“男の娘”小説「ELLIS-エリス- 世界最高の生き方」第四十三章~第四十五章【鬱に打ち克て!箱庭デュエル開始!】

ELLIS-エリス- 世界最高の生き方オリジナル芸術作品心理学について

第四十三章 – 青春時代② 高校生活 Ep.30:お前なんか死ねばよかった!

注意:このエピソードはかなり精神的に重いです。心が元気なときに読んでいただけると、幸いです。

エリスの高校休日㉑ その輝きは”シャイニング”

 2041/12/15(日)。その日エリスは、入院中に生じてしまった勉強の遅れを取り戻すべく、午前中からずっと机に向かって勉学に励んでいた(勉強スタイルとしては、学校で支給されているタブレットを使って各教科の参考書を読んだり、問題集を解いたりする感じ)。しかしあんなに好きだった勉強も、心を病む今の彼にはただの暗記作業に等しく、少しも心躍ることがなかった。
 そんななか時折思い出されるのは、やはり昨日の”ル・シエル・ブルー”での出来事――カウンセラー『セリーヌ・オークレール』との対話の一部始終――だった。あれからも彼らの会話は続いており、セリーヌは彼に対してこんなアドバイスを送っていた。
 『あなたは他人に優しすぎるから、今はそれが仇となって自分の心を抑えつけてしまっている。傷つけてしまっている』
 『だからもっと素直に感情を出して、本心を言葉と態度で相手に伝えてみて。そうして少しずつ、己を解放していくの』
 『そしてその際、できればそのことで罪悪感を抱いたり、”相手から嫌われるかもしれない”という怖れを抱いたりもしないように。”嫌われる勇気”を持ってみて』
 『最後に、これだけは忘れないで。本当に他者を思いやるためには、まず自分が満たされてなければ。ゆとりを持っていなければ。幸せでなければ……。なぜなら善行とはすなわち、根源的には”ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige:持つ者にとっての義務)”なのだから……あなたならきっとなれるわ、世界最高の”心のノブレス”に……』
 こうして彼らのファースト・セッションは終わったのだが、その別れ際セリーヌはエリスに、一本の”ロリポップ・キャンディー”を贈呈した。よくある、薄紅色の丸いペロペロ・キャンディー……まるで病院で医者が、痛い注射を我慢して受けた子供に対して『頑張ったね』のご褒美としてあげるような飴ちゃん……なぜだがエリスはそれが嬉しくて、ちょっとした宝物のような気持ちで持ち帰ったのだった――現在それは、エリスの学習机上のペン立てに置かれている。
 そうこうしているうちに勉強もひと段落つき、やっとこさ彼が休憩しようと、伸びをしてから席を立った15:47。突然タブレットから、ビデオ電話の着信を知らせるメロディーが鳴って、また机に座り直すことになった彼……その端末画面には、”意外な人物”の名前が記されていた。
 『ダニエルのお父さん』
 ※本名は『ヴィクトール・シャステル』だが、エリスはメッセージ・アプリに彼のことをその名称で登録していた。
 ※なぜ彼がエリスの連絡先を知っているかと言うと、それはエリスが自分のIDを書いたメモ紙を、あの日看守さんにヴィクトール宛として渡していたからだ。そうして彼らは”友達”になったのである……少なくとも、アプリ上では……。
 ※また、学校支給のタブレットはWi-Fiに対応しており、個人的なアプリもインストール可能だった。さすがに授業中はWi-Fiをオフにしなければならないが……。
 これを受け、エリスはこう思う。『しゃ、シャステルさんだ……どうしよう……この前面会したときに”今度電話する”って言ってたのを、もうかけてきたんだ……で、出ないとダメかな……気分じゃないな……』そうして数秒悩んだ末、彼は”素直に”意思表示することに決めた――画面上の『拒否』のボタンをポチッと押したのである。心がズキンと痛んだが、これで一階に下りてアーモンド・ミルクを飲んでリフレッシュする時間はできた――ってなわけで早速、彼はミルクを求めて一階の冷蔵庫へと向かった――。
 *
 スッキリした甘さを味わいつつ、ビタミンEを摂取することに成功した彼は(元気がない日はビタミンE!)、ふと昨日セリーヌから受け賜わった勲章である”ペロキャン”をペロペロしたい欲に駆られた(脳のエネルギーとなる物質は大半がブドウ糖なので、頭を使うと糖分が不足する。『デスノート』の『Lエル』がお菓子を過剰摂取していたのも、このため)。
 部屋に戻っていざ、彼が『棒付きキャンディー(本当の名前は、”棒付き虫歯の元”! by ウィリー・ウォンカの父)』を手に取ろうとした矢先、またタブレットが癇に障るメロディーを歌い出す。エリスは”ピンクの丸い板”と”ホワイトの四角い板”とを交互に見てから、やがて溜息を吐いては四角い方の板を手に取って、椅子に腰掛けるのだった。
 ピッ――。彼が『応答』アイコンをタップすると、すぐさま画面上に相手の姿が映し出される。嬉しい驚きだと言うようなリアクションをした相手は、それからエリスの心境などお構いなしに、明るく手を振りながらこう挨拶してくるのだった。「やぁエリス~。俺だよ~、シャステルだよ~」メカに不慣れな祖母ばあちゃんか! 祖母ちゃんが初リモートに挑戦して、遠方にいる孫と再会した直後かっ!(勝手な想像に基づくツッコミ)
 これにはエリスも、自分の置かれている状況が不可解すぎて困惑してしまう。「もう、シャステルさん……それは分かってますから……要件は何ですか? 僕、今忙しいんですけど……」
 ヴィク「要件ってほどのことはないけどさ~。君言ったじゃん? 『寂しかったら電話かけてもいい』って……オジちゃん寂しかったんよ」
 エリス「はぁ(溜息)……分かりました。だったら話しましょう。えっと、今は”休憩時間”ですか?」
 ヴィク「そやね。午後の”ワークショップ”が終わって、休憩しとるとこ。囚人は申請すれば、面会時間にムショ内のPC使えるんよ。そんで君に電話してみたってわけ」
 エリス「お仕事、頑張ってるんですね……今日はどんなことしたんですか……?」
 ヴィク「まぁ”日曜大工”的な仕事をな。日によって担当する作業が変わるけど、他には衣服の補修・クリーニングとか、雑貨作りとか料理とか清掃とか、あとコンピュータ・グラフィックス関連の創造的な作業とかもあったりする。まぁどれも”事前の仕事”に比べれば低報酬だが、未経験なことは覚えることも多くて、やりがいもそこそこあるね」
 ※ヴィクトールはまだトゥイリエール刑務所にいる。ワークショップが女性的なのはそのため。最寄りの男性向け刑務所の改修工事が長引いているようだが、特に問題も起きていないので、もうずっとトゥイリエールにいればいいのではないか、と看守たちも感じ始めている。
 エリス「へぇ、何だか”学校”みたいですね……? ちょっと楽しそう……」と言いつつ彼は、もはや学校を楽しいとは思えない状態にあった。それほど彼の心は深刻なダメージを受けていたのだ。
 ヴィク「ははっ、学校な……だとしたら俺は、”女子大”にでもいる気分だわ……居心地が悪いったりゃありゃせん……まぁそのおかげで、軽作業多めなのはよかったか……とりあえず、こっちに”居つける”ように大人しくしておくわ……そんで頑張って働く……君らへの賠償金も、払わにゃならんし……」
 エリス「偉いですね……僕の方は後回しでいいですから、お金に余裕ができたらまず、別れた奥さんにあげてください……ダニエルとお母さんの方が、今はよっぽど大変なはずです……」
 ヴィク「はぁ(溜息)……せやな……」
 エリス「それで……そちらではお仕事の他に、何か”レクリエーション”をしたりもするんですか……?」
 ヴィク「あぁ、週数回あるね。この前は映画を観たわ。スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』っていうホラー映画」な、なぜそれをチョイスしたし刑務所……。
 エリス「へー、どんなお話なんですか? 怖かったですか?」※エリスは怖いのが苦手。でも今は自分の人生の方がよっぽどホラーだと思っていたので、特に怖れる素振りもなく、単なる社交辞令としてそう尋ねたにすぎない。
 ヴィク「あらすじとしては、まぁ何だ……小説家志望で無職、おまけにアルコール依存症で頭が禿げ上がっている中年男が、ひょんなことから”あるホテルを冬の間管理する仕事”にありついたことで、妻と幼い息子を連れて”そのホテル”に住み込み始めて、同時に創作作業にも取り掛かり始めるんだけどな……そこはかなり”いわくつき”のホテルってことで、”かつて妻と双子の娘を斧で惨殺した後、猟銃自殺した男”の怨霊みたいなのが取り憑いててだな……その邪悪な怨念みたいなのを『シャイニング(輝き)』って言うんよ……で、ホテルのシェフと主人公の息子には、それを感じられるテレパシー的な力があって――確か、そのパワーそのものも『シャイニング』って言うんだったっけな……まぁ、あんまその辺は重要じゃなくて、とにかく邪悪な意思を持ったホテルが、次第にシャイニングを使って主人公を狂気へと落としていって、いつしか主人公は家族を惨殺するのを使命みたいに考えるようになるんだわ……んで、そんな男から家族が逃げ惑う様を描いたホラー作品って感じだった……普通に怖かったよ……」
 エリス「そ、それって……かなり怖そうですね……僕、嫌だな……そういうの……」思いの他、あらすじだけでも怖かったもので、つい聞いたことを後悔してしまう彼だったが、ふと別の事実にも気づいてしまい、身の毛がよだつ思いをするのだった。「そ、それに何だか……そのストーリーって、今回のことと……」そこで言葉を切るも、相手には充分伝わったようだ――彼が大きく頷いてから答える。
 ヴィク「それなんよ……この映画の筋書きが、あまりにも”俺たちの事件”に似てるんよな……。『禿げたアル中の男が、乱心して妻と息子を殺そうとしたあげく、銃自殺しようとする』ところとか特にな……しかも主人公は実際、”シャイニングで異変を感じ取ってホテルまで駆けつけてきたシェフ”を手に掛けてしまうんよ……それも俺が君を傷つけちまったのに酷似してるし……あと君は知らんと思うが、俺は昔”売れない小説家”だったんよ……ヤバいよな……?」
 エリス(悪寒を感じながら)「そ、それは……ヤバすぎます……」
 ヴィク「さらにもっと不気味なのが、作中で襲われる妻と息子の名前が、『ウェンディ(Wendy)』と『ダニエル』ってことなんよ……もう偶然の一致としては出来すぎてて、もはや自分をモデルにした作品なんじゃないかと思うくらい、心底ゾッとしたわ……ったく、たちの悪いジョークだぜ……」
 ※後付けのようで申し訳ないが、彼の妻の名前も『ウェンディ』という。うん……と言うか完全に後付けです、ごめんなさいっ!
 ※でもそれ以外で、先の事件が『シャイニング』と奇跡的な一致をしていたのは事実。実際私は、先の事件を映画『マイブラザー』へのオマージュとして書いたのであって、シャイニングはその後初めて観賞した。
 エリス(急遽席を立ちながら)「ちょ、ちょっとすみません……にょ……を”催してきた”ので、トイレに行ってきます」
 ヴィク(意地悪な顔をして)「にょっ!? ありゃりゃ? もしかして”エリスたん”……怖くてお漏らししちゃったのかい?」
 エリス(ムカついたような顔をしながら)「そ、そんなわけ……ちょっとアーモンド・ミルク飲みすぎただけです……」
 ヴィク(茶化したように笑いながら)「ったく、つれないな~! ほれほれ、いいから行ってきなっ。でもオジちゃんあと20分くらいしか通話できないから、できるだけ早く帰ってきてな?」
 エリス「チッ(舌打ちw あの誰よりも優しかったエリスが、まさかここまでやさぐれるとは)……はいはい……」
 こうして会話は中断された。

