スマーフェット』が爆誕っ!! それを刮目したエリスは、感謝の気持ちを胸に抱きながら、最終決戦へと赴くのだった――。
エリスの高校休日㉘ 箱庭の決闘(デュエル) 完結編
エリス『ありがとう、スマーフェット……僕の気持ちに応えてくれて……』
スマーフェットの精霊『もちろんよ。私はあなたのなかにある、『あなた自身を投影したイメージ』だもの……だから私は仲間想いで、正義感に満ちていて……そのうえ素直で元気! そんな私が卵の力を得たことで、あなたのなかに眠る”英雄”、”太母”、”いたずら者”、”永遠の少年”、”永遠の少女”の元型と合わさって、究極の存在である”自己”へと、一歩近づくことができたの……さぁ見せてあげましょ! あの怪物に……私たちの力をっ――』
※すっかりお忘れでしょうが、この箱庭療法はユング心理学に基づいています。
エリス『うん! 行こうっ――』
部屋の中を、静寂が包んでいる……そんななか、スマーフェットの人形を抱きしめながら幸せそうな表情を浮かべる美少年の目から、澄んだ涙がツーっと流れ落ちるのだ……。対峙するセラピストの表情も、また柔らかく、温かい……。
セリーヌ「その様子だと、スマーフェットは元気を取り戻したようね……? よかったわね……?」
㋓「ねぇセリーヌ……今日は一緒に”遊んで”くれて、ありがとう……僕、何だか子供のころに戻ったような気持ちになって、すごく楽しかったよ……」
㋝「なぁに言ってるのっ……今だって、これからだって……遊びたければいつだって、遊べばいいのよ……? 人は幸せになるために、生きてるのだから……」
㋓「うん……そうだね……」
㋝「それにまさかとは思うけど、”もう勝った”なんて思ってるわけじゃ、ないわよね……?」
㋓「もちろんだよ……勝負は最後まで分からない……だから面白いんだっ!!」
㋝「ふふっ、分かってるようね……ならば、決着を着けましょうっ!!」
㋓「望むところっ!!」
㋝「来なさいっ、エリスッ!!」
㋓「よっしゃー! それじゃまず、さっきのアクションによりスマーフェットは、元気いっぱいの『アルティメット・スマーフェット』へと成長! 全ての能力がパワーアップしたんだ!」
㋝「『命の卵+スマーフェット=究極体スマーフェット』ってわけね! これぞ『スマーフェットの原理』!!」全然ちげぇぇぇぇぇぇ!!
※スマーフェットの原理とは、男性キャラばかりの物語のなかに、紅一点で女性キャラが一人存在すること。しばしばその女性キャラには、典型的な”女らしさ”が投影される。
㋓「そして僕は”移動フェイズ③”に入って、ユニコーン・ペガサスとアルティメット・スマーフェットを、合体っ!」ちょまちょまちょーまちょーま、ちょまちょまちょーまちょーま――。「聖霊誕! 極限超越究極体『アルティメット・スマーフェット・ヴァルキュリア』!!!」ちょー待ーてーよぉ~!!(名前、ほぼアルティメットヴァルキリーやん!! ダメェェェェェェェェ!!)
㋝「こ、これが……究極を超えた究極体……U・S・V!!」勝ち確やろ……こんなもん……。「神々しい……あぁ女神さまぁぁぁぁぁぁぁ!!」
㋓「飛翔せよっ! ヴァルキュリアァァァァァ!!」彼がスマーフェットを乗っけた馬を右手で高々と掲げると、天空の女神が地上の怪物を猛々しく見下ろす……くっ、まさかこのセリフを現実で使うときがくるなんて……(それでは皆さんご一緒に!)……天神天神テンジィィィィィンッ!!
㋓「行くよぉぉぉぉぉ! セリーヌゥゥゥゥゥ!!」
㋝「来いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」ニーズホッグを構える彼女が吠える。
㋓「ヴァルキュリアの攻撃ぃぃぃっ!! 戦乙女の究極武術ッ!!!」
㋝「ニーズホッグの反撃ぃぃぃっ!! 蛇龍の壊滅世界っ!!!」
カチーンッ!! 両者が激しくぶつかり合う!! 今度こそ力は互角!! クソッ……やはりニーズホッグの不死性は侮り難しか……何か勝因があればいいが……。
㋓「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
㋝「キエェェェェェェェッ!!!」
セリーヌさん……そんな迫真の演技で”魔女だか魔王だか”になりきってないで……そろそろ勝たせてくれませんか……? 私もエリスも読者様も、もう限界でございます……。
㋓「行っけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
㋝「ば、バカなぁっ! 我が肉体に綻びがぁっ!!」
㋓「突き抜けぇぇぇぇぇぇ!!!」
㋝「おのれぇぇぇぇ!! 蛇をワンパンで倒すスマーフー使いに、蛇毒を中和できるユニコーンの角ぉぉぉぉぉ! そこに蛇の天敵である猛禽類の翼を持った、ペガサスの空中攻撃が合わさってぇぇぇぇぇぇ!! ニーズホッグの不死性が限界を迎えようとしているのかぁぁぁぁぁぁ!!」もうちょっとドラゴン要素強ければねぇ……ニーズホッグ……。
㋓「ハイヤー!!」ジャキーンッ!! ついにヴァルキュリアの攻撃が大蛇を貫通する。そして颯爽と湖へと着地したヴァルキュリアは、衝撃で吹き上がる水しぶきのなか、凛とした表情でこう決めセリフを呟くのだ。「極致到達……」何それっ!? よもや極致と到達を合成した”かばん語”ではござらんな!? だっさ……(でも一周回って、カッコイイかも)。
㋝「わ、我が心の深層に……触れられちゃった♡ ひでぶっ!!」謎の断末魔を残して、爆散するニーズホッグ。いやもう……世紀末なのか、プリティーなやつなのか……世界観分かんないわ……。
㋓「はぁ……はぁ……やっと、ニーズホッグを倒した……」箱庭療法って、こんなカロリー消費するゲームなん? その辺のビデオゲームよりよっぽど”eスポーツ”してるじゃん……EはEでも、エクストリームだわ……(それは”Xゲームズ”ってジャンルですよ)……じゃあ”エグゾーステッド(疲れ果てる)”で”EXスポーツ”か……。
㋝「はぁ……はぁ……おめでとうエリス……あなたの勝ちよ、やったわね……」こちらもエグゾーステッドなご様子……。「そろそろ開始から一時間経つわね……今日のセッションはこれでお終いにしましょうか……」
㋓「待って、セリーヌ! 最後にやり残したことが!」
㋝「やり残したこと? いいわよ! まだあなたのターン中だものね?」
㋓「ありがとう。それじゃ攻撃フェイズ③を終了して、このターン最後の能力フェイズに入るよ」
㋝「ん? 何の能力を使うのかしら……あぁっ!!」
㋓「僕はヴァルキュリアの未知の力を解放! 一度だけ”奇跡”を起こす!」
㋝「まだそれが残っていたわね! それじゃあエリス……何をお願いするぅ?」
㋓「僕は……『ニーズホッグを、良い子にして蘇らせたい』!」
㋝「え? ニーズホッグを? でも大丈夫かしらぁ? あの子、善悪とか関係なしに、箱庭の根っこに嚙みついて、また悪さしちゃうと思うけど……?」
㋓「ううん、今度こそそうはならないと思うよ! だってそれが”奇跡”ってものだからっ! さぁ帰ってきて、ニーズホッグッ――」そう言うと彼は、先ほどセリーヌが爆散させた(おもちゃ箱に戻した)ニーズホッグの模型を手に取って、それをそっと箱庭に戻すのだ。そして、いつの間にか前いた湖に戻ってきていた大蛇は、訳も分からず途方に暮れた末、ふと箱庭の空を見上げるのだった。「この子はもう『優しいニーズホッグ』になったんだ! だからもう、箱庭の根っこを齧ったりはしないし、むしろ『根っこの守護者』となって、未来永劫この世界を守ってくれるんだ……」
㋝「そおぉ……そうなのね……くふっ、ふっ……」ついに涙腺が崩壊するセリーヌ……この施設が始まって以来、数々のクライアントと”この箱庭ゲーム”をプレイしてきた彼女だったが……こんなエンディングは見たことがなかったのだ……。「じゃあ”優しいニーズホッグ”の出現により、全キャラクターに”ラヴ・カウンター”1プラスね?」彼女が懐から赤いハートの紙束を取り出して、それを一枚ずつ、各キャラクターの横にそっと散らしていく……。
㋓「そう。そして僕は、ヴァルキュリアの合体を解除! スマーフェットをニーズホッグの背中に乗せて、向こう岸まで連れっててもらう!」こうしてスマーフェットが、アヌビスに攻撃されて以来離ればなれとなっていた、親友のポーと再会する……。「そしてこれが、僕のラスト・アクション! 湖の真ん中にいるユニコーン・ペガサスの特殊能力発動! ユニコーンの角に秘められた癒しの力を使って、湖の水を浄化っ! 行っくよぉ~! 浄化の十字切りっ!!」
ユニコーンが湖に頭を浸け、水中で角を十字に動かすと、湖に紛れ込んでいた重金属たちが中和され、水に溶け込んでいく。そして全てに満足したような顔で、プレイヤー・エリスはこう締めくくるのだった。
「ターン、エンド……」
セリーヌは号泣しながら、幾度となく涙を拭い続けて、お終いに「ありがとう……」と小さく呟いてから、手に持ったハートの紙束を箱庭の天空に掲げる。そして彼女は、しかと眼前のエリスを見つめながら、こう宣言するのだった。「私は降参するわ――」無数のハートマークが、舞い散る花びらのごとく箱庭に降り注ぐ……それは優しい守護者の加護により、未来永劫『愛が増え続けていく』という結末を迎えることができた世界への、ささやかながらの祝福――さりとて、この箱庭という一つの世界を讃えた、最高のエンドロールだった……。
「それじゃあ、僕もう行くね――」エリスが相談室の出口へと向かっていく。そして去り際、扉を開く前に後ろを振り返った彼は、優しく微笑みながらこう挨拶するのだった。「こちらこそありがとう、セリーヌ……このゲーム、最初は変だなぁ~って思ったけど……途中から、『セリーヌがたくさん考えて作ったんだんだろうな~』ってことが伝わってきたし、何よりも”とっても楽しかった”よ! また遊ぼうね!」
そうして少年が去った部屋の中で独り、セリーヌは箱庭の傍で泣き崩れるのだった。
あぁ、ったく……恐ろしい子だわ……セラピストの私の方が、癒されるだなんて……でもよかった……あの子はもう大丈夫ね……これから何があったってきっと、あの子なら乗り越えていける……あの子のなかに垣間見えた、”強大な何か”の正体は分からなかったけど……きっと”あの彼”が、秘密裏にあの子を守ってくれているのね……エリス……あなたに出会えて、よかったわ――。
「お父さん、お待たせ!」
セリーヌとの第二回セッションを終えたエリスが、診療所のロビーで椅子に腰掛ける父親の元へと戻ってくると、ちょうど父サミュエルが何やら、誰かと忙しなく電話で話しているところだった。しばらく不思議そうにそれを見つめていたエリスは、電話を終えた父が血相を変えた様子で告げる次の言葉を、一切の心構えすらない状態で聞くこととなった。
「エリス……たった今、エリーズ(エリスの母)から連絡があったんだけどね……彼が目を覚ましたって……”ダニエル君”が、目を覚ましたって!」
えっ――。一瞬だけ血の気が引くエリスだったが、その後すぐに、それが吉報だと理解した彼の身体は、激しく喜びをあらわにするのだった――。
ブワッ――。途端に両目から、泉のごとく涙が溢れてくる。それからしばらくエリスは、人目も憚らず声を出して泣いては、喜びと安堵と感謝の気持ちを、噛みしめるのだった。ダニエルが……ダニエルがっ……生きててくれた……目覚めてくれたんだっ――。
次回、『第四十七章:ただいま、おかえり』
あとがき:今回の箱庭ゲームに現れていたエリスの無意識の解説
①第2象限のボー・ピープ&ラッキー&ケルベロス
→幼少期のソフィー&エリス。ラッキーはソフィーに従順だった過去の自分像。ケルベロスはそんなソフィーに対して抱く彼の反抗心および、ソフィーがエリスに対して抱いていた嫉妬心。
②ボーがラッキーを解放