エリスの高校休日㉒ お前なんか死ねばよかった!

 一階のトイレに入ったエリスは、いつものように立ったままパンツと下着を下ろして、便器に向かって放尿していく(※彼は元々”立ちション派”。さすがに義足に慣れていない間は座ってしていたが、今は立ったままでも苦ではなくなったので戻している)。やや黄色くなった透明なオシッコを呆然と見つめがら、先ほど聞いた映画の話を思い起こしていた彼は、ふっと誰かに見られているような奇妙な気配を感じては、さっと後ろを振り向いてしまうのだった――当然そこには誰もいない。
 ほっと安心して前に向き直る彼。切れの悪いオシッコがまだチョロチョロと続いている。はぁ……シャイニングか……あまりにも凄惨で、”僕らの事件”とソックリなお話だったな……もしかしたら今回の事件も、本当に未知の力によって引き起こされたのかもしれない……だとしたらそれって、やっぱり”僕のせい”だ……僕がエッチなこと考えちゃったから、きっと”バタフライ・エフェクト”みたいなことが起こって、それで……。彼の目に、液体を垂れ流す己のマイクロ・ペニスが映る……。
 と、その瞬間。彼のなかに強い嫌悪感が湧き起こる――”虫唾が走る”という表現がピッタリだろうか……とにかく強烈な自己破壊的衝動が脳裏を過ったのである――。彼はその感情を胸の奥にそっと押し留めては、何事もなくペニスを紙で拭ってから、手を洗ってその場を立ち去ろうとした――その間際、どす黒い感情が沼の底から再浮上してくる――気づけば彼は便器に左膝を突いて、右手に持った鋏で己のペニスを切り取ろうとしている最中だった。
 激しい動悸と過呼吸に襲われながら、血走った目を下半身に落としては、震える右手で鋏を閉じていく彼――。『こんな……こんなものがあるからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』だが身体はそう簡単には言うことを聞かない……強い怒りと憎しみに任せて、事に当たろうとする彼だったが、どうしても痛みと死への恐怖――生理的ストッパー――が邪魔をして、最後まで鋏を閉じられなかった。
 結局彼は、肉を少し切ったところで痛みにより断念せざるを得なくなり、そのまま鋏を床に落としてから、便器の中に嘔吐してしまうのだった。「オエェェェェェェェッ……」あぁ可哀そうな……可哀そうなエリス……(お前が書いてんだろ、この下劣なサイコパスが)。アーモンド・ミルクと胃酸を少しばかり吐いてしまった彼は、それから気分を落ち着けるべく幾度となく、便器の中で深呼吸を繰り返すのだった……彼の股間には、もうちょっとで身体から分離させられるところだったペニスが、悲しそうに赤い涙を流している……。
 *
 12分後。何とか狂気と吐き気を封じ込めたエリスは、それから手を洗って口を濯いだ後、傷つけてしまった”おにんにん”の応急手当を行ってから、フラフラになりながら自室へと戻っていた(※まずいことに、今日は家族が誰も家にいない)。そして顔色がすこぶる優れない彼が帰還したところで、ヴィクトールは『待ちくたびれたぞ』と言わんばかりの態度で”伸び”をしてから、気を取り直してこうおちょくるのだった。
 「おやぁ? ”小(pipi)”かと思ったら”大(caca)”だったエリスくんですかい? それとも途中で小を漏らして、長らく廊下でも掃除してたエリスくん何ですかい? もう~オジちゃん待ちくたびれたよ~」えっ、彼”待ちくたびれた”って言ってる!? ”言わんばかりの態度”で、ハッキリと言っちゃってるよ! 対してエリスは無言のまま席に着いては、倦怠したような、それでいて皮肉も込めたような態度でこう返すのだった。
 「どうも……自分のおチンチンが呪われてると錯覚して、今しがたハサミでちょん切りそうになったけど、やっぱり怖くてできなくて、結局トイレで吐いちゃったエリスです……」これを受けて、とても冗談ではないことを悟ったヴィクトールは、途端に真顔になって「ガチで言ってんのか……?」と尋ねるのだった。
 「はい……ガチです……何なら見ますか? 僕の怪我したおチンチン……」そう言って立ち上がって、事もなげにパンツを下ろそうとするエリスだったが、すぐさま相手が「バッ、やめろっ! 信じっから! 信じっからっ!」と制してきたので、すんでのところでストリッピングを回避した。「あっ、そっか……僕って”見られたら興奮する変態”だったっけ……そんなことしたらまた裏目に出ちゃうか……」という自虐的な言葉を残して……。
 危うく貴重な連絡手段を失うところだったヴィクトールは(いちおう、この種の通信も刑務所側に監視されている)、ホッと肩を撫で下ろしてから覚悟を決めて、この”自分のせいで心を病んでしまった哀れな少年”と対峙するのだった。「なぁエリス? 前にも言ったけど、あんま無理すんなや? 今回の件はどう考えても、俺が”悪者だった”ってだけの話なんだしよ? 原因がこれっぽっちでも自分にあっただなんて思うな? もしちょっとでも楽になりたいならさ……いい加減”素直になって”、俺のこと罵倒してみ? どうや? んっ?」
 その場の空気が凍り付く。俯いたまま着席し直し、しばらく気分が悪そうに深呼吸を繰り返す彼だったが、ついには――精神崩壊を避けるため仕方なくだろう――彼の心から『”優しさ”という名のたが』が外れてしまうのだった。
 エリス「ねぇシャステルさん……あの日、あなたが乱暴な様子で帰宅する直後まで……僕とダニエルが何をしていたか――もっと言えば”何をしようとしていた”のか――、分かりますか……?」
 ヴィク(何かを悟ったような仕草をしてから)「まさか……まさか、なのかい……?」
 エリス「その”まさか”です……僕たち、互いに”恋”してたんです……それで何度かキスをして、気持ちを確かめ合っていました……二人ともすごく幸せで、興奮していて……『さぁこれから初めてエッチするぞ』ってときでした――あなたが登場して、全てをブチ壊したんです!」
 ヴィク「それは……すまなかった……まさか己が息子に、あんたみたいな”べっぴんな彼氏”がいるとは露知らず……」
 エリス「”すまなかった”ですって!? 僕は”右脚”を失って、すごく痛くて怖くて悲しい体験をしたのに、シャステルさんは”すまなかった”って……そう言うんですかっ!?」
 ヴィク「エリ――」
 エリス「そもそもとしてあなたが、初めからもっと家族を大切にしていたら、こんなことにはならなかったんですっ! 僕もあらぬ罪悪感を覚えたり、あなたのことをこんなにも憎まずに済みましたっ!! それどころか僕たち、いつしか仲の良い家族にだってなれたかもしれないんですっ!! 分かってますかっ!? その可能性が全部奪われたんですよっ!! あなたの横暴のせいでぇぇぇぇっ!!」
 ヴィク(心底反省したように)「すまなかった……謝って済むことじゃないって分かってても、もうそれしか言えんわ……。それに、君のおかげで今なら分かる……全部、自分が間違っていたって……俺は充分、得難いほどのものを持っていたはずなのに……それに気づかなかった大バカ者だってな……やっぱ心の病気だったみたいだわ……。だから今の俺の願いはただ一つ、『君にだけは”同じ”になってほしくない……できることなら、君に元の健康な心を取り戻してやりたい』ってことだけなんだわ……それでエリス、教えてくれ……俺は何をすれば、君に償ってやれる……?」
 「死んでください……」画面の向こうにいる美少年の口から、情け容赦ない要求が飛んできたのを受け、ヴィクトールはガックリと下を向いて、震える声で「そりゃ、”自殺しろ”ってことかい……?」と聞くのだった。
 エリス「いいえ、違います……確かあなた、肝臓ガンでしたよね……? だったら早く悪化させて死んでくださいよ……そしたら生命保険みたいなものの死亡給付が下りますよね……? それでとっとと僕とウェンディさんに賠償金を払ってください、って言ってるんです」自分があまりにも心ないことを言っていると分かってはいても、今の彼は心を”虚無ヴォイド”に支配されていたので、口が勝手に放言するのをどうすることもできなかった。
 ヴィク「申し訳ないが、俺は任意の生命保険には加入してないもんで……死んでも金は貰えんわ……それに職域年金(BVG/LPP)の方に入ってる300,000 CHFの方も、死んだからと言って今すぐ一括で引き出せるわけじゃないだろうし……ごめんな?」※彼の年金については、第四十二章の”あとがき”を参照。
 エリス「じゃあ何もできないってことじゃないですかっ!! あなたはこんなにも僕たちを傷つけたのに、その無念をどうしたって埋められない、って言うんですねっ!? ねぇ知ってますか、世間では”そういう人”のことを”無能”って言うんですよっ!! この無能がぁぁぁぁっ!!」
 ヴィク「その通り……俺は無能だ……許してくれ、とは言わないが……せめて無能は無能なりに、君らに償うチャンスをくれ……頼む……」
 エリス「無能なりに!? それって低賃金の仕事でちまちま稼いで、あげくガンで死んじゃうってこと!? ねぇシャステルさんっ!! そんなんで償えると思いますかっ!? ふざけるなっ!!」
 ヴィク「すまない……すまない……」
 エリス「それはもう聞き飽きたってぇぇぇぇぇ!! あぁもうっ!! 僕が間違ってたんだっ……”こんな無意味な命”救うべきじゃなかった!! もし、”あのとき”に戻れたら……」
 ヴィク「すま……なっ……(ついに泣き始めてしまう彼)」
 エリス「泣くなっ!! 泣きたいのこっちだぁぁぁぁ!!」
 ヴィク「うっ……くっふっ……」見苦しく号泣しては、鼻を啜る彼……そしてエリスの虚無(ヴォイド)が――。
 エリス「お前なんか……お前なんかぁぁぁぁぁぁ!!!」絶頂を迎える――。
 「死んじゃえばよかったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

エリスの高校休日㉓ 虚無と闇を越えた先に

 彼の大絶叫が部屋中に轟いて、辺りは静寂に包まれる。耳を澄ますと聞こえてくるのは、タブレットの向こうで咽び泣く男の呼吸音だけ……。そこでようやく我に返ったエリスは、今しがた自分が口走ってしまった暴言の数々を思い起こしては、死ぬほどの後悔の念に苛まれて、泣き崩れてしまうのだった。
 エリス「ごめっ……ごめんなっ――いっ、今のは違くて……嘘ですっ、全部っ……うっ……ご、ごめんなさぁぁぁぁぁいぃぃっ……」タブレットの前で机に突っ伏して、泣きじゃくる彼。
 ヴィク「いや、いいんだ……”言え”っつったのは俺の方だし……それに全部、本当のことだし……むしろ遠慮なく言ってもらえて、スッキリしたわ……」
 エリス「で、でも……僕、何て酷いことを……”死ね”だなんて……絶対に人に言っちゃいけにないことなのに……本当に、ごめんなさい……」
 ヴィク「なぁエリス……俺……こんなにも無意味で、取るに足らない存在だけどさ……生きていても、いいかな……? 最期の時まで……幸せになれるって信じていても、いいかな……?」
 エリス「もちろんですっ! どうか生きていてくださぃ……僕にもダニエルにも、あなたが必要です……」
 ヴィク「ありがとう……ありが、とぅ……」
 エリス(突っ伏したまま上目遣いでカメラを見上げながら)「それで……僕の方こそ、生きていてもいいですか……?」
 ヴィク「ど、どうして……?」
 エリス「だって……僕みたいな”恵まれてる子”は、お嫌い……何ですよね……? ”あの日”、あなたは僕に拳銃を突き付けて……『天使は天界に帰れ』って……」
 ヴィク「あっ……いやあれは……咄嗟に出た弱者の戯言と言うか……君の存在が、あまりにも崇高すぎて……この世の不平等を象徴しているように思えたから、つい言ってしまったことなんよ……すまんかった……君のことを何一つ知らなかったから……。だから君は気にせず、自分らしく生きていてくれ……”世界”には君が必要だ……」
 エリス(クシャクシャな笑顔で画面を見つめながら)「えへへっ……嬉しいな……それじゃ僕たち、仲直り……ですね……?」
 ヴィク(満足げに微笑みながら)「あぁ……」
 そんな彼らの通話の様子を、たまたま刑務所内のコントロール・センターから監視していた男性スタッフも、彼らと同じく温かな気持ちに包まれながら、涙を拭うのだった。『あぁもう……ええ子すぐる……エリスくん……(できればちょっとだけ、君の”怪我したおチンチン”見たかったな……)』
 「それで、なんだが……」ヴィクトールが頭を掻きながら、かしこまったように別の話題を切り出す。「久しぶりに俺、”小説”でも書いてみようかと思うんだけど……どうかいな?」
 「小説……?」キョトンとした顔を上げて、そのまま机に頬杖を突いたエリスが、満面の笑みでこう答える。「いいと思います! 何か題材は決まったんですか?」
 ヴィク「題材か~、まぁ特に決まったってわけじゃないんだが~……強いて言うなら~……”君”……とか?」
 エリス(不意打ちに戸惑いながら)「へっ?」
 ヴィク「いや何て言うか~、君さえよければなんだけど~……”君自身”を描いた小説を、書いてみたいな~、なんつって?」
 エリス(激しく困惑しながら)「えぇ……だ、誰も読まないと思いますよ……そんなの……」
 ヴィク(確信したような態度で)「いやっ! 読まれるっ! 少なくとも、娯楽に乏しい刑務所内では、絶対!」
 エリス「そ、それじゃお金は稼げないじゃないですかっ! それに僕、恥ずかしいですよ! 刑務所の人たちみんなに知られるなんて!」
 ヴィク「いや、すでに刑務所の連中は大体、君のこと知ってるよ?」
 エリス「えぇぇっ!? 何でぇ!?」
 ヴィク「噂ってのは一瞬で広まるもんなんよ……この前面会に来たときに、君のこと目撃した連中が数人いてな……そっからっぽい」
 エリス「な、ならなおのこと嫌ですよ! 他の題材にしませんか? ねっ?」
 ヴィク「ふ~む(しばらく思考するように唸ってから)……なら、”君をモデルにした架空の人物”ってのなら? もちろん住んでる場所とか諸々の個人情報はテキトーにでっち上げるし」
 エリス(苦慮しながら)「う~ん……まぁ、それだったら……いいですけど」
 ヴィク「本当か!?」
 エリス「えぇ。それは、”僕じゃない”わけですし」
 ヴィク「あざっすっ!」何やその物言い! 日本の高校球児かっ!
 エリス「ふふっ……書けたら僕にも読ませてくださいね?」
 ヴィク「おう。ま、その前にいろいろインタビューさせてくれな? あくまでモデルは”君”なわけだし」
 エリス「うえぇぇぇ!? そこは想像で書いてくださいよぉ~」
 ヴィク「それができるなら、もう売れてるわ……挫折しまくった中年男性の想像力舐めんな……もう枯れ果ててるわ……」
 エリス「寂しいこと言わないでくださいよぉ」
 ヴィク「じゃあいいんかい!? 君が”あんなこと”や”こんなこと”するような、エロエロなやつ書くぞ!?」
 エリス(真顔で)「通報します」
 ヴィク「もう12年食らってるわ!」
 最悪な修羅場みたいな会話から一転して、いつの間にか和解したかと思えば、今度は夫婦めおと漫才みたいな痴話喧嘩をし始めた二人の通話を傍受しながら、監視スタッフが微笑まし気にこう思うのだ。『あぁ……エリスくんの小説読んでみたいな……もしかしたら”濡れ場”のシーンとかあったり――っていっけね! もうこんな時間――』コンソールのマイク・ボタンを押しながら放送を掛けるスタッフ。「パソコン・ルームにいる者。もう面会時間終了だぞ。直ちに通話を終了し、PCをシャットダウンしなさい」
 ヴィク「おっと……もう時間みたいだわ。すまねぇエリス、俺もう”ショーシャンク”に戻らねぇと……じゃあな。今日は話せてよかったわ」
 エリス「えっ……そっか、うん(ショーシャンクって?)……それじゃあ、また!」
 ヴィク「あぁ、”またな”」
 ピッ――。
 こうして長いようで短かったオンライン面会が終了した。エリスはタブレットをスタンドから取り上げてから、それを画面を下にして机に伏せて置き、その後しばらくボーッとしてから、やがて「くひっ」という笑い声をあげてニヤけては、ペン立てから”ペロキャン”を取り上げて、その包みを剥いてからキャンディーを口に入れる。
 そして彼はしばし、その棒で口内を掻き混ぜてから、お終いに溶けた飴と唾液をゴクンと飲み込んでは、幸せそうな顔をしてこう呟くのだった。
 「甘い……」
 そう……甘味と希望だけは、誰にも奪えないものだ……虚無と闇を越えた先にあったのは、虫歯の元になるけど確かに幸せな、甘い甘い”おかしな”気持ちだった(意味不明っ!)。