→そのままの意味。野良になったラッキーが気まぐれに好奇心だけで進んでいくのは、誰彼構わず優しさを振り撒いていた彼自身と、危険に飛び込んでいく彼自身、そして多くの場合、幸運にも恵まれていた彼自身の特性の表れ。
③脱兎のウサギ
→争いを望まない彼の気持ちそのもの。それでも戦闘を制するごとに跳ね跳ぶのは、誰かと衝突し分かり合うたび実感する、己の成長を暗示している。三度目で命の卵を生み出すのは、実際に誰かの命を救えたことへの、誇らしい気持ちの表れ。
④第3象限の小山&ノーム
→近い過去。旭信流空手道場とマルク師範。
⑤第3象限のポー&スマーフェット
→近い過去。守るべき親友ダニエルと、空手を習って強くなったエリス自身。
⑥アヌビスがポーを攻撃→スマーフェットが身代わり
→直近の過去。ダニエルの家庭崩壊事件。アヌビス=事件の加害者ヴィクトール。
⑦ポーが覚醒→スーパー・ポーに
→自分が殺される寸前、トラウマを乗り越えて助けてくれたダニエルのイメージ。
⑧砂に埋まったままのガネーシャ
→取り出すことができない財宝=ヴィクトールからの未払いの賠償金――とりわけ彼の年金口座に入った30万フラン。
⑨箱庭の中央にある大きな湖
→エリスの心にポッカリ空いた穴――ひいては彼の内に眠る強大な何かの象徴(水は無意識領域を表す)。
➉水辺を囲む葦の茂み
→湖を隠蔽する高すぎる障害の表出。釣りができなくなるのは、自分から湖に働きかけたり、湖から魚(返答)が貰えないことの暗示。
⑪ナニカノ工場
→何だか分からないけど、自分の無意識が蝕まれていく感覚への恐怖。およびヴィクトールの勤務先の金属加工会社(エリスは裁判のときに知った)。
⑫ユニコーン&ペガサスの翼
ユニコーンは彼のなかにある”男性性”の表れ。角は男根の象徴であり、ユニコーンの獰猛さは性欲・性衝動を表している。彼が終始ユニコーンを制御下に置いていたのは、彼の女性性がそれだけ強いということもあるが、同時に彼のなかにまだまだ性行為への恐怖心が残っている証拠とも言える。
ユニコーンの角にある浄化作用は、単に心の闇を清めたいという欲求だけでなく、『自分の男根に良い物であってほしい』という願望も含まれている。ペガサスの翼は、そんな欲求全てを自由に解放したいという欲求の表れであり、それらが合体したユニコーン・ペガサスの移動力および複数回行動は、『自分自身を解き放って、もっとたくさんの人と関わりたい、仲良くなりたい、たくさんの人を救いたい』という欲求を表している。
⑬人型キャラがたくさん&少女がたくさん
→箱庭に人がたくさんいるのは、彼の外交的な面・社交性・博愛主義性が表出している。そして女の子が五人なのは、去年結成したガールズ・バンド『ヴァルキュリア・セレナード』への未練からだろう……彼はまたバンド活動を楽しんで、ハジけて、輝きたいと思っているのだ。

第四十七章 – 青春時代② 高校生活 Ep.34:ただいま、おかえり、初体験(契約編)
このエピソードには性的な描写が含まれます。18歳未満の方は閲覧をお控えください。
エリスの高校休日㉙ 聖夜の願い事
2041/12/25(水)。本日はキリスト教徒にとっての最重要イベント『クリスマス』である。エリスの一家は皆『無宗教者』ではあるが、他の多くの家庭同様、毎年この日はご馳走を食べたりして、普段より特別で神聖な気分に浸るのが通例となっていた。
先週の土曜日から、エリスの通う『ニヨン・モーザー学校』も冬休みを迎えており、来年1月6日(月曜日)までの2週間余りの期間、お休みとなっていた。もっとも、土曜日に受けた”あの知らせ”のせいもあって、エリスの心は”お休みムード”とは程遠いところにいた――そう、先の7月8日に起きた『忌々しい事件』のせいで、実に5ヵ月以上も昏睡状態となっていた親友『ダニエル』が、その日目を覚ましたのである。
当然エリスは居ても立っても居られず、すぐにでも彼の元に駆けつけたかったのだが、ダニエルは依然として予断を許さない状況にあり、今はまだ脳機能と身体機能回復のための集中治療と、リハビリに励む必要があるとのことで、退院は早くとも数ヶ月先、家族以外との面会が許可される日付も未定となっていた。
だからこそエリスの心は、聖夜にあっても全く”サイレント”でもなければ、”ホーリー”でもなかったのだ。唯一合致しているのは、外でしんしんと降る積もる粉雪が、彼の胸に募る焦燥感を暗示していることくらいだった。本日はホワイト・クリスマス……人々の願いが”叶うかもしれない”日だ……。
*
その日の終わり、午後10時にベッドに入ったエリスは、しばらく暗闇を見つめたまま、天に祈りを捧げていた。『天にまします、主イエス・キリスト様……お久しぶりです……去年は僕のお願いを聞いてくださって、友達のテムバを救ってくださり、ありがとうございました……あ、あと、この前はダニエルの件で酷い態度を取ってしまい、申し訳ありません……あのとき言った”神様”は、決してあなたのことではなかったのですが、それはそれで、お気を悪くするかもしれませんね……本当にごめんなさい……』
エリスが布団の中で両手を組んで、目を瞑って祈りを続ける。『それで、すごく勝手なのですが、もう一度お力をお貸しください……ダニエルはまだ床に伏せっていて、もしかしたら身体の自由が利かなかったり、記憶が曖昧だったり、言葉が上手く話せなかったりする状態かもしれません……だからどうか彼を、元の元気な彼に戻してあげてください……そしてできることなら、彼のために必死に働いているお母さんと、刑務所にいるお父さんのことも救ってあげてください……もし叶えてくださるなら、僕はクリスマスが大好きになります……アーメン』
そうしてお祈りを終えた彼は、静かな眠りへと落ちていくのだった。
エリスの高校生活㉔ ただいま、おかえり、初体験(契約編)
そして4ヵ月弱の時が流れ、本日は2042年4月16日(水)。現在時刻は午後3時50分――ちょうど放課後の学校を勢いよく飛び出したエリスが、急いで”ある目的地”へと向かい、自転車を漕ぎ始めたところだった。そう、何を隠そう……今から彼が向かおうとしているのは”ダニエルの家”なのだ……これから彼は、先々週ついに退院できた親友との、実に9ヵ月ぶりの再会を果たそうとしているのだ。
あれから今日までの経緯はと言うと、まずダニエルは集中治療を経て順調に脳機能を回復させ、覚醒から3週間後には普通に起きたり意思疎通したりできるようになった。それから身体機能と認知機能回復のためのリハビリが2ヵ月間続き、そのころから徐々に、家族以外との”オンライン面会”も許されるようになった。
初め、エリスがリモートで彼と再会したときには、まだ流暢に言葉を話すのは難しい様子の彼だったが、それも回を重ねるごとに改善していき、今では事前と遜色ないまでに言語能力が回復していた。そんなこんなで先々週、待望の退院を迎えることになったダニエルであるが、それでもすぐに学業復帰できるわけではなく、今はまだ経過観察と日常生活への適応を目的として、自宅療養と外来でのリハビリを続けている状態だった。
とは言え、当のダニエルはすこぶる元気そうで、画面越しに見る彼はもう、『エリスの知っている彼自身』と言っても差し支えないほど、生き生きとしていた。幸いにも、彼の記憶・認知・言語・身体機能には目立った障害は見られず、『積もる話』も少しずつ消化していけており、あとはもう、互いに直接会える日を心待ちにするばかりだった。
そんな折、先週ダニエルの方から、『今度会えないかな?』と誘ったのをきっかけに、二人は再会を約束する――そして言わずもがな、本日こそが『その約束の日』なのである。今現在、息を弾ませ自転車のペダルを漕ぐエリスは、もう目の前まで迫ったダニエルの家を見定めながら、ウキウキした気分で両手のブレーキ・レバーを引くのだった。
あぁ、やっと君に会えるんだね……画面越しじゃない、本当の意味でっ――。自転車を家に前に駐輪させたエリスは、颯爽と玄関の前まで歩いていき、すぐさまインターフォンを鳴らそうとする――がしかし、去年の”あの悪夢”の記憶が呼び覚まされ、躊躇いと恐怖の感情が胸を締め付けるのだ。
そこで一つ深呼吸をして、ありったけの勇気を奮い起こそうとするエリス。大丈夫……もう”あんなこと”は起こらない……辛い出来事は全て乗り越えたんだ……だから今日は絶対に……絶対に『良い日』になるんだっ――。ピーン、ポーン♪ 彼の勇敢な人差し指が、春の木漏れ日のように優しいドアベルの音を奏でる。すると家の中から人の気配がして、やがてドアが開かれる――。
「あっ……」出迎えてくれたのはダニエル本人だった。彼の姿を見た瞬間、エリスは頭が真っ白になり、ただただ口から『あっ』という、弱々しい感嘆語だけを漏らしてしまう。咄嗟に何か言おうとするも、掛けるべき言葉が見つからない……。結局テンパったあげく彼は、「あ、あの……久しぶり、ダニエル!」と、全くもって面白みに欠ける挨拶をするのだった。
これに対してダニエルは、クスッと笑ってから落ち着いた態度で、「うんっ、久しぶりっ。確かぁ……前世ぶりだっけ?」と、痛快なジョークを交えて応えてくれる(ある意味では、全く笑えないが)。これにはエリスも、「うんっ、たぶんそれくらい(笑)」と、一気にリラックス・モードに突入する。
「さっ、入ってはいって! ちょうど今、家には誰もいないんだ」ダニエルがエリスを家に招き入れながら、ご丁寧にも家内の状況を説明してくれる。「ママは仕事。お祖母ちゃんも出掛けてる。二人とも”帰りは遅い”って言ってたから、今日は気兼ねなく遊べるよ!」
「お祖母ちゃん? 今はお祖母ちゃんとも暮らしてるの?」玄関で靴をスリッパに履き替えながら、エリスが素朴な疑問を口にすると、ダニエルが玄関戸を施錠しながら答えてくれる。「うんっ。僕の退院に合わせて、一緒に暮らすことになったんだ。ホントはお祖父ちゃんもいるんだけど、もう大分身体が弱ってるから、今は遠くの『介護付き老人ホーム』にいる」その話を聞きながらエリスは、とりあえず普段ダニエルが『一人きりで家にいるわけじゃない』と分かって、安心する。
「それにしてもエリスッ、髪伸びたね?」ダニエルがエリスの髪にサッと指を通してから、笑顔で率直な感想を述べる。前までの彼なら、こんな積極的に友達とスキンシップをとるようなタイプではなかったはずだが、今日の彼はいつになく大胆不敵なようだ……。「長さはちょうど、『ミズホ』と『綾瀬さん』の中間くらい? すっごく可愛いんだけど、何だか僕~……まだその髪形、”エリス”って実感が湧かないかも(笑)」
こんなことを言われ、一瞬だけ『もう髪、切っちゃおうかな……』と思うエリスだったが、すぐさま頭を切り替えては、こう返事する。「うん、実は僕も……自分で自分って感じがしない(笑)」彼が今しがた感じた不満感はまさしく、『新しい髪形が恋人に不評だったときの乙女』のそれであり、エリスは自分がすっかり『ダニエルの彼女になった』みたいな思考回路をしていることに、一抹の照れくささを感じるのだった。
「ははっ、だよねっ」そんなエリスの心根を知ってか否か、心地良さそうに笑うダニエルだったが、さすがは”男の娘心”を熟知している――ちゃんと最後には気配りの言葉をかけてくれるのだ。「まぁでも、君はどんな髪形でも似合うよ。いつでも可愛いっ! だから僕に気を遣って、『元の髪形に戻そう』とか考えなくていいからね?」
これにはエリスもご満悦だ。「う、うんっ……」と”はにかみ”ながら、襟足のところを手櫛する。そして彼も気づいたようだ、ダニエルの様子がいつも違っていることに――。『な、何だかダニエル……今日はすごく大人っぽいな……自信が漲ってるって感じ……』ふーむ、なぜだろう……? 長期間の昏睡状態を経て、彼の心境に何らかの変化があったのだろうか……?