第四十四章 – 青春時代② 高校生活 Ep.31:箱庭の決闘(デュエル) 前編

始めに:本エピソードはユング心理学をテーマにしており、さまざま専門用語が登場します。各用語の説明は本文中でも行いますが、やや難しい内容であることはご了承ください。ちょっとしたお勉強気分で読んでいただけると嬉しいです。

エリスの高校休日㉔ 1分間の連れション・ストーリー

 2041/12/21(土)。冬至となるこの日は、セラピスト『セリーヌ・オークレール』にとって仕事納めの日であり、本日15時には今年最後の”クライアント”が彼女の元を訪れる予定となっていた。現在時刻は14:54。33歳で独身の彼女は、自身がオーナーを務める小さな心理療法施設『心の診療所”ル・シエル・ブルー”』の事務所にて電気ヒーターの熱に当たりながら、同じく33歳独身となる受付係の女性『ジャネット(Jeanette)』と温かいドリンクを飲みつつ談笑していた。
 「チリンッチリーン♪」そんな折、入口の方からドアベルの音が鳴り、彼女らに客人の来訪を告げる。これを受け、先にジャネットが受付の方をサッと覗き見ては、ニヤけ顔で頷きながら振り向いて、セリーヌへとその正体を知らせるのだ。「来たよぉ? 例の”イケメンお父さん”と”小動物みたいな息子さん”」
 すると時を待たずして、受付の呼び鈴が鳴らされる。「チリーン♪」ちょうど、ひと口サイズのモンブランを口いっぱいに頬張っていたセリーヌは、ジャネットに向かって『は、早く行って、もてなしてあげて』と言うようなジェスチャーをしてから、ハーブティーを口に流し込んでは、口内を空にするのだった。
 「はいはーい」ジャネットが受付に戻ると、何も知らない”イケメンお父さん”ことサミュエルが、「予約したシンクレアです。これが診察券と保険証です」と、スマホの画面を開示してくる。ジャネットは「はい確かに」と画面内の二次元コードを端末でスキャンしてから、「それではまた、セッション開始時に名前を呼びしますので、それまでそちらの席にてお待ちくださーい(棒読み)」と、お得意の『マニュアル塩対応』を完遂してみせる。
 ――と言うのも彼女、父親が実業家ということもあり、金にはまるっきり困っておらず、大学を出てからは気まぐれに仕事をとっかえひっかえしていたのだが、ちょうど自分の店を持とうとしていた幼馴染のセリーヌに『受付係にならないか』と誘われた際、「何だか楽そうだし、いいよー」と二つ返事したことで、当会社の一員になったという経緯があった――要するに彼女は、この手の施設によくいる『やや無愛想な受付係』の一人と言うわけだ(ちなみにル・シエル・ブルーのGoogle Mapのレビューには、彼女の態度を指摘するものがいくつもあり、そのせいで☆は5つから一点引かれて4つになっていることが多い)。
 しかしそんな彼女ですら、ついに己の言動を省みる出来事が起こってしまうのである。ロビーの座席へと向かおうとしたサミュエルが、振り向いてこんなことを言ってきたのだ。「あっと、お手洗いお借りしても?」すると彼女は、両手の人差し指をトイレの方へと向けてこう答える。「はい、あちらでーす(※普通、方角はCAやバスガイドさんのように手で示すものなので、そういうところがジャネットが無礼だと思われる所以だ)」
 「どうも――」すぐさま用を足しに行こうとするサミュエルだったが、その間際もう一度ジャネットの方を見て、こんな言葉を掛けるのだ。「いやぁ、綺麗な”爪”ですね? 今日の天気と同じ”空色”だ」そうして何食わぬ顔でトイレへと直行するサミュ。それを見送ったジャネットはウットリして天を仰ぐのだった。『イエス、フォーリンラブ♡』イチコロかよっ!? 1分間のラブストーリーかよ!? 軽すぎだろジャネット!? いやだいたいサミュも、何であんなこと言ったし!? エリーズ(妻)からしたら浮気だろ!?
 だが種明かしすると、ちょうど新色のネイルを試していた彼女だったので、ただ初対面の男性がそれに気づいてくれて、なおかつ褒めてくれたことが嬉しかったのだ。またサミュにしても、先週以降エリスの心が目覚ましい回復を遂げていたので、当施設への評価がうなぎ上りになった+上機嫌だっただけのようだ。
 そんななか、自分のネイルを見てニマニマするジャネットの前を、通り過ぎていく人影がもう一人。”小動物みたいな息子さん”こと、当作品の主人公『エリス』だった。右脚に下腿義足を着けているとは思えないほどの軽快な足取りで、トイレの個室に入っていった父を追っていく彼。「お父さぁ~ん。僕もトイレ~。もう漏れそう~」いや連れション親子かよっ!? 可愛すぎるだろっ!? 漏らしてっ! むしろここで漏らしてっ!!(おい自重しろ。心理学の回だぞ)
 ”ロビーに人気ひとけがなくなった”ちょうどそのとき、事務所の方から急いでマウスウォッシュしてきたセリーヌが飛び出してくる。「お待たせしましたぁ! それではセッションに――」例の親子の姿が消えているのに気づく彼女。『彼らは?』というような目でジャネットを見ると、受付嬢は颯爽と空色の爪を二本”かしこ”へと向けては、お決まりの事務的な声でこう答えるのだった。「はい、あちらでーす」
 *
 客人たちが用を足し終えた後(※念のため言うと、彼らは同じ個室をシェアしたのではなく、ちゃんと順番に入った)、満を持してセリーヌとエリスの第二回セッションが始まった。彼の様子をひと目見たセリーヌは、そのすっかり健康的そうになった彼の態度に安堵しながら、また例の”心の”へとクライアントを導いていくのだった。
 ガチャッ――。部屋に入ると、エリスの目が一つの”不思議なオブジェクト”を捉える。部屋の真ん中に置かれたハイテーブルに載った”謎の木箱”である。今回はソファーへは座らず、立ったままこの木箱で何かするのだろうか? その謎が今解ける――。
 「さぁエリス! 今日はあなたの心をもっと”ずっと深く”まで覗き込むわよ? いいわね? 覚悟しなさいよ?」そんな脅しめいたことを言っては、セリーヌが木箱の前で立ち止まったので、エリスも何となくそれと向き合う位置で立ち止まる。箱の中を覗き込むと、そこにはサラサラした砂が入っているだけだ。
 「何するの? セリーヌ?」エリスが不思議そうな顔でそう尋ねると(もう大分打ち解けているので、敬語じゃなくなっている)、前方のカウンセラーがドヤ顔で、これから行う活動について明かすのだった。「フフフのフ……今からするのはね……”ユング心理学”と”遊び”を掛け合わせたセラピー『箱庭療法』よ!」は、はこ……にわ……? 戸惑うエリスを余所に、彼の内なる”勇者”が奮い立つ。
 さぁ、ゲームの時間だ……。

予備知識④ ユング心理学と深層心理

・ユング心理学(Analytical Psychology:分析心理学)
 スイスの心理学者カール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung)により提唱された心理学。深層心理(心の深い部分=無意識)を知るための学問という点では、フロイトの『精神分析学(Psychoanalysis)』と共通しているが、こちらは”個人的無意識”のみならず”集合的無意識”という、より深層の無意識をも分析対象に含める。
 そのため人間の無意識が最も表出する事象として”夢”を重要視し、ことさら夢分析においてその威力を最大限発揮する。分析方法は、その人が見た”イメージ”に対して、集合的無意識において見られるいくつかの普遍的なパターンである『元型げんけい(アーキタイプ)』を当てはめていくことで行われる。