「それはそうと……学校疲れたでしょ? 何か飲み物飲む?」我々が不思議がっているのを余所に、ダニエルが奥のキッチンへと進んでいく。「今あるのは、牛乳とスースモスト(スイスで定番のリンゴジュース)、あとフォーカス・ウォーター(同じく定番のビタミン飲料)だけど――」エリスも彼を追っていくが、意思に反して胸の奥がザワつくのを、どうすることもできなかった。なぜならこの家のキッチンはまさに、彼が右脚を撃たれて、とてつもない苦痛を味わった事件現場だったからだ。何か答えなきゃと分かっていても、彼の喉は緊張するばかりだった。
そこでようやく、彼の顔色の変化に気づいたダニエルが、親友の機微を案じるようにこう続ける。「そっか、ごめんね……この家は君にとって、できればもう二度と足を踏み入れたくない場所なんだよね……それなのに僕ってば、無神経に君を誘ったりしちゃって……」
これに対し、すぐさま弁明するエリス。「ち、違うよっ! 今日は僕が望んで来たんだし、それに君のお父さんともちゃんと分かり合って、今ではすっかり打ち解けてるくらいなんだ! だ、だから……全然、大丈夫なんだ……ちょっと、辛かったこと思い出しちゃっただけで……」それこそ紛れもなく、『トラウマ』というものではあるが……。
「それなんだけどさ……僕はどうしても釈然としないんだ――」ダニエルが不快そうに顔を歪める。「君は何で”あの人”と打ち解けてるの……? そりゃ、経緯は説明してもらったけどさ……あの人は僕らを苦しめた張本人でしょ? なのにどうして君は、彼と平然と話をしたり、彼を許したりできるの? 君は優しすぎるよっ!」ダニエルの目に、憎しみの火が灯る。思えば、彼が疑念を抱くのも当然だ……どこの世界に、殺傷事件をきっかけに仲良くなる加害者と被害者がいるだろうか? ダニエルの場合、その両者が身内なわけだから、なおのこと理解不能だろう……エリスの返答はいかに――。
「僕は……優しくなんか、ないよ」エリスが赤裸々に心中を吐露していく。「事件の後、すごく荒れちゃってて……君のお父さんにも、たくさん酷いこと言っちゃった……でもいろいろ考えて、ようやく気づいたんだ――『罪を憎んで人を憎まず』。人が前を向いて歩いていくためには、それしかないんだって……だから僕は、あの人を許すことで、自分自身も許したい……そうしていつか、自分だけの『心の蒼天』を見つけたいんだ……ごめんね? 君の立場からだと到底、受け入れ難いことだとは思うけど……これが僕の選択だからっ」
確固とした態度でそう主張する彼に対し、しばらくダニエルは鋭い眼差し返していたが、やがて一つの溜息を吐いてから、こう答えるのだ。
「分かったよ……なら僕も、そうする……。と言うか、『そうできるよう努力してみる』」この返答に意表を突かれたエリスが、驚いて目を丸くすると、ダニエルは葛藤の色をのぞかせつつも、こう続けるのだ。「僕も少しずつ、君を見習って強くなりたいから……それに今は僕、君が”ここ”にいてくれるだけで充分なんだ……だからもうウジウジ悩んだりして、時間を無駄にしたくない……一刻も早く君と、失った時間を取り戻したい――」
バサッ。気づけばエリスは、ダニエルの胸の中にいた。戸惑いを感じる間もなく、弛緩していく身体……耳元で彼の震える声が囁く。「君が生きててくれて、よかった……もう絶対放さないから……」彼の温もりに抱かれながらエリスは、胸中で『自分の心を覆っていた最後の氷壁』が溶けていくのを感じた。強く抱き返しながら、彼もこう告げる。「こちらこそ、生きててくれてありがとう……ダニエル……」
しばしの間、二人の熱い抱擁は続いた。
*
それからドリンクを飲んで、ダニエルに支えてもらいながら階段を上り、二階の彼の部屋に入ったエリスは、早速彼から『右脚の断端を見たい』という注文を受け、快くベッドに座って義足を脱いでいた。
「うんしょっと――」ソケットからライナーピンを抜き取り、続けて彼がライナーを脱ぐと、白くて艶やかな乳鉢のような脚が現れる。すぐさまそれを、興味津々で覗き込もうとするダニエルだったが、エリスは恥ずかしそうにそっぽ向いては、「ちょ、ちょっと待ってね。まだ汗とワセリンで汚いから、一度ウェットティッシュで拭かせて!」と、鞄の中を物色し始めるのだ。
そんな彼を見てダニエルは、『もう、恥ずかしがっちゃってぇ……そんなの僕、全然平気なのに……』と思っていたが、何だかんだ、恥じらいながら慌てて作業するエリスの姿は可愛かったので、しばらくはその姿を見てホッコリしながら、時が来るのを気長に待つのだった――20秒後、脚を拭い終えたエリスがようやく、「は、はい……たぶん、綺麗になったと思う」と脚をこちらに向けてくる。
「うわぁ……すっごく、綺麗……」ダニエルが床に片膝を突きながら、エリスの右脚を持ち上げて観察し始める。途端に口を衝いて出るのは、やはりその圧倒的美しさへの、何の捻りもない直截的な賛辞だった。もうその状態こそ完成形で、『彼は初めからその姿で生れてきたのではないか?』とさえ思えるほどの、完璧な脚なのである……。
とは言え、そんなのはデタラメだ……実際には彼は、卑劣な暴力の犠牲者であり、訳もなく壮絶なまでの苦痛を味わわされた末、右脚の膝から下を失っただけなのである……それを分かっているからこそダニエルは、その脚を優しく摩りながら、こう謝罪せずにはいられなかった。「ごめん……僕のパパのせいで……痛かったよね、辛かったよね……本当にごめんっ……」すると眉根を寄せて微笑むエリスが、静かにこう答えるのだ。
「もう……それは言いっこなしだよ。君はもっと重傷だったんだから……ね? もう嫌なことは忘れて、これから”楽しいこと”いっぱいしようよっ」だが彼のこのセリフが、ダニエルの心に燻っていた火種を、激しい業火へと変えてしまうのだった。「楽しいこと、か……そうだね! じゃあ早速――」チュッ、チュッ……。突然ダニエルが、エリスの右脚に愛おし気なキスをし始める。これにはさっきまでオットリしていたエリスも、何が何だか分からずに赤面する。「だ、ダニエルッ? 何してるの?」
「チュッ――だからね――チュッ――楽しいこと――チュッ――だよ」エリスの穿く長ズボンの裾を捲り上げながら、断端から太ももまでの道のりを、キス攻撃で北上していくダニエル。やがてエリスのことをベッドへと押し倒した彼は、その赤くなる耳元でこう囁くのだった。「ねぇエリス……”この前の続き”、しよ……?」
さすがに動揺を隠しきれないエリス。彼としては今日は”普通に”、ダニエルと遊ぶつもりで来ていたからだ。もちろん、『期待していなかった』と言えば嘘になるが、何も病み上がりの彼と久々の再開を果たして早々、こんな雰囲気になることなどないだろう、と思っていたのである。それにどの道、エリスには”そうできない”理由もあった――彼は確かな幸福を感じながらも、断固としてこう答えるのだ。
「だ、ダメ……できないよ、僕……」するとダニエルが、耳を咥えながらこう返してくる。「ろうひれ(どうして)……?」その感覚が実にこそばゆくて、嫌らしくて……エリスは身体中にゾクゾクとした快感が走るのを感じながら、なおも反抗する。「ど、どうしても……」こんな曖昧な理由で拒絶せざるを得ないことが、もどかしくて、申し訳なくて……彼は悔しさと遣る瀬無さを抱えたまま、震えることしかできなかった。するとこれが、『最上級の拒絶』として作用してしまう――ダニエルが彼の身体から離れては、悲し気な顔をしてこう呟くのだ。「もしかして……もう僕のこと、嫌いになった……?」
「ち、違っ――」咄嗟に上体を起こして、あらぬ誤解だけは解かねばとする彼だったが、ダニエルから「じゃあ、どうして?」と尋ねられたが最後、ついに釈明を余儀なくされる。「それはね、ダニエル……僕が『呪われているから』、なんだ……こんなこと、言っても信じてもらえないかもしれないけど、僕は『エッチなことをすると、必ず悪いことが起こる』運命にあるんだ……単なる『ジンクス』って言われれば、その通りなのかもしれない……でも現に僕は、何度もそれを経験してきていて、その極めつけが”今回のこと”だったから……もう、怖くて……またあんなことが起こるかもしれないと思ったら、どうしてもっ……怖くてっ……」
彼が最後、涙を零しながら釈明を終えるのを見て、無言のまま真剣な表情で俯くダニエル……そうして今回のところは彼も、潔く”楽しいこと”を諦めるかに思われた……しかし――。「だ、ダニエッ……やっ、やめっ――」俄然暴走気味に、エリスの胸部を貪り始めるダニエル(いきなり彼は、両手で両胸を激しく揉みしだきながら、服の上から右乳にしゃぶり付いてしまったのだ)。それから彼が、たっぷりと含ませた唾液で衣服を濡らしていくと、障壁の向こう側から微かに、勃起した乳首の感触が舌に伝わってくる……。
対するエリスは、懸命にダニエルの肩を押し返しながら、その懐かしい快楽に抗い続けている。「だ、めっ……だっ、て……言ってるの、に……あっ――はっ、あんっ」ブラ、キャミソール、Tシャツと、三枚の布を隔てていてもなお、その激しすぎる刺激の前では無に等しかった(彼はそれプラス”カーディガン”を羽織っているが、胸元が開いているので盾にはならない)。「おねがぃ――はんっ――だにえ、るぅ――んっあっ――ぼくを――ふぁっ――こまらせない、で……」