・人間の精神構造
 ユング心理学では、人間の心(ギリシャ哲学に則って”プシュケー”と呼ぶ)は意識的(言語化可能)領域と無意識的(言語化不可能)領域に分けられており、また無意識的領域は”個人的無意識”と”集合的無意識”に分かれているとされる。
 具体的には以下のようになり、下に行くほど深く・広くなっている。

①意識
 普段その人が自覚している心。そのとき思い出せる記憶や、そのとき感じられる感情など。唯一の元型として、中心に『自我エゴ』を持つ。自我は意識の操縦者であり、逆に言えば自我が制御可能な領域が”意識”となる。自我があまりにも弱いと、後に説明する『自我インフレーション』という現象を誘発しやすくなる。
 また、意識には『ペルソナ(仮面)』という、外界と自我の間で現れる『作り出された自我』も存在している。こちらは元型ではなく、あくまでその人が周囲の要求に対して、自ら表している性質(社会的仮面)の一つに過ぎない。ペルソナは無数にある(職場での顔、家庭での顔、友人たちの前での顔、SNSなどのネット上での顔……etc.)が、典型的な例は男性の示す『男らしさ』、女性の示す『女らしさ』である。

②個人的無意識
 その人の記憶や感情のうち、知らぬ間に抑圧・忘却されたもの。すぐには思い出せないが、あるきっかけで再生される。ほとんどが無害なものだが、いくつかは下の元型と結びついて、『コンプレックス(劣等感・トラウマなど)』を形成する。コンプレックス自体は元型ではないが、これが強いほど自我インフレーションが激しく、破壊的になる。
 また個人的無意識の浅い部分(意識のすぐ裏側)には、『シャドウ(影)』と呼ばれる特殊な無意識が形成されることがある。これは自我がペルソナを生み出すときに、抑圧してしまった欲望や感情の集合体であり、その人のシャドウはその人が作り上げたペルソナの数だけ存在する。
 個人的な経験により生成されるので、通常シャドウはペルソナ同様”元型ではない”が、あまりにも増大して深層心理まで浸食した場合、それは集合的無意識と接続され”元型となる”ことがある。

③集合的無意識(普遍的無意識)
 人類が共通して持っている深層の心理構造。そのなかの特徴的なパターンを『元型』と言い、以下がその一覧となる。無意識領域は言語化できずとも、イメージ(視覚化)することはできるので、ユング心理学ではその人が表出させたイメージがどの元型に対応しているかを分析することで、その人の深層心理を知ろうとすることが主眼となっている。

[元型の一覧]

・グレート・マザー(太母)
 母親のような守護者、創造者の象徴。表出されるイメージとしては『海』『巨木』『大地』『洞窟』『女神』『魔女』『怪獣(恐竜やドラゴン)』などが該当。

・オールド・ワイズマン(老賢者)
 知恵、力、権力の象徴。その人の指針となるもの。『山』『星』『書物』『鍵』『階段』『神様』『王様』『魔法使い』、その他『知性や権力が高そうな男性』『知性が高そうな動物』。

・アニマ(Anima)
 男性が持つ内なる女性性。しばしば『美女』の姿で現れる。その他『月』『水』『花』『風』など。

・アニムス(Animus)
 女性が持つ内なる男性性。しばしば『美男』の姿で現れる。その他『太陽』『剣』『山』『時計』など。

・シャドウ(影)
 先ほど言った『増大して普遍性を帯びたシャドウ』がこれである。『自分のなかにある受け入れ難い側面』を象徴し、しばしば『悪魔』『破壊神』『恐ろしい生き物全般』『ネガティブな印象を与える同性人物』『ピエロ(道化師)』などとして現れる。

・ペルソナ(仮面)
 先ほど『ペルソナは元型ではない』と言ったが、元型的にイメージが表出することがよくある。その理由は恐らく、個々人の持つペルソナは全く違っていても、”ペルソナ”という機能には人類共通の普遍性が存在しているためだろう。いつの時代どんな人間であろうと、周囲に対して何らかのペルソナを被っていたはずだからだ。
 つまりペルソナは『偽りの自分』の象徴であり、イメージとして表出する場合は主に、『身につけるもの(衣服、帽子、眼鏡、アクササリー、仮面、その他の被り物など)』として現れるのだ。

・トリックスター(いたずら者)
 破壊・混乱・転換をもたらす存在の象徴。『小悪魔(インプ、グレムリンなど)』『ピエロ』『キツネ』『タヌキ』『カラス』『サル』『ネコ』『迷路』など。

・ヒーロー(英雄)
 挑戦・試練・旅・成長・犠牲・勝利の象徴。『英雄的人物全般』『剣』『山』。

・チャイルド(子供)
 純粋性・再生・可能性の象徴。『ディヴァイン・チャイルド(聖なる子供)』や『インナー・チャイルド(内なる子供)』とも言われる。『赤子』『幼い子供』『花』『卵』『朝日』『泉』。

・永遠の少年(Puer Aeternus)
 自由・夢想・純粋・無責任の象徴。『少年性を体現した人物全般(ピーターパン、星の王子様、ナルシスなど)』。

・永遠の少女(Puella Aeterna)
 可憐・儚さ・依存・受容性の象徴。『小女性を体現した人物全般(童話やアニメの少女キャラが該当するが、永遠の少年ほどしっくりくる例はない)』。

・自己(SelfセルフSelbstゼルプスト
 集合的無意識の最深部にある特別な元型。その心(プシュケー)全体の始まりであり、またその心(プシュケー)そのものでもある。中心・統合・全体性・全知全能の象徴であり、全元型の要素を併せ持つ。『マンダラ(円形模様)』や『円』『十字』『神』などのイメージとして表出する。

 これらの元型はしばしば混ざり合ったり、性質を入れ替えたりするが、ユングによれば『グレート・マザー』『オールド・ワイズマン』『シャドー』『チャイルド』『アニマ』『アニムス』は、分かりやすいかたちで顕著に表れるという。
 また、これらが確かに存在している理由として、我々人類が創造してきた『神話』や『伝説』の類似点が挙げられる。人類はそれぞれ異なる思想や文化を持っているが、語られる物語は大いに似ており、注意して観察すれば必ず、上記のような要素を”象徴”しているキャラクターたちがいることに、我々は気づくことができる。これは我々のなかに、元型が存在している確かな根拠となる。
 加えて、全ての元型は『子供』から派生しており(※自己は特別なので例外)、典型的なライフサイクルに当てはめれば、男性の場合『永遠の少年』→『英雄』→『老賢者』と対応し、女性の場合は『永遠の少女』→『英雄』→『老賢者(ワイズウォーマン)』または『太母』となる。結局のところ、それらは各年代に対する”普遍的な理想像”として表出することが多く、また『アニマ』や『アニムス』は”理想の恋人像”として投影されることが多い。

・自我インフレーション(Ego Inflation)
 自我が弱く、かつある元型が膨大な心的エネルギーを備えている場合、自我が元型を己と混同し、同一化してしまうことある(結果として自我が肥大化する)。これを『自我インフレーション』と呼ぶ。例えば、『英雄』と自我が同一化した場合、『自分は特別だ』『使命がある』『他社より優れている』『正義だ』などと錯覚する事態に陥る。
 『影』と同一化すれば、『世界が間違っている』『他人は皆、敵』『闇こそ真実』『復讐しなければ』などの観念に囚われて、反社会的かつ破壊衝動的になるし、男女がそれぞれ『アニマ』や『アニムス』と同一化すると、『どこかに真実の愛があるはず』『彼女(彼)こそ運命の人』『彼女(彼)のためになら何でもできる』などと、過剰なロマンティシズムにのめり込むことになる。
 『賢者』と同一化すれば『自分は真理を悟った』『他者の導き手だ』などと思うようになるし、『いたずら者』と同一化すれば『他者の気持ちなどお構いなしにブラックジョークを飛ばしまくるコメディアン』のようになる。『子供』や『永遠の少年・少女』と同一化すれば、『赤ちゃん返り』や『子供返り』を招くことになるし、『太母』と同一化すれば『過保護な母親』に”キャラなり”してしまうだろう。
 ――と言うのも、自我が上手くその性質を”憑依”させられている場合は、同じ『自我肥大』であっても、現実的には功を奏する場合も多い。問題になるのは”自我が負けてしまって、その性質が現実味を全く帯びなくなる場合”である。そして当然、『自己』と完全に同一化できる者などいるはずもない。もし『自己』を中途半端に憑依させようものなら、『私は神だ』『私だ』『お前だったのか』『また騙されたな』『暇を持て余した、神々の――』『遊び』みたいな”喜劇”になりかねない……。
 このように、自我インフレーションは結びつく元型によってさまざまな作用をもたらすが、概ね『英雄』になっている状態が『中二病』、『影』になっている場合が『犯罪者(もしくは予備軍)』か『中二病』、『アニマ・アニムス』だと『恋愛依存(あるいは現実の恋愛拒否)』、『賢者』だと『カルト教祖』か『中二病』、『いたずら者』だと『犯罪者(もしくは予備軍)』、『子供』は『子供返り』、『自己』は『カルト教祖』か『中二病』ということになる。