ここで攻撃の第二ウェーブが終了する。グチョグチョになった右乳から顔を上げたダニエルが、呼吸を荒げながらエリスの顔を覗き込むと、同じく涙でグチョグチョになった彼が見つめ返してきて、「ど、どうして……こんな……」と掠れ声で囁くのだ。そしてダニエルは答える。「エリス、信じて……今日僕がここで、『そんなジンクスは嘘っぱちだって』証明してみせる……そんな呪い必ず、解いてみせるっ!」彼の決然とした態度が、エリスの心を打つ。でも、それでも……もしまた本当に何か起こってしまったら……そのときこそ僕は、もう二度と立ち直れない……だったらそんなギャンブルはしたくない……別にセックスなんて、できなくてもいいんだ……僕は君と、みんなと……ただ穏やかな毎日を過ごせれば、それでいいから――。
「もし嫌なら、ずっと抵抗してていいよ……でも僕はやめないからっ――」そして始まる、第三ウェーヴ。ダニエルはエリスの盾を一枚引っぺがして、今度は左乳首を攻めていく。一段階刺激の強度が上がったことで、エリスの理性が大きく削がれる。もっとちゃんと抵抗しなきゃと分かっていても、成す術なく身体が悦ぶものだから、もうどうすることもできなかった。「抵抗しないってことは、このまま続けてもいい、ってことだよね?」相手に抵抗の意思がないと見るや、すぐさまキャミをも剥いで、現れるブラジャーにかぶり付く彼。もうほとんどダイレクトに伝わってくる、彼の舌使いを全身で感じながら、エリスは神様に懇願するのみだった。
お願いです、神様……ダニエルを止めて……さもなくば前みたいに、僕の”性感をなくして”ください……だってもう無理です……僕はダニエルが好きなんです……だからもう我慢できない……これ以上この快楽には逆らえない、逆らいたくない……ねぇ、もういいですよね、身を委ねたって……いいですよね……神様――。「はぁ……はぁ……だに、えるぅ……」ついに理性の綱が断ち切られたエリス、自らブラジャーを擦り上げて、己の恥部を晒していく。「き、きて……」
ダニエルは目の前に出現した、薄紅に色づいた二つの蕾を凝視してから、やがてその一方に吸い付いては、もう一方も指で愛撫し始める。一刻も早くそれらを開花させるために……そして次なる新芽を”発芽”させるために……。こ、これがエリスの乳首……可愛いっ……可愛くて美味しいっ……さぁ咲けっ……咲けよ、エリスッ――。
「だっ……だにえ、りゅ……ご、ごめ――んあっ……も、もうイッちゃ……イッちゃ――うあんっ! あっあっ――」エリスの身体が激しく痙攣する。実に一年ぶりに味わう、性的快楽による絶頂(※以前カイトとビデオ・セックスしたのが2041年の4月21日)……エリスは霞む視界のなかで、呆然と部屋の天井を見つめながら、己の不甲斐なさを嘆くのだった。や、やっちゃった……僕、あのころから全然進歩してない……これでまた悪いことが起こる……怖い……もうやめなきゃ……ここで、やめなきゃっ――。
「エリス……気持ちよかった……?」美しく咲いた”三輪の花”を眺めながら、さも満足げにそう言うダニエルに対し、エリスは無言のまま微笑んで、コックリと頷く。だが命の営みが、こんなすぐに終わるわけもなく、創造主ダニエルは次なるプロセスへと進もうとする。「それじゃ”続き”、するね? 君のパンツ、脱がせるよ――」へっ? 当然エリスは大慌てだ。
「ちょ、ちょっと待っ――」すかさず貞操を守ろうとするエリス。彼自身、これ以上やってしまったら取り返しのつかない事態になる、という予感をヒシヒシと感じていたのだ。もし”最後”までやってしまったら、よもや隕石でも降ってくるのではないか、と……。しかしダニエルの腕力には到底太刀打ちできない――彼のパンツは無情にも下され、彼の股間とマイクロペニスが容赦なく、ダニエルの視線と外気に晒されてしまう。
そして創造主は思う。こ、これがエリスのおチンチン……小っちゃくて可愛い……もっと……もっとよく見せて――。間髪入れずしゃぶり付こうとするダニエルの頭を押させて、エリスが血迷った発言をする。「待ってダニエル! いいよっ、別に見てもいいけど……触っちゃダメっ! 僕もう充分気持ちよくなったからっ! あとはダニエルが気持ちよくなって! ねっ?」彼ももう、錯乱状態なのだろう……彼氏に対して平然と、『見てもいいから、オナニーだけで満足して』などと口走っているのだから……。
もちろんダニエルには、そんなつもりは毛頭ないようだ――。「やぁ~だっ!」と言って、敵軍の防衛ラインを難なく突破しては、その”新芽”のかぐわしい香りを、胸いっぱいに吸い込むのだ。エリスはもう恥ずかしすぎて、目を閉じて顔を背けることしかできない。そしてソムリエの感想が聞こえてくる。「はぁ~、”エリスの匂い”だぁ……甘くて優しい香り……でもぉ、ちょっとだけ”ツンとくる匂い”も混じってるなぁ? なんだろうこれ……? エリス、何だか分かるぅ?」ダニエルの意地悪な言葉攻めを受け、エリスはさらに錯乱する。
「そ、それは”オシッコの匂い”だと思うよ……だっておチンチンって、オシッコが出るところだもん……ねっ、ダニエル? そんなところ汚いから、触っちゃダメだよ?」彼の決死の誘導が功を奏してか、ダニエルは「分かった、じゃあ触らない……」と諦めてくれる……がしかし! これは”新たなるプレー”の幕開けだった。彼が股間の前で頬杖を突いて、こう続ける。「その代わり、遠慮なく”見せてもらう”ね!」
こうして彼の”羞恥プレー”が始まった。すぐさま鋭い視線を”新芽”に向けながら、思いおもいの言葉をぶつけていくダニエル。「それにしてもエリスのおチンチンって、小っちゃくて可愛いね?」
堪え忍ぶエリス。「そ、そういう病気だから……」間違ってもペニスを勃起させまいと、内々で己を律し続けるのだ。しかし敵兵の執拗な尋問が続く――。
ダニエル「タマタマもツイてないんだね? ”袋”も……何だか不思議だね?」
エリス(プルプル震えながら)「……(だから、そういう病気なんだってば……)」
ダニエル「それにさっきイッちゃったのに、全然濡れてないんだね……? 精子だけじゃなくって、カウパー液とかも出ないの?」
エリス「出ない、こともないと思うけど……たぶん、”久しぶり”だから……」
ダニエル「前は出てたことあるんだ? エリスでも”オナニー”ってするんだね?」
エリス「きょ、去年……一回したっきりだもん!(本当は二回)」
ダニエル「見たかったなぁ……エリスが気持ちよくなってたとこ……ね? エリス? また気持ちよくなりたくなぁい?」
エリス「いいよ、もう……それよりも、君が気持ちよくなって……」
ダニエル「分かった……じゃあ”あと10秒間”だけ待ってるね? それで君が”勃起”しなかったら、君の勝ち――もう僕が”一人でして”終わりにする……それでいい?」
エリス「い、いいよ……だからはっ、早くっ……してっ」
ダニエル「イ~チッ、ニ~ィッ、サ~ンッ、シ~ィッ……」
彼のゆったりしたカウントを聞きながら、エリスは頭の中で一心不乱に、自分にこう言い聞かせる。『思い出せ、エリス……これまで何があったのかを……もう繰り返したくないでしょ!? だったら耐えてみせてよっ!』ダニエルのカウントが進む。「ゴ~ォ、ロ~クッ、シ~チッ……」よかった……もう終わる……何とか耐えられそう……僕の勝ちだ――。彼がそう気を緩めた瞬間だった――。
「ハァ~~~~チッ(huiiiit)」ダニエルがカウントに合わせて、エリスのペニスに息を吹きかけ始める。その感覚に不意突かれたエリスは――。「キュ~~~~ウフーッ(neuuuufu)」情けなく”新芽を成長”させてしまうのだった。「ジュウッ! はい、エリスの負けー!」僕のバカァァァァァァァ――。
もちろん、納得いかない彼。「ひ、酷いよっ! ”触らない”って言ったじゃん!」
ダニエルが屁理屈をこねる。「うん、だから”触らなかった”よ? 今のは単なる『息』」まぁ確かに、エリスのペニスを”芽吹かせた”のは、彼の”息吹き”である……。
「で、でもっ! 全然”10秒”じゃなかったよ! あんなの反則じゃ……」と言いつつエリスは、すっかり”大地”から水と養分を吸って、ピクピクと反り立っている己のペニスを、恥ずかしそうに見つめるのだ。
すると、そのすぐ後ろに接近したままのダニエルが、シュンとした顔でこう答える。「そうだね……僕の反則、僕の負けだ……じゃあ、今日はこれでお終いだね……でもホントに大丈夫……? エリス……おチンチン”こんな”だけど?」彼は再度ペニスに息を吹きかけてから、クンクンと匂いを嗅ぐ。「すっごい”エッチな匂い”もしてるよ……? それなのに君はまだ、”馬鹿なジンクス”に囚われて、『気持ちよくなりたくない』なんて言うの……? ねぇエリス……潔く観念して、僕に”食べられ”ちゃわない?」
「君は、何も分かってない……」エリスの目から涙が零れる。もうこんなプレッシャーの板挟みに合って、生殺しの状態でいるのは限界だった。彼の不満が爆発する――。「そりゃ僕だって、君と自由にエッチがしたいよ! でも世界がそれを許してくれない! 僕の呪いは”本物”なんだよ、ダニエルッ! だから――たとえ君にどう思われても構わない――もうはっきり言うね? 『僕は君とエッチできないし、気持ちよくもなりたくない』! ホントは”さっきの”だって、いけないことだったんだ……あれだけで何が起こるか……僕は考えるのも恐ろし――んあっ♡」
彼の答弁などどこ吹く風――ダニエルは目の前にある”バナナ”の皮を剥いてから、それを軽快に扱き始める。有無を言わせぬ強烈な快楽が、エリスの全身を突き抜けていく。「やっ、やだって……言ってりゅっ、のに――あっ、あんっ♡――どうして……分かってくれにゃい――んっんっ――にょ……?」次第にクチュクチュという音が聞こえ始め、バナナの奥から透明な蜜が溢れてくる。『これ以上弄られたら、またすぐイってしまう』そう思った彼が語気を強める。「ダニエルゥ! ホント――んあっあっ――これ以上やったら――ひっんぐっ――お、怒るよっ!」
彼のお叱りを受け、ようやっと動きを止めたダニエルが、辛そうな顔をしてこう告げるのだ。「怒ってもいいよ……でも僕は、君に”嫌われてない”限りは、この”行為”を続けるよ……だって僕が重要だって思ってるのは、『君の本心』だけだから……君が僕と、『本当はエッチしたい』って思ってくれてるなら、僕だってそうしてあげたい……ましてやそんな、”非科学的なジンクスが怖い”なんて言われたら、なおのこと『君を救ってあげたい』って思う……たとえ無理やりにでも――」
ベッドを軋ませて、エリスの目の前まで接近したダニエルが、切なそうにこう続ける。「ねぇエリス……これが最後のお願い……『僕のこと、信じて』くれないかな……? もし信じてくれるなら、約束する――僕がそのジンクスを破壊してみせる、って……。でももし、それでも君の恐怖が勝るって言うんだったら、そのときは分かった――もう二度と”こんなこと”しないよ……。さぁ……”信じてくれる”なら、『僕にキス』して……」
「ず、ずるいよ……」エリスが不都合そうに顔を背ける。心のなかがグチャグチャで、もうどうにかなってしまいそうだった。「そんなこと言われたら、僕……」本当は始めから、答えは決まっていたのかもしれない……でも『もし、もし何かが起こってしまったら』……その”もし”が消えない限り、臆病な自分は永遠に”現状維持”を選んでいただろう……だからこそ自分は、『責任をなすり付けられる誰か』の存在を、心の奥底で切望していたに違いない……今、『言われたいと思ってた言葉を、全部を言ってくれている人』を目の前にして、どうして自分が拒絶できようか? そう……初めから答えなど、決まっていたのだ――。
「君を信じるしか、ないじゃんかっ――」号泣しながら、ダニエルの唇を奪うエリス。この口づけは言わば”契り”である。『もう金輪際、性行為に対して怖れを抱かない(抱かせない)』『今日この時この場所で、君と最後まで突き進む』という契約の証……。二人は互いを貪るように、しばし濃厚なキスを交わしていく……やがて、頭を撫でられたのを合図に、エリスが唇を離し目を開けると、ダニエルが「よくできました」と微笑んでは、頭を”下に”沈めてめていく――。
「はっ……んっ……あっ……」ダニエルからのフェラチオが始まる。彼の閉じた唇が、まるで牛の搾乳をする手のような動きで、エリスのナニを絶えず圧搾する。そこへさらに、『舌が亀頭の周りを這いずり回る』という、強烈すぎる刺激までもが加わって、エリスは意識が飛びそうになりながらも、嫌らしい嬌声が口から漏れ出るのを、どうすることもできなかった。「うぁんっ♡ やんっ♡ だ、だに……えりゅ――ふっにゃっあっ――も、もぉ――ひっにゅっうっ――いっちゃ……いっちゃ、う……あっあっあっ――」
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!! そうしてダニエルの口の中、果てていくエリス……芽は成熟し、花咲き乱れて、種落す……二人の望みが結実した今、もはや彼らを止めるものなし……そして、欲望が加速する――。
第四十八章 – 青春時代② 高校生活 Ep.35:ただいま、おかえり、初体験(再契約編)
エリスの高校生活㉕ ただいま、おかえり、初体験(再契約編)
「あっ……ふっ……っ……」
恋人の部屋のベッドの上、その恋人にペニスを咥えられながら、乱れた様子で痙攣を繰り返す美少年が一人。彼の名前は『エリス』。今しがた初めて『彼氏からのフェラチオ』を受け、持ち前の早漏っぷりを発揮した『スイス在住の男の娘』だ(彼は生まれながらの”無精巣症”なのだが、そういう”タマタマがない人”は、絶頂寸前で耐えるのが難しい)。
彼は『全く精子を含まない透明な体液』をペニスより放出しながら、去年味わった”大絶頂”のことを思い出していた。そう……あの2041年4月21日の午後、自らの手で生み出した極上の快楽により、父と親友の前で大恥を晒しながらイッた瞬間……。と言うのも、今回の絶頂の気持ちよさは、あのときに匹敵する勢いなのだ。き、気持ちいい……大好きな人に弄ってもらうと、こんなに気持ちいいんだ――。
となると、彼が次に考えることは当然これである。でもダメだよ、こんなの……こんな気持ちよくなっちゃったら、どうしてもまた、『取り返しのつかないことが起こるんじゃないか』って気がしてきて……ごめんよダニエル……さっき『君のことを信じる』って決めたばかりだけど……やっぱり、怖いものは怖いんだ――(彼の心は、『エッチなことをすると、悪いことが起こる』というジンクスに囚われている。これまでの実体験から来る、強力なジンクスなのだ)。
「んっ……(ゴクリッ)……はぁ……(チャクッ、チャクッ)」
そして、そんなエリスの放った体液を飲み込んでから、さも絶品なスープでも味わったかのように、舌鼓(したつづみ)を打つ男の子が一人。彼の名前は『ダニエル』。日本のアニメや漫画が大好きな、生粋のオタク高校生だ。彼は長年、秘かに同級生であるエリスに恋焦がれていたのだが、去年勇気を振り絞って告白してみたところ、まさかまさかの両想いだったことが発覚し、それからなんやかんやあって、今に至る(はしょりすぎ)。
口内を舐め回しながら、そこに残る”後味”までもを堪能したダニエルは、目の前で顔から火を出している美少年に向かって、こんな言葉をかけるのだ――。
「エリス、気持ちよかった……? 僕の方は”君のせーし”、とっても美味しかったよっ♡」
そう言い澄ますダニエルだったが、本当は彼の方も今、『パンツの中でギンギンに勃起したペニスが、触れてもないのに吐精する寸前だった』のは、ここだけの話……(今回彼は努めて、エリスをリードしながら主導権を握ろうとしている)。しかし、そんなこと知る由もないエリスは、ダニエルから発せられた『美食家らしからなぬストレートな食レポ』を耳にして、俄然、羞恥心と興奮を強めてしまうのだ……そんな彼を見たダニエルは、ひとまず『スープの味』に満足しつつ、次の『メインディッシュ①』へと進んでいく――。
「それじゃあ今度は、君の”お尻”いただくね? まずは服を脱がせてっと――」ダニエルが一度立ち上がり、エリスの股下にあった『半脱ぎ状態のズボンとドロワーズ(下着)』を完全に脱がせていく。一瞬、『お尻をいただく』という言葉の意味が分からず、されるがまま呆然としていたエリスだったが、続いてダニエルから『両脚を開いて持ち上げられた』ところで、瞬時にその意味を理解する――。
「ま、待ってダニエル! 『お尻いただく』って、まさか――」彼の臀部の双丘が割れて、ピッタリと閉じられた桜色の肛門が姿を現す――と同時に、咄嗟に駆け付けてきたエリスの両手が、それを覆い隠すのだ。”メイン”を食す前に下げられたダニエルは、呆れた顔をして”給仕係”の顔を見下ろすしかない(※ここで念のため説明しておくと、フランス料理のフルコースは大まかに『前菜→スープ→魚料理→肉料理→デザート→ドリンク』という順番で提供される。今回についての”前菜”は、前回のアレである)。
「その”まさか”だよ、エリス……分かってると思うけど、僕たちこれから『セックス』するんだ……そして言うまでもなく”セックス”とは、『おチンチンを、お尻の穴に入れること』……だよね?(違います。それはセックスの一形態に過ぎません) でも君は初めてだから、『まずお尻の具合を確かめないといけない』……というわけで僕がこれから、一度『味見』しようとしてるんだけどなぁ~? 君がそうやって邪魔してたら、いつまで経っても始められないよぉ?」
給仕係を何とか説得しようとする美食家ダニエル。彼としては今すぐにでも、この皿に被せられた”クロッシュ”を取り払って、そこにある”魚介料理”を戴きたかった(※クロッシュとは、料理の鮮度や温度を保つために被せられる、ドーム型のカバーのこと)。しかしそんな暴挙を、給仕係が許すはずもない――彼は必死にクロッシュを押さえながら、『この料理は毒入りなのですよ!』と訴えかけるのだ。
エリス「そ、それは分かってるけど……味見ってつまりは、”舐める”ってことだよね……? そ、そんなのダメッ! だってお尻って、う、ウンチが出る場所だし……大腸菌とか、危険なものがいっぱい付いてて……そんなの舐めたら、ダニエル病気になっちゃうっ!」
ダニエル(一瞬まじめな顔をした後、すぐ冗談っぽく笑って)「またまたぁ~! エリスってば、冗談ばっかし~! でも僕は騙されないよぉ? だって君が『ウンチなんか、するはずない』も~ん!」いや、昭和のドルオタかっ!