 さぁて、長くなっているが、次の予備知識へと進むぜ!
 ベイべベイべベイべベイべベイべべ、ベイべベイべベイべベイべベイべべ~♪

予備知識⑤ 空間象徴とバウム・テスト

空間象徴くうかんしょうちょう(Spatial Symbolism)
 象徴とは、その人がその事物に投影する意味。例えば『家=幼少期の安心』『兵士=父親像』『森=未知への怖れ』。よって空間象徴は空間そのものに対するその人の意味付け。例『上=空・北』『下=地面・南』など。
 似た言葉に『空間表象くうかんひょうしょう(Spatial Representation)』があるが、表象とは”認知”そのものを表すので、似て非なる言葉。例えば『上下左右の把握』『遠近感の把握』『道順などの空間記憶』などが空間表象となる。

・グリュンワルドの空間象徴図式
 オーストリアの美術史家ミヒャエル・グリュンワルド(Michael Grünwald)が、象徴表現・芸術表現の分析のために作った空間的モデル『空間象徴理論』を図式化したもの。数々の被験者に対して『置きテスト(Legetest:被験者が紙面に己の現在、過去、未来だと思うポイントを示すテスト)』を行い、その結果得た空間配置と象徴的意味をまとめたもの。後にいくつかの実験が行われ、それなりの妥当性があることが立証された。
 以下が普遍的に持たれている、空間象徴である。ただし、かなり解釈しにくい部分もあるので、私個人の単純化した解釈も右側に付け加えてある(あくまで、一つの見方として参考に)。

上:精神性・意識・ミトス的 / 意識の肯定(無意識の否定)・より進化した意識
下:物質性・無意識 / 意識の否定(無意識の肯定)・原始的意識
左:内向・母性・女性性・過去
右:外交・父性・男性性・未来
左上(第1象限):生への受動性領域・ロゴス的 / 過去の意識の肯定(懐古、かつての可能性への憧れ)
左下(第2象限):幼児期への固着や退行 / 過去の無意識の肯定(幼児化、無垢への憧れ)
右上(第3象限):生への能動性領域・パトス的 / 未来の意識の肯定(期待、リスクの享受)
右下(第4象限):本能・衝動・葛藤の領域 / 未来の無意識の肯定(悲観、リスクの回避)
※数学の二次元座標における象限とは位置関係が異なるが、単に便宜上の名前にすぎない。
※また、ミトス・ロゴス・パトスはそれぞれギリシャ哲学では以下のような意味になるが、ここでは非哲学の文脈として用いられているので、やや定義と矛盾している点もある。

[ギリシャ哲学において]
・ロゴス(Logos)=理性・言語・秩序・論証する言葉
・ミトス(Mythos)=空想・神話・物語・伝承・物語る言葉
・パトス(Pathos)=苦痛や快楽を伴う一時の情念・受動性(世界を受容したうえでの前進)
[空間象徴として]
・ロゴス的=内省・理性・分析・構造
・ミトス的=精神・神話・超越・象徴
・パトス的=感情・衝動・表出・関係性

・バウム・テスト(樹木画テスト)(Baum Test)
 スイスの心理学者カール・コッホ(Karl Koch)が、筆跡心理学(文字の書き方で性格や心理を分析する学問)と『グリュンワルドの空間図式』を組み合わせて考案した心理テスト。被験者に『一本の実のなる木』を自由に描いてもらい、その絵に投影された”自己像(セルフ・イメージ)”を読み取るというテスト。
 一般的に’根’は『家族、家庭環境』、’幹’は『その地点でのエネルギー状態(太いほどエネルギッシュ)』、’枝’は『知性、知的欲求』、’葉’は『目標、夢』、’実’や’花’は『達成感、満足感(どれだけ成果を得ているかという自己評価)』、”切り株”や”幹のうろ”は『心身に受けた傷』を表す。あとは全体的な印象を評価したり、木が描かれている位置を空間象徴に従って分析したりすることで、被験者の内面を解き明かしていく。
 また先ほど幹の説明で”その地点での”という表現を使ったが、これは幹の長さが『その人の年齢と対応している』ためである。例えば40歳の人が幹の高さ四分の一くらいの部分に”うろ”などを描画した場合、その人が10歳前後のときに、何らかのトラウマを負った可能性を示唆している。
 これを応用するなら、もし幹が真っすぐではなく凸凹している場合は、かなり浮き沈みが激しい時期を経験していたと解釈することもでき、実際”うつ病”の人はこのように描画する傾向が強いとされる。しかし伝統的なバウム・テストでは、A4用紙に4B鉛筆で描画してもらうため、筆圧なども分析対象となり、より複雑な情報を柔軟に解釈する力量が求められる。

予備知識⑥ 箱庭療法

・遊戯療法(Play Therapy)
 ”遊び”を主なコミュニケーション手段として用いる心理療法。似た言葉として『芸術療法(Art Therapy)』もあるが、そちらは芸術を通して心を癒す療法となる。遊びであり芸術でもあるような活動を用いる場合は、それは両方の要素を持っていることになる。要するにそれらは、相手に心を開いて自己表現してもらうためのツールである。

・箱庭療法
 スイスの深層心理学者ドーラ・マリア・カルフ(Dora Maria Kalff)が、ミニチュア玩具を使った遊戯療法をユング心理学に基づき発展させたもの。本来は『砂遊び療法(Sandplay Therapy)』と言うが、日本の分析心理学者『河合かわい 隼雄はやお』氏が、カルフ氏から同療法を体験させてもらったときに、『箱庭遊びと似ている』と思ったことから、この名前で日本に紹介された。
 約57.2cm×72.4cmの木箱(枠は7cm)のなかに砂を敷き詰め、被験者に好きに砂をいじってもらい、その中にセラピストが独自に用意したいくつかのミニチュア玩具から、被験者が任意で選んだものを自由に配置してもらう。そうして完成した”シーン”に対して、ユング心理学を駆使して分析を行っていくのだ。
 一般的にセラピストは、クライアントがシーンを作成している間はほとんど指示は出さず、場合によっては全く話さない。これは箱庭が彼らにとって『自由かつ保護された空間』であることを尊重しているからだ(ただし、軽い支援のような会話はあり得る)。クライアントも自分の作品が完成した後、それについて説明する場合とそうでない場合がある。

・使用する砂と玩具
 箱庭療法で使用する砂と玩具はどんなものでもいいが、特に砂は最低限衛生的である必要がある。よって市販品を買うことになるのだが、その際以下のような種類について押さえておくと、好みの砂を選べるだろう。

・白砂
 非常に細かくサラサラしており、見た目が明るく安心感を与える。優しい手触りで、『幼児期への後退(無意識優勢の状態)』が誘発されやすいので、箱庭療法で最もよく使われている。乾燥しても固まらないので、同じテクスチャが長続きする。

珪砂けいさ(シリカ・サンド)
 ほぼ全て”二酸化ケイ素”でできた砂。性質は白砂に近い。比較的安価。

・川砂
 川底に積もっている砂。粒が白砂よりも大きいが、各々は角が取れているので手触りは優しい。より自然な”土っぽさ”があるので、後退が起こりやすい。

・潤砂
 上記のような粒子の細かい砂に水分を適量含ませた砂。自然な粘土質となり、造形しやすく、後退も起こりやすい。

・キネティック・サンド
 造形しやすいように加工された特殊砂。”砂 98%”に”ポリジメチルシロキサン(シリコーン系樹脂)2%”を攪拌させて生成される。粘土質で固まりやすく、さまざまな地形を再現できる。まとまりやすいので、箱に出し入れしやすく、またその際に砂埃が舞うこともない。難点があるとすれば、①後退しにくいこと、②重いこと(通常の砂の二倍以上)、③高価なこと(通常の砂の十倍程度)。

 これらの砂が、量としては4.5kg(キネティックならその倍)程度必要。また玩具については、各元型を投影しやすいものを意図的に忍ばせておくと、解釈しやすくなって良い。

・箱庭シーンの解釈
 箱庭療法に使われる箱は内側が青く塗られていて、これにより砂をよけることで海や川、湖などの水辺を作ることができる。こういった”地形”にプラスして、配置された玩具に元型を当てはめていくことで解釈を行っていく。以下がその一例である。

水……無意識の部分
砂……意識の部分
川……何らかの分断
橋……二つの分離された世界を繋ぐもの
両生類……水中と陸上を行き来できる動物=二つの世界を持つもの。例:カエル、ヘビ、ペンギン(特にヘビは木にも上れるので、ユング心理学では『神の使い・力の象徴』と捉えられている)
犬……調和、協調性
猫……自由
鳥……上空から全体を見渡すもの、新しいことへの挑戦
イルカ……賢さ、方向性を指し示すもの
ワニ、ヘビなどの怖い動物……理想とかけ離れた自己の側面、シャドウ
人間がたくさん……仲間を大切にする、社会的
人系のものが全くない……人間関係に疲れている
玩具が砂に埋もれている……そのイメージを隠したり、抑えたりしている

 さてと、触れておくべきことは粗方触れたので、やっとこさ小説本編に入っていこうかと思います。とは言えもう読み疲れましたよね? 本当にごめんさない……でも頑張って面白くしますので、ぜひ読んでください!