エリス(錯乱状態になりながら)「するよっ!! 毎日してるっ!! 今朝もしたっ!! 今もしたいくらいっ!!(それはウソ)」正直すぎるアイドルというのも、考えものだな……。「だから絶対舐めちゃダメだよ……? ね? ”別のやり方”でエッチしよっ?」
ダニエル(真剣な顔でエリスの靴下を脱がせながら)「はいはい、そんなの分かってるって……ったく君ってば、本当に可愛すぎ……」左脚の靴下を脱がせ終わった彼が、優しくエリスのことを見下ろしながら、こう続ける。「約束する、『今は絶対舐めない』って……だからその手をどけて、君の”秘密の花園”を僕に見せて?」
これには仕方なく、”両手”という名のクロッシュを取り去る他ないエリス……内心、死ぬほど恥ずかしかったが、セックスのためには避けては通れない道なので、彼も腹を括ったようだ。だ、大丈夫かな、僕のお尻……変な形してたりしないかな……自分じゃ見たことない場所だから、不安だな――。彼の懸念はまさしく杞憂! 今ダニエルは、その”聖域”のあまりの美しさに言葉を失いつつ、息をのんでいるのだ――。
こ、これがエリスの……あぁダメだ僕……こんな綺麗なもの、触れられる気がしないよ……ましてやここに、自分の”モノ”を入れるだなんて、考えただけで……って何弱気になってるんだダニエルッ! エリスは僕のことを信頼して、こんな『誰も立ち入らせたことがないほどの聖域』にまで招いてくれたのに、僕の方が先に怖気ついてどうするっ!! さぁ気丈に振舞うんだ……彼のことをリードできるように……彼を気持ちよくしてあげられるようにっ――。
テイスティングを封じられたソムリエは、その料理の香りを鼻いっぱいに吸い込んでから、こう評するのだった。「ホントだ、やっぱり君も”生きた人間”なんだね? ちょっとだけ”ウンチ”の匂いするかも」
これには恥じらいを通り越して、防衛モードに移行してしまうエリス。「ダニエルの、バカ……」とそっぽ向いて、いじけてしまう。対してダニエルは、エリスの左脚に頬擦りしながら、こう訂正する。
「冗談じょうだん……実際は”お花の匂い”がして、ビックリしたくらいだよ――まさか本当に”花園”だったとは! 君のお家って、フローラルな香りのトイレット・ペーパーでも使ってるの?」
エリス(ちょっと安心しながら)「う~ん、どうなんだろ? あんまり考えたことないかも……あっでも、数年前『バスルームの工事』をしたときに、トイレには『ウォシュレット』っていう水が出る機能がついたんだ……だから僕はいつもウンチの後、それでお尻を洗って、それから紙で水気を拭ってる……今回はたまたま、匂い付きの紙だったのかも?」
ダニエル「なるほど~、ウォシュレットかぁ……でもある意味、残念だったな――君のウンチの匂い、嗅いでみたかったのに(笑)」
エリス(ますます不貞腐れながら)「バカ……」
「ははっ、ごめんって! そんな顔しないで、エリスッ――」そこで恋人の両脚をそっとベッドに返したダニエルは、こう言い残して部屋を後にするのだった。「それじゃあ僕、『君とエッチする方法を探しに、ちょっと一階に行ってくる』ね? どうか”いい子”で待っててね、エリスッ♡」
こうして半裸のまま、部屋にポツンと置き去りにされたエリス。彼は訳も分からないまま、しばらくそのままの姿勢で途方に暮れていたのだが、やがて上の服を全部脱いで全裸になってから、その辺に脱ぎ散らかされた他の衣服も回収しては、それらを鞄の横に畳んで置いていくのだった。
そのころ、急いでキッチンへと駆けこんでいたダニエルは、息せき切って”目的の道具”を探し始めていた。た、確かこの辺に……あっ、あったっ――。彼がキッチン棚から取り出したそれは、何と『調理用の注射器』だった。針の先端がやや丸くなっており、主にBBQで肉に調味料などを注入するために使用する道具である(ちなみにシリンジの容量は30ml)。ダニエル家は普段BBQなど滅多にしないが、どの家庭にもそういう『ほぼ使わないキッチン用品』というものは、必ずあるものである……(私の家にも、ガス缶に装着してバーナーにするアイテムがあるが、一度も使ったことがない……いつかサーモンの刺身にマヨネーズでも垂らして、炙ってやろうと思っているのだが、実際は全くもって面倒すぎるっ!)。
ダニエルはその注射器に専用針を装着し、シリンジからプランジャーを抜き取っては、シンクでそれらを洗っていく。ある程度個別に洗ったら今度は、シリンジ内に水を溜めてはプランジャーを装着し、注射器全体を振ってシリンジの中を綺麗にしていく……そして最後は、プランジャーを押して針から水を排出しながら、針孔の内部も清掃していくのだ(皮膚に直接刺す医療用ではないので、まぁこれくらいで充分だろう)。
そのプロセスを数回繰り返すころには、水道の水が人肌程度に温まってきたので、ダニエルは棚からデカイ『ビールジョッキ』を取り出しては、そこにぬるま湯を注ぎ込んでいく。ジョッキがいっぱいになったら蛇口を止め、続いて横の冷蔵庫を開けるダニエル。そして彼は、上の棚に並んだいくつかの容器の中から、円柱型のジャー容器(よくハンドクリームとかが入ってるような入れ物)を取り出すのだ。
彼が出した物の正体は、彼の母親が愛用しているコスメ『無添加アロエジェル』の未開封品だった。ママ、ごめん……これ使わせてもらうね……でもその代わり僕は、今日”漢”になるから――。彼はすぐさまその封を切って、中身を確認しつつ、少し手に取ってテクスチャを確認してから、しかと頷いて二階へと向かうのだった――。
*
「はい、エリス~♪ こっちだよ~、足元気を付けてねぇ~♪」
右脚に義足すら着けていない、正真正銘”すっぽんぽん”状態のエリスの身体を支えながら、ダニエルがエリスを一階へと誘導していく。これから何を”させられるのか”すら分からないエリスは、不安そうな顔のまま左足で一歩一歩階段を下っていき、やがて彼氏に導かれるまま、『バスルーム』へと入っていくのだった。
「はぁい、ここに座ってぇ~♪」エリスのことをトイレの便座に座らせたダニエルが、満を持して、『これから行う衝撃的なアクティビティー』についての説明を始める。「今からエリスのお尻の中、この”注射器”を使って綺麗にするね?」まさかまさかの『腸内洗浄』……無論、耳を疑うエリス。
「えっ、注射器っ? それでどうやってお尻を……って、へっ!?」案の定、その奇天烈な行為は、彼の想像の範疇を優に超えていたようだ。
ダニエル(身振り手振りで実演しながら)「簡単なことだよ。まずこの注射器を使って、今から君のお尻にどんどん『水を注入していく』んだ。そして君に――少しジャンプしたりしてもらった後に――いつものように『トイレで排泄』してもらうの。それを何回か繰り返せば、君のお尻の中(直腸辺りまで)は綺麗になる、ってわけ! どう? できそう?」
あまりの罰ゲームっぷりに、しばらく口をパクパクしていたエリスだったが、最終的に彼は何度も頷きながら(さも理解を示したように)、こう返事するのである。「うんっ、もちろんだよダニエル! もちろん……できなそう!」ナイス、ノリ・ツッコミ(笑) まぁ当然か……突然、恋人からそんな要求を受けようものなら、盛大に拒否するのが自然な反応だ……しかし狡猾なダニエル、こうなることも想定済みだったようだ――。
「そっか、そりゃそうだよね……ごめん、こんな酷なこと頼んだりして……でも僕、どうしても君とエッチしたかったから……(グスン)……ごめんよぉ、こんな方法しか思いつかなくって……(スンスンッ)……」おやおや何かと思えば、彼がここまで温存していた”隠し玉”とは、まさかまさかの『泣き落とし』とな……いくらエリスが純真無垢な『優男の娘』だとは言え、こんな見え透いた手に引っかかるわけが――。
エリス(あらぬ罪悪感を覚えたような顔をして)「ダニエル……」めっちゃ引っかかりそうっ!! ちょいちょいエリスくん? そいつはちと、チョロすぎるんとちゃいまっか!?
ダニエル(下手な噓泣きを続けながら)「もう君のお尻は諦めるよ……思えば君の言う通り、何も『”挿入”するだけが、セックスの在り方』ってわけじゃないもんね……そうさ、僕は君が許してくれるそのときまで、この”高潔な童貞”を貫いていくよ……」
「あ、あのぉ……」順調に”餌(嘘泣き)”に引き寄せられるエリス。パートナの顔色をうかがうように上目遣いになって、今にも譲歩してくれそうな様相だ。「別に僕、『君とエッチするのが嫌』って言ってるんじゃないよ……? ただお尻の中を洗うなんて、一度もやったことがないから……何だか怖くって……」
「大丈夫! 僕がサポートするし、絶対に痛くしないからっ!」手の平を返したように、積極性を取り戻すダニエル。あとは”釣り竿(注射器)”を上下に”エロティックに”動かしていけば、魚の方が勝手に食いついてくれるだろう、という算段だった。
エリス(難儀しながら)「でも……なぁ……」
ダニエル(ジョッキに注いだ水をシリンジに取りながら)「ほらっ! この水も、ぬるま湯くらいの温度だし、特に刺激にはならないと思うよ!」
エリス「う~ん……そうなのかなぁ……?」
ダニエル(同じく実演しながら)「それにほらっ! この”ジェル”を使ってね、針もヌルヌルにできるから! お尻に挿すときも痛くないはず!」
エリス「……(ホントだ……あれなら痛くなさそう……)」
ダニエル(半ば本気で諦めながら)「やっぱりダメかな……?」
エリス(まだ不安ながらも、覚悟を決めたように)「分かった……じゃあ君を信じて、挑戦してみることにするっ」
ダニエル(いきなり獲物が掛かったことに唖然としながら)「い、いいの……?」
「うん……見たところ、そんなに危険じゃなさそうだし、それに――」突如エリスが左脚だけで立ち上がり、かと思えば身体を反転させ便器に身を預けては、ダニエルに向かってお尻を突き出すのだ。「これ以上君を待たせるのは、申し訳ないから……」穏やかな顔で振り向いた彼の口から、ついに了承の言葉が返される。その姿はまるで、岩場に乗り上げて月光を浴び、美しい歌を歌っている『人魚姫』だった。ダニエルは今まさに、この世のものとは思えないほどの美しい歌声を耳にしたのである。
「え、エリスゥ……」これにはさすがの釣り師ダニエルも、しばし竿のことを忘れて感動に胸を震わせながら、目の前の情景に見惚れる他なかった……思えばこれは『釣った釣られた』という類の話ではなく、初めから相手は『自分に恋してくれてる人魚姫』だったのだ……だから二人が結ばれるのに”釣り竿も餌も”必要なく、ただそこに『真実の愛』さえあればよかったのである――ダニエルは自分が『王子様』にでもなったかのような幸せを覚えながら、手に持った”魔法の矛(元釣り竿)”を突き立てては、人魚姫を人間の姿へと変えるのだった(状況があまりに卑猥すぎて、綺麗な言葉で誤魔化してるだけ)。