エリスの高校休日㉕ 箱庭の決闘(デュエル) 前編

 「そう、箱庭よ! うんしょっと――」セリーヌが意気揚々としゃがみ込み、床から別の箱を持ち上げてはそれも机に載せる。エリスが中を覗き込むと、そこにはいろんな玩具が収められているのが分かる。「今からあなたには、ここにある玩具と砂を使って、この箱(砂皿サンド・トレイとも言う)の中に思い思いの世界を構築してもらうわ! どう? できそう?」
 ㋓「世界を……構築?」
 ㋝「まぁ難しいことは考えなくていいの。幼いころに戻ったような気持ちで、ここにある砂と玩具で遊んでみるって感じで! 砂場で遊んだ経験なぁい?」
 ㋓「あるよ。でも……どうだろう? そのとき玩具も一緒だったかは……覚えてないや」
 ㋝「玩具を外に連れていくと、汚れたり壊れたりしちゃうもんね? でも大丈夫! ここにある砂は柔らかくて清潔だから。どう? やってみる?」
 ㋓「うーん……そう、だね? ちょっとやってみようかなっ」
 ㋝「その意気! じゃあ、もうお好きに始めちゃって大丈夫よ。私はここで見てるから」み、見てるって……。
 ㋓「うんっ――」さわさわ。早速砂に触れて感触を確かめたり、指でなぞって川を作ったりする彼。「うわ~すごくサラサラ~。それに、この箱の内側の色が、お水を表してるんだね?」
 ㋝「……(基本に忠実に黙りこくる彼女)」こ、こわっ! 何か喋ってよ! そんな無の表情で見つめられたら、エリスだって緊張しちゃうよっ!
 ㋓「うーん……どうしたものか~」構わず作品のイメージを固めていくクライアント。しかし彼はなかなかの才能の持ち主だった――すぐ何らかの着想を得る。「よしっ、こうしよっと!」彼は箱の中央で右手をクルクル回していき、やがて砂の真ん中に大きな丸い池を作った。それを見たセリーヌはこう思う。『あっ、あれは湖ね。ふふっ、さすがはレマン湖畔に住むニヨンっ子! 水辺が心に息づいてるわね!』
 ㋓「それからここに”お山”を作って~……あれっ? 砂がサラサラすぎて全然盛れない」その様子を見て、すかさず水の入った霧吹きを相手の方へと滑らせるセリーヌ。まるで『あちらのお客様からです』と言って、飲み物を差し出す寡黙なバーテンのようだ。「ありがとう――」シュッシュッシュッ! 迷わず砂を湿らせて、こんもりした陸地を作るエリス。本当に”小山”くらいの控えめな高さだった……さすがは本作の主人公! ”ちっぱい男の娘魂”が根付いているわね!(……) 何かツッコンでよ天の声っ!!
 ㋓「そろそろ玩具を配置してみよっかな――」ガサゴソ。おもちゃ箱を物色し始める彼。何か目ぼしい物があればいいのだが……すると彼が、早速何かを見つけたようだ――。「あっ! ”ボー”だ! よしっ、キミにしよっと!」彼が取り出したそれは、あの『ボー・ピープ(元のドレスver.)』のフィギュアだった。
 ※ボー・ピープとは、トイ・ストーリーに登場する羊飼いの少女を模した陶磁器製の玩具。元々は『スーパーマリオ』に登場する『ピーチ姫』みたいなフェミニンなタイプだったが、アンディの家を離れてからは持ち主に恵まれず、さんざんな目に遭った結果ワイルド・ガールへと変身した。陶磁器製とは思えないほどの運動能力を発揮する。
 ㋓「うーんと羊さん羊さん……は、見当たらないから~……代わりにこの”ワンちゃん”を一緒に置いておこっと――」彼が選んだそれは、『101匹わんちゃん』に登場する『ラッキー』というダルメシアンの子犬だった。ラッキーは生まれたてのころ息をしていなかったので、死んでしまったと思われていたが、飼い主の心臓マッサージで息を吹き返したことから、その名がつけられたキャラクターだ。テレビが大好きで、いつも齧り付くように見ている。
 ㋓「ボーとワンちゃんを~……ここに置こっかな――」彼は左下の砂場に二体をちょこんと置く。
 ポイント①『ボー&ラッキーを第2象限へ』
 ふ~む……もしかするとあれは、かつて彼が『ソフィー(エリスの幼馴染のプリンセス・ガール)』に仕えていたときの、”従順な自分”を表現しているのかもしれない……。
 「いいわねぇ!」ここでセリーヌが動き出す。「じゃあ私はここに、この”野ウサギ”を置こうかしら――」おもちゃ箱から小っちゃなウサギのフィギュアを取り出して、何の遠慮もなくそれをクライアントの箱庭へと配置する彼女。ちょっ! そんなんアリなのっ!? 黙って見てるんじゃないのっ!?
 ポイント②『ウサギがボーたちの傍の湖畔に』
 ㋓「あっ、可愛い!」何の抵抗もなく、それを受け入れる彼。「なら僕は~、この”ノーム”をここに置こっ――」次に彼が目を付けたのは、スイスの錬金術師パラケルススが提唱した”大地を司る精霊ノーム”だった。彼はそれを第3象限の端に作った小山のテッペンにチョンと置いた。
 ポイント③『ノームが第3象限の小山を登頂』
 ㋝「だったら私はぁ……ここに”ケルベロス”を”召喚”するわ」召喚とか言うなっ! RPGのボドゲかっ! ※ケルベロスとは、ギリシア神話に登場する冥界の番犬。三つ首を持った禍々しい怪物(何でそんなミニチュア持ってんねんっ!)。
 ポイント④『ケルベロスがボーたちの真ん前に』
 ㋓「な、仲良くしてね?」あまりに世界観が変わりすぎて、さすがのエリスも引いているご様子……。だが気を取り直して、おもちゃ箱を漁っていく彼。「あっ、”ポー”だ! キミもいるんだぁ~」あ、あれ? デジャヴですか?「ポーはここにいるといいかもっ」彼が呼び出したのはあの『ポー』だった(どのポーやねんっ!)。
 ※『テレタビーズ』というイギリスの子供向け番組に登場するポーです。全身が赤い小柄な女の子で、頭の上にある丸いアンテナがチャームポイント。特技はカンフー。
 ポイント⑤『ポーが第3象限の小山の麓に』
 ㋝「素敵っ! なら私の”ターン”ね」ターンとかっ……もうツッコミ疲れたわ……(こ、こいつ……ハジケリストだな!?)。「私はこの”アヌビス”を~……ここに召喚!」もう好きにしてくれ……。※ちな、アヌビスとはエジプト神話に登場する冥界の神ですぅ。
 ポイント⑥『アヌビス(人型ver.)がポーの横に』
 ㋓「と、友達……何だよね?」エリスもこの穏やかじゃない光景を前に、何か異変を感じ取ったようだ。アヌビスはポーの横からウアス杖(エジプトの神々がよく持っている”下端が二股になった細い杖”)を突きつけており、今にも彼女を冥界へと送りそうな様相なのだ。『ぽ、ポーを守らなきゃ!』咄嗟にそう直感した彼は、救世主を求めて無限の彼方にさぁ行くのだった。そして”相棒”を見つけ出す――。「出たっ! ”スマーフェット”! お願い、来てっ!」
 彼が見つけ出したのは、青い肌と丸い鼻を持つ妖精たちを描いた作品『スマーフ』に登場する金髪のヒロイン、『スマーフェット』だった。自立心と運動神経が高く、”スマーフー(Smurf-Fu)”というカンフーに似た格闘技の使い手でもある。彼はそれをアヌビスの背後へと配置する。
 ポイント⑦『スマーフェットがアヌビスの後ろに』
 ちょっエリス、どんだけ”格闘少女”引くねんっ! 一つの元型が突出しすぎてるだろ!! いや待てよ……もしかしたらあの第3象限は、今年『空手を習って強くなった自分自身』を表現しているのではなかろうか? とするとあれは……なるほどそうか! あの山は”旭信流空手道場”で、あのノームはワイズマン――つまり道場の師範『マルク先生』を象徴しているんだ! 何てこった……この箱庭には完全に、彼の無意識が投影されている……。と、そこまでの内部事情は知らないセリーヌが、嬉々として己のターンに入る。
 ㋝「ドロー!」ドッ……そうよね! 間違いなく”ドロー”よね! どうぞお好きなようにやっちゃってください、セリーヌさん!(諦め)「そして”召喚フェイズ”に入って……」あんた何のゲームプレイしてんねんっ!「私はここに”ガネーシャ”を”埋葬”するわ!」ヒンドゥー教の”富の神”のフィギュアを、第4象限の砂のなかに埋める彼女。いやマジでどこで買ったセリーヌ!? そんな玩具セットがAmazonに売ってんのかっ!?「そして”攻撃フェイズ”に入るわ!」へっ? 攻撃……?「行けっ! アヌビスでポーに攻撃!」や、やめろぉぉぉぉぉ!!
 ㋓「させないっ!」ついにエリスも”ハジけた”ようだ。即座にスマーフェットを二体の間へと滑り込ませては、ポーを守護する。「友達を大切にできないような子は、”私”が許さないぞ!」何となくスマーフェットの声真似をして、アヌビスを威嚇する彼。もうすっかり”ゲームの世界”に入ってしまったようだ……。
 ㋝「フッフッフッ……ならば汝が攻撃を受けるがいい。食らえぇ、『冥封砂棺めいふうさかん』!」同じように”後退”しつつ、重々しい声でアヌビスを演じるセリーヌ――かと思えば何と彼女、攻撃名を宣言すると同時に懐から白いリボンを取り出して、それでスマーフェットをグルグル巻きにし始めたではないか! これには動揺を隠しきれないエリス……箱庭療法とは何なのか、セラピストとは何なのか……彼のなかで全ての意味が、ゲシュタルト崩壊を起こしていた。
 ㋝「残念だけど、これで彼女は”封印”されたわ」ミイラと化したスマーフェットを地面に寝かせるセリーヌ……エリスは”その状態”の意味すら分からないのに、彼女はさらに理解不能なシステムを持ち出してくるのだった――。「そして戦闘を制した私は”3点獲得”! これにより湖畔の野ウサギを、水辺に沿って三歩進めるわ――イチ、ニ、サンッと!」何で点が入るとウサギが進むねんっ! 『Dixitディクシット』かっ!
 ※Dixitとは、カードに描かれた絵柄にタイトルをつけて、他のプレイヤーからのちょうど良い共感を得たり、他のプレイヤーがつけたタイトルの絵柄を探し当てたりするボードゲーム。点が入るとその人のウサギが進む。
 ㋝「さっ、あなたのターンよ、エリス――」
 ポイント⑧『ガネーシャが第4象限に埋葬→スマーフェットがポーの身代わりになって封印』
 ㋓「くぅ~! 何だか分からないけど、スマーフェットは僕が助けてみせる! 僕の、タァーンッ!!」
 こうしてゲームは後半戦へと差し掛かる。はたしてエリスはスマーフェットを救って、この”世界”を平和へと導けるのだろうか? 次週、『箱庭の決闘デュエル 後編』に乞うご期待!!(”次週”って何や! そんでこんなところで中断すなー!!)