「それじゃ、挿れるね……? リラックスして……」注射針に再度アロエジェルを塗り込んだダニエルが、それをそっとエリスの肛門へと突き刺していくと、目の前でピンク色をした口がゆっくりと開かれ、少しずつ鈍針を飲み込んでいく。「痛くない……?」彼の問いかけに対し、エリスは頬を赤く染めながら、「う、うん……でも何か、変な感じ……」と返事する。
そのうちに針全体が”エリスの中”に入ったので、ダニエルは「それじゃあ水も入れてくね」と、慎重にプランジャーを押していく。するとすぐにエリスが”えっちぃ反応”をする。「ん……」どうやらちゃんと水は注入できているようだ。しかし今回の注射器は、針孔が先端にあるタイプではなく、側面にある『カニューレ』タイプだったので、やや腸壁を刺激してしまったようだ――エリスが少し苦しそうな表情で、「ちょ、ちょっと冷たいかも……」と申告してくる。
「ごめん、もうちょっと温かい水にするべきだったね……でももう少しの辛抱だから、どうにか耐えてっ――」プランジャーを押す力を徐々に強めていくダニエル。もうひと押しで30ml全部入りそうだ――。
「ふぁっ……ふっ……」そうして全ての水が、エリスの直腸へと飲み込まれた。ダニエルは「よく頑張ったね」とエリスの頭を撫でながら、お尻から注射針を抜いていく。そして次の水をジョッキから吸引しながら、こう患者を励ますのだった。「とりあえず、もう一回分入れるね? 今度は少しでも君が楽になるように、僕の体温で温めてから入れるからっ――」
*
第二陣も問題なく入れ終わり、エリスのお腹には合計60mlの水が宿っている(多少はもう吸収されたかもしれないが)。針を抜き取られ、「お疲れ様」と頭を撫でられたエリスは、どっと疲れたように便座に座り込むのだ。さて、あとはジャンプしたりして腸内の水を掻き混ぜてから、”いつものように”トイレで排泄すればいいわけだ……さっさとやってしまおう――。エリスが片足で立ち上がり、いざジャンプしようとした矢先、目の前にはなぜかまだダニエルがいて、さも当然のように両脇に手を入れてくるのだった――。
「ふぇっ!? ダニエル!? 何してるの……?」戸惑いを隠せないエリス。
「何って? ジャンプする君を支えてるだけだけど?」質問の意味すら分かっていない様子のダニエル。エリスの柔らかい両脇に手を滑り込ませては、ガッチリとホールドする。まるで大人が子供を持ち上げるかのような異様な姿勢に、エリスは言いようのない恥ずかしさを覚えるのだ。
「べ、別に支えてくれなくても……僕一人でジャンプくらいできるよ?」と言いつつ、両脇の感触を変に意識してしまい、またペニスを勃起させてしまいそうになるエリス。これ以上エッチな子だと思われないように、決死の覚悟で無心を装っていく。何も考えるぁ~、何も考えるなよ僕~……これは全部普通のことなんだ……僕は今”普通に”支えてもらっていて、これから”普通に”ジャンプして、それから”普通に”ウンチするだけなんだ! そう、普通に!(錯乱完了)
「だぁめっ! 間違って転んだりしたら大変じゃないか! 僕が支えてるから、一緒にジャンプしよ? 行くよぉ? せーのっ――」ピョンピョンピョン……。そうして謎のペア・ダンスが始まった。片やエリスは明鏡止水を崩さぬよう、強く目を瞑っているのに対し、片やダニエルは目の前でポヨンポヨン揺れている恋人のオッパイを見つめながら、己のパンツの中に潜んでいる怪物が暴れ出しそうになるのを、懸命に抑えている。まだまだダンスは続いていく。ピョンピョンピョン……。今さらながら、彼らはいったい何をしているのだろう……(お前が言うな)。
「だ、ダニエル……? もう、いいんじゃない?」エリスが薄目を開けて、そう問いかけると、胸元に釘付けになっていたダニエルが慌てて、「えっ、あっ、そうだねっ」と返事する。そして二人は、つかの間の共演を終えるのだ。
「ふー、疲れた……」何とか勃起せずに済んだエリスは、再び倦怠したように便器に腰掛けてから、パートナーに対し遠回しに”合図”を送ってみるのだ。「これであとは、僕がここで”お水出せばいい”んだよね?」今度こそ彼の意思が伝わるといいが……。
「うんっ!」幼児のようにキラキラした目で、元気に返事するダニエル……どうやら、通信は失敗したようだ。だが暗号が難しすぎたのかもしれない――再度メッセージを送信するエリス。「じゃあ僕……もう”する”ね?」三度目の正直なるか――。
「ウンッ!」繰り広げられるデジャヴ……やはり言いたいことは、ハッキリ言うしかなさそうだ――エリスは硬直しながらも、極力相手の気持ちを傷つけないように、されども最大限の主張の気持ちを籠めて、こう望みを伝える。「えっと……”出てって”……もらえる?」
「ヤダッ!」即答するダニエル。彼の確固とした駄々っ子ぶりに、ようやくエリスは全てを悟るのだ。「や、ヤダって……えぇぇぇぇぇっ!? もしかしてダニエル、僕が”してる”ところ見るつもりぃぃぃ!?」
「うん、そうっ!」コックリと頷くダニエル。彼としては始めからそのつもりだったようだが、エリスには全く伝わっていなかったらしい……どうりで彼は、割とすんなり”受け入れてくれた”わけだ……。だが今度のことについては、いくら何でも受け入れ難いようだ――。「そ、そんなの嫌だよ! 君にそんなところ見られちゃったら……僕、恥ずかしくって死んじゃうっ!」
「エリス、分かって! 僕には『君のお尻がちゃんと綺麗になったか』を確認する義務がある……それに僕自身、”君の全部”を見たいんだ! だからお願い……僕の前で……して?」さも情熱的な愛の告白かのようにそう告げるダニエルだったが、その実、心の中はリビドーに支配されていた。美しいものを壊したくなる衝動、汚したくなる衝動、辱めたくなる衝動は、万人共通のものらしい……(この状況をソフィーが見たら、どう思うだろうか……考えるだけで恐ろしい……)。
「そ、そんなこと言って……どうせ君は”全部”見た後で、僕のこと嫌いになるんだ……」ついに泣き始めてしまうエリス。相手のことが好きだからこそ、自分の恥部を晒すことは相当な苦痛なのだ……いくらパートナーであっても、これはもうセクハラの域であるからして……。ダニエルは身を裂かれるほどの罪悪感を覚えつつも、この人生最大のチャンスを前に、己の夢と愛とリビドーの全てを懸けて、こう囁くのだ。
「信じて、エリス……僕は何があっても、君のことを嫌いになったりしないよ……だって君のこと、『世界一大好き』だから……」ダニエルが幼子をあやすように、エリスのことを優しく抱きしめ、後頭部を撫でていく。とは言え彼としても、耳元で鳴る恋人の嗚咽を聞きながら、内心『潮時が来た』ことを悟っていた――彼も端っからこんな要求、通るはずないと分かっていたのだ……結局いつだって自分は、この子の優しさに甘えるばかりだ……。ごめんエリス、ちょっと悪ふざけが過ぎたね……僕の方こそ、君に嫌われても仕方ないほどに――。
「でもやっぱり、これ以上君を困らせたくないから、僕はここで退さ――」
「嘘だったら……(ボソボソ)」
ダニエルが諦めて退散しようとした寸前、何やらエリスがボソボソと呟いたので、ダニエルは聞き違いかと思って、「へっ……?」と聞き返してしまう。今何か、とんでもない言葉が聞こえた気がするが……。目の前で両目を潤ませたエリスが、再度はっきりと発言する。
「嘘だったら……承知しないからっ!」そう言って便器に左足を載せ、Ⅿ字開脚のようなポーズになる彼……ダニエルは一瞬、状況に付いていけず混乱していたが、すぐにエリスの発言の意味を汲み取り、さらに混乱してしまうのだった。
ダニエル「え? えっ!? 『承知しない』って、それってもしかして……」
エリス(左脚で腰を浮かせながら)「そうだよ! 僕『今からウンチするけど、見ても嫌いにならないでね』ってこと! そして『もし嫌いになったら、許さないよ』ってこと!」
ダニエル(本人より動揺しながら)「ちょ、ちょっと待って! そ、そりゃ僕は、君のどんな一面を見ても、絶対に嫌いにならないって自信はあるけどさ……君の方は、本当にいいの……?」
エリス(史上最高に錯乱しながら)「いいも悪いもないよ、もう……とにかく僕もう”する”から……見たくないなら、どうぞ出てって!」
「みっ……見たい……」ダニエルは自分がまるで、”ゴールデン・チケット”でも引き当てたかのような気分だった。己の幸運を噛みしめながら、口から本音が駄々洩れるのを、どうすることもできない。「見たいっ……見たいっ! 君がウンチしてるとこ、見たいっ!!」便器と股間に顔を近づけ、鼻息を荒げて時を待つ彼……ったく正直者め……(笑)
エリス「ふっ、んっ……じゃあ、行くね?」
ダニエル「うん……(ゴクリ)」
そして世紀の瞬間が訪れる――かに思われたが、やはり人前でわざと”粗相する”というのは、並大抵のことではなさそうだ――なかなか緊張が解けないのだろう、エリスはずっと震えているだけだ……しかし十数秒経って、ダニエルが彼を気遣おうとしたそのとき! ついに事態が動き出す――。
チョロチョロ……。エリスの”小っちゃい蛇口”の方から、少しずつ”黄金の液体”が漏れてくる。えっ、あれってオシッ……嘘でしょ……エリス、”オシッコ”しちゃってる――。ダニエルは狼狽えながらも、この嬉しいサプライズを全力で脳裏に焼き付けながら、己のペニスが爆発してしまわないよう懸命に堪えるのだった。
「エリス……それオシッコ、だよ……?」何とか彼が指摘すると、エリスは決まりが悪そうな顔をして、「ご、ごめんっ……さっき『フォーカス・ウォーター』飲みすぎちゃったみたいで……」と、前々から尿意があったことを告白してくる。そして彼は「見ないで……」と顔を背けてから、尿道括約筋(膀胱の出口を閉じている筋肉)の緊張を緩めていくのだった。
チョロチョロチョロ……。引き続き、池に注ぎ込まれていく黄金の聖水……するとどうしたことか? エリスのおチンチンが、みるみるうちに形を変えていくではないか――それはムクムクムク……と勃ち上がっていき、終いにはピョコンと反り立ってしまうのだ。小さな蛇口は今や”噴水口”へと成長して、聖水を広場一面に撒き散らしている。
「あっ、ダメッ……オシッコがっ!」咄嗟に左足を便座から下ろして、上向いた噴水口を手で押さえつけようとするエリスだったが、ダニエルが「いいよっ! 僕がやる――」とそれを阻止してしまう――何と彼! 両手でエリスの手足をガッチリとホールドしながら、顔を噴水口の傍まで引き寄せては、迸る聖水をガバガバと口で受け始めたのだ!
「だっ、ダニエルッ!? やめっ、やめてっ!」もう恥ずかしさが極まっている様子のエリス。まぁ好きな人に放尿シーンを観られたばかりか、その味や匂いまで知られてしまったのだから、致し方ない……。だが彼が最も恥じていたのは、こんな状況下でペニスをおっ勃てている、”エチエチな自分自身”のことだった。あぁ、僕はもうお終いだ……きっと幻滅される……『見られるのが好きな変態』だって、幻滅されるっ――。
ジョボジョボジョボショボ――。噴水の勢いが徐々に弱まっていき、ようやく全ての聖水が吐き出される――お終いにピュッピュと潮を吹いた彼のおチンチンが、その後も物欲しそうにピクンッピクンと跳ねている……。そしてダニエルは、口内に残ったオシッコをゴクンと飲み込んでから、口を手で拭いながら感想を述べるのだ。「エリスのオシッコ……しょっぱいね?」
ピクンッ――。もはや真っ当な感覚など全て失ったかのように、無言のまま顔を背け、荒く呼吸を繰り返すだけのエリスだったが、ダニエルの言葉を聞いて一瞬、そのペニスをピクンッと弾ませるのだ。まるでペニス自身が意思を持って、彼に代わって返事するかのように……。これを面白く思ったダニエルが、臆せず言葉攻めを続けていく。「それにそのおチンチン……もしかしてだけどエリス……見られて”興奮”した?」
ピクンッピクンッ――。ペニスが二回跳ねて、先っぽから透明な汁が溢れてくる。おやおや、てっきり噴水ショーは店じまいかと思ったが、どうやらそこは”天然の泉”とも繋がっていたようだ。ダニエルは水脈を掘り当てたことに歓喜しながら、さらなる聖水を求めて、シャベルで地面を掘り進めていく。「知らなかったなぁ~、エリスがこんなにエッチな子だったなんて……今だって僕の言葉を聞きながら、おチンチン”ピクピク”させたりして……ふふっ、可愛い……ねぇどうなの? 感じてるんでしょ? 触ってもないのに、イキそうなんでしょ?」
キッ――。堪らず泣きそうな顔をして、ダニエルのことを睨みつけるエリス。当然彼も何か言い返したかったが、全部図星だったので、悔しさに打ち震えることしかできない……。だが攻撃するダニエルの方もまた、限界寸前のところまで来ていた……あと何か一つでも、”エロいもの”を見てしまったが最期、睾丸に溜まっている大量の精子が、彼の許可なく発射されかねない状態……だが男のリビドーはいつだって、水面下でそれを望んでしまうのだ――突如ダニエルが冷徹な顔をして、これまで封じ込めていた『サディスティックな一面』をあらわにする。
「何その顔? 違うって言うなら証明してみせてよ。ほらっ、君の”お尻の中の物”……出してっ? 出して絶頂なかったら、前言を撤回するよ。でももしイッちゃったら……分かってるよね? そんな変態さんには、きっつーいお仕置きが待ってるからっ」元来彼に備わっていたものなのか(例えば親からの遺伝とかで)、はたまた彼が嗜む芸術の影響なのか(例えばSM系BL漫画とかで)、彼の”サドっぷり”はなかなかの迫力だった。これに気圧されたエリス、屈辱的な涙を流しながら、ついに肛門括約筋を緩めるのだった――。
ポチャン……ポチャン……。彼の肛門から静かに透明な水が零れ始める。しかし”ドSの神”に憑依されたダニエルが、そんな生ぬるい服従だけで満足できるはずもない――さらなるお叱りの言葉が下る。「何それ? 真面目にやってるの? ほらっ、ちゃんとお腹に力入れて。いつものようにイキんでみせてよっ!」これが引き金となる――。
プッシャァァァァァァァ! 途端に迸る水、水、水! まるで火事を検知したスプリンクラーかのように、エリスの肛門から透明な水が、ものすごい勢いで排泄されていく。そしてその勢いに乗って、飛び出してくる”茶色い固形物”もある――。ポトンッ……ポトンッ――。彼の腸壁に張り付いていた便の欠片が、ついにその姿を現したのだ。これによりダニエルのリビドーが、最高潮を迎える――。
あ、あれがエリスのウンチ……信じられない……あのエリスが今、僕の目の前でウンチしてるなんて……やっ、やばやばやばっ……意識しただけで、い、イクッ――。ビュゥゥゥ! ビュゥゥゥ! ビュゥゥゥゥゥゥ! 一切触れてもいないにもかかわらず、パンツの中、盛大に射精してしまうペニス。ダニエルはこの上ない背徳感と愉悦に浸りながら、床に両膝を突いた姿勢で蹲り、己のパンツに精液が滲んでいく様を見届ける。だが我慢できなかったのは、彼だけではなかったようだ――。
ビクンッビクンッビクンッ! エリスのペニスの方も激しく痙攣し、ドロッとした粘液が先っちょから溢れ出してくる。どうやら二人揃って、『ノー・タッチ・オーガズム』を迎えてしまったようだ。事前に示し合わせたわけでもなく、こんなプレイをできてしまうとは、彼らは思いのほか相性抜群なのかもしれない……。そして彼の”散水”が終わる――プシャァァッ、プシャッ、プシャッ……(いつからこんなスカトロジーな作品になった……)。
「エリ……(はぁ、はぁ)……ス……(はぁ、んはっ)……イッちゃ、ったんだね……(はんっ、はぁ)……なら、お仕置き……だから――」ダニエルが注射器に新しい水を取って、また針に”ジェル”を塗っていく。しかし今度のジェルは、”エリスの泉”から湧いた”天然のジェル”だった。「やっ……やぁっ……」粘液を無理やり採取され、それをたっぷり塗りつけた針を向けられては、また脅迫を受けるエリス。「はい、お尻ちゃんと浮かせて……二回目だ」
*
そうしてまた、エリスのお尻には60mlの地下水が流れ込んだ。そしてダニエルに今度は、『ダンスする必要すらないから、そのまますぐ自分を見つめながら、思いっきり脱糞しろ』と言われたエリスは、たくさんの涙を流しながらただ、それに従うのだった……。プッシュァァァァァァァァ!!
ダニエルはエリスの号泣する目を見つめながら、征服欲と背徳感が極限まで高まるのを感じ、気づけばその唇に激しい接吻をしてしまっていた。当のエリスの方も、何か感極まるものがあったのだろう――ダニエルに負けず劣らずの勢いで、キスし返してくる。きっとどんな形であれ、愛を欲していたのだろう。こんな乱暴に扱われてなお、相手のことを嫌いになれない彼だったから……。
「ごめん、エリス……ごめんっ!」ようやく正気を取り戻したダニエルは、罪悪感に押しつぶされそうになりながら、必死に懺悔の気持ちを吐露していく。人は完璧とはほど遠い生き物だから、あまりにも美しいものを目にした場合、とてつもない破壊衝動に駆られることがある……今、自分が乗っ取られていた感情もそれだ……なのになんでこの子は、こんな身勝手な感情をぶつけられてもなお、耐えてくれるんだ、嫌いにならずにいてくれるんだ……君はあまりにも優しすぎる……だから人々は君を試そうとしてしまうんだ……その優しさの底がどこまで深いのか、試そうとしてしまうんだ……ごめん、本当に――。
「ごめんよエリスゥゥゥゥゥゥ!! 酷いこといっぱいしちゃてぇぇぇぇぇ!!」ダニエルが号泣しながら床に崩れ落ちる。もし今みたいなことを、他人がエリスにしているのを目撃したなら、自分はそいつを殺してしまうだろう……そう、自分は今それほどのことを、彼にしたのだ……。人はどこまでも自分勝手で、いとも容易く自分を棚上げしては、常に他者を裁こうとする……そんな唾棄すべき愚かな存在に、いつの間にか自分もなっていたのである――。「僕は最低だっ!! 最低なクソ野郎だっ!!」
するとすぐエリスが頭を撫で、静かに励ましの言葉をかけてくる。「もういいよ……僕は気にしてないから、ね? そんなこと言わないで?」しかしダニエルの自己嫌悪は止まらない。「ううん、分かったんだ、僕……自分が生来、『暴力的な人間』なんだって……だって”あのパパ”の息子だし、血筋にはどう足掻いたって逆らえないから……だからどんなに嫌でも、嫌いでも、望まなくても、認めたくなくても、結局僕は『負け犬のクズ』なんだ!! こんなやつ、君の恋人に相応しいわけがないっ!! 僕みたいなクズ、とても君に愛される資格なんか――」
パシーンッ!! エリスの痛烈な平手打ちが、ダニエルの左頬を強打する。そこには一年前、自暴自棄になっていた彼自身を救ってくれた、『エミリーの平手打ち』の魂が宿っていた。あのときの彼が受けたのと同じ衝撃が、ダニエルを襲う。「な、な……エリ……?」そして”空手家エリス”の大説教が始まる。
「君は……クズなんかじゃないっ!!」涙ながらに、声を張り上げる彼。もう誰かが自分自身を嫌いになるのなんか、ウンザリだった。この世界の不完全さ、理不尽さが人をそうさせるのであれば、もうそのシステムごと破壊するしかない! 世界そのものに立ち向かうしかないんだ――。「君のお父さんも、お母さんも、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、それに僕も、僕の家族も、友達も……学校のみんなも、この街にいる人々も、この国にいる人々も、この世界にいる全ての人々もっ!! みんなみんな、誰一人としてクズなんかじゃないっ!!!」
そこで一度、零れ落ちる涙を拭ったエリス……”愛のお説教”が続く。「だからもう、絶対にそんな悲しいこと言わないで……僕は君のことが大好きだよ、ダニエル? 今までも……これからもずっとっ――」堪らず恋人の胸に飛び込む彼。それから彼は、間近で相手を見つめながら、優しく頭を撫で始めるのだ。「いい子、いい子……君は”良い子”だよ、ダニエル……むしろ”乱暴者”は僕の方だよ……だって今なんか僕、君のこと平手で打っちゃったし、去年は君のお父さんのこと、”禁じ手”でノックアウトしちゃったもん……だから、たぶん……人は誰だって、そういう一面を持ってるんだと思う……うんと、つまり……何が言いたいかって言うと――」
そこで人差し指を使って、エリスの唇を制したダニエルが、俯いたままボソッと呟く。「もう、いいよ……君の言いたいこと、全部分かったから――」すると突如、ダニエルが幸せそうな顔を上げ、彼なりに導き出した最終結論を説いていく。「エリスってさ、本当に『可愛くて優しい』よねっ……僕はそんな君のことが、この世界の何よりも、大大大大大好きだ!」彼からの突然の大大大大大告白に、エリスの心身は大大大大大混乱! いったいダニエルは何を言ってるのだろうか? やはり頭を銃で撃ち抜かれたせいで、おかしくなってしまったのだろうか――。
「それに比べて、僕ってば本当に『どうしようもないやつ』だ……仮に”クズ”じゃないにしても、至らないところ、欠点だらけなのは事実なわけで……だからやっぱり、僕は自分のこと、嫌いだな……」咄嗟に何か言おうとするエリスの唇が、また塞がれる……どうやら要点はすぐそこのようだ――。「でもね、ただ二点だけ……手放しに『大好きだ』って言えるポイントが、自分にもあるんだ……その一つはね? 『君のことが大好き』だってこと! 僕は『君と出会って、大好きになれた自分のこと』が、”大好き”だって胸を張って言えるんだ!」エリスの右目から、ツーっと涙が流れ落ちる。
「そして二つ目はね、『君に大好きになってもらえた』ってこと! 前に君、言ってくれたよね? 『僕が僕であるだけで、好きだ』って……その言葉が、本当に嬉しかった……あのとき僕は生まれて初めて、『生きててよかった、生まれてきてよかった』って思えたんだ……『こんなちっぽけな自分にも、確かに存在する意味があった』って……君のおかげで思えたんだよ? エリス……」向かい合う二人の間で、互いの愛情が今、最高潮へと高まっていく……そしてダニエルは、何度目かすら分からない大告白に、打って出るのだった……。
「君が、僕を『特別』にしてくれた……だから今度は僕の方が、君をもっと『特別』にしてあげたい――」そっと相手にキスしたダニエルが、それから――決して破棄されたわけではない契約の――”再契約”を求めるのだ。「君の『初めての人』が、僕でいいかい? エリス……よかったら、『もう一度キス』して……?」この申し出に対し、エリスはクシャクシャな顔で何度も頷いてから、やがて契約書を熟読して納得したかのように、この『愛の二重契約』を締結させるのだった――。
「もちろんだよ、ダニエルッ! 僕の『初めて』、君にあげるっ――」
そしてまた、二つの唇は繋がった。




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