第四十五章 – 青春時代② 高校生活 Ep.32:箱庭の決闘(デュエル) 中編

 前回に引き続き、エリスとセリーヌの箱庭療法の模様をお届けする。現在盤面は上の画像のようになっており(小説なのに説明丸投げ)、アヌビスの非情な攻撃によりスマーフェットが痛々しいミイラの姿に変えられてしまったところで、エリスが返しのターンに入る状況だ。はたして起死回生なるのだろうか? 運命の第9ターンが始まる!

エリスの高校休日㉖ 箱庭の決闘(デュエル) 中編

 「ドローッ!」すっかりセリーヌに毒されて、ゲーマーっぽさ全開で”砂遊び”にのめり込むエリス。彼が次におもちゃ箱から取り出したのは、白銀の毛並みを持った雄々しき聖獣『一角獣ユニコーン』だった。てっきり前までと同じパターンで行けば、それも『マイリトルポニー』のキャラだったりするのかと思いきや、今回は普通に格好いい大人向けのフィギュアだった。精巧なデザインから察するに、恐らくセリーヌが第4ターンに出した『ケルベロス』と同じシリーズの商品だろう。
 「この子……すごく強そう……」しばしその綺麗な姿に見惚れていたエリスだったが、すぐさま目的を思い出しては、ゲームを続行していく。「えっと……この子をスマーフェットの横に召か――」
 「ちょいとお待ち!」早速エリスがユニコーンを召喚しようとするも、セリーヌがそれを遮って、何やら込み入ったルール説明を始める。「ユニコーンは強力な力を秘めた聖獣だけれど、同時に気性が荒く獰猛だから、今そこに召喚すると誰彼構わず攻撃しちゃうことになるわよ?」
 「えぇ!? そんなぁ……それじゃあ、どうすれば……?」初耳の”仕様”に戸惑うエリス。内心『そんなの……僕が攻撃させなければいいんじゃ……』と思ってしまう彼だったが、そんな”大人な自分”はこのゲームでは通用しそうにもなかったので、今はこの”箱庭のルール”に従って遊ぶ他ないと、ゲーム・マスター様の助言に耳を傾けるのだった。
 ㋝「でも大丈夫! ユニコーンは”処女しょじょ”に抱かれているとき、理性と慈しみの心を取り戻すことができるわ!」
 ㋓「処女? それってなぁに?」
 ㋝「”純粋な心を持った乙女”のことよ」
 ㋓「だったらスマーフェットは処女じゃないの?」うーん、あんまりその辺は深堀しないでおきなさい……。
 ㋝「処女よ。けど彼女は今”封印”されてるから、その効力を発揮できないの」
 ㋓「だったら隣のポーは?」
 ㋝「彼女はまだ幼すぎるかしら? 処女と呼ぶにはもう少しお姉さんじゃないとね? だから正直に言うと、今ユニコーンを召喚して自分のコントロール下に置くためには、第2象限にいるボーの傍に出さないといけない、って状況ね」
 ㋓「けど、それじゃあスマーフェットを助け出せない……すごく遠いもん……」
 ㋝「そうねぇ……残念だけど……」
 ㋓「だったら他の玩具を――」
 気を取り直して、エリスが再度おもちゃ箱に手を伸ばすも、ゲーム・マスターがそれをも許してはくれない。
 ㋝「ダメだめ! ドローは1ターンに一回だけよ」えっと……今さら何すけど、これって『箱庭療法』っすよね……あまりに自由度低すぎませんか?
 ㋓「えっ、でも僕……初めにボーを出したとき、一緒にワンちゃん(ラッキー)も置いたよ?」
 ㋝「あれは正確には、あなたがボーを引いて、そして召喚するときに、ボーの特殊能力『羊飼いの呼び声シェパード・コール』が発動していたからよ。ボーは場に出る際、犬か羊を一体デッキ(おもちゃ箱)から出すことができるの。だから処理としては問題なかったわけ」
 ㋓「ぼ、ボーにそんな力が……(特殊能力……? そんなのあるの……?)」
 ㋝「それで、どうする? ユニコーンをボーの傍に出す?」
 ㋓「う~ん……」しばらく唸った末、エリスはユニコーンを手の中に温存しておくことに決める。「今はやめておこっかな。この子には、スマーフェットを助けてほしいから」
 ㋝「じゃあ召喚フェイズはスキップね? 次は移動フェイズだけど、誰か移動させる? 各キャラ一回ずつ移動できて、移動量はキャラによってさまざまだけど、基本は”一歩”だけ進めるけど」
 ㋓「移動か~……その一歩って、ウサギさんが進んだ”一歩”と同じ距離だけ進むの?」
 ㋝「そう。目分量でだいたい”1.5インチ分”進むの。この世界(箱)の大きさは横28.5インチ、縦22.5インチだから、端から端まで移動するのに横で19歩、縦で15歩必要ね」へぇ~そんな仕様が……って目分量!? きっちりしてるのかアバウトなのか分からん……。
 ㋓「そっかぁ……(移動って時間がかかるんだな~)」またしばらく唸った後、権利を放棄する彼。「だったら動かなくてもいいかな~……どこに行けばいいかも分かんないし~……」
 ㋝「オーケイ。移動フェイズもスキップと……それじゃ次は攻撃フェイズだけど、誰かで誰かに攻撃する?」
 ㋓「攻撃? そんなことしないよ! けど……今場に出ている子たちの能力だけ聞いてもいい? このままじゃ僕、スマーフェット助けられそうもなくて……何か糸口が見えればいいんだけど……」
 ㋝「もちろんよ。まずボーは、さっき説明した召喚時能力の他に、獣を三頭まで従える能力もあるわ。獣に対して”攻撃”することで”調教”を行って、その獣を仲間にできるの」
 ㋓「えっ! じゃあそのワンちゃん(ケルベロス)も、今なら仲間にできるってこと?」
 ㋝「そこはちょっと複雑で、ケルベロスは見ての通り『三つ首』を持ってるから、一体で獣”三頭分”として扱われるのよ。だから今は、すでにラッキー(ダルメシアンの子犬)を従えているボーは、ケルベロスを僕(しもべ)にはできない……けれど『二頭分の調教能力』が残っているから、ケルベロスからもボーとその僕(しもべ)には攻撃できない状況で、結果として第2象限は膠着状態になっているわ」
 ㋓「なるほど……じゃあラッキーにはどんな力が?」
 ㋝「彼はただ、幸運ラッキーなの」
 ㋓「へ?」
 ㋝「どんな状況下でも必ず生き延びることができる強運の持ち主で、気まぐれかつ好奇心旺盛、そしてテレビが大好きなの」
 ㋓「そ、そうなんだ……(ラッキー何者!?)」ま、まぁストーリー上愛されているキャラって、そういう扱い受けるよね……。「それで、他の子たちの能力は?」
 ㋝「ケルベロスは、自身よりも小さな生き物(神を除く)との戦闘で必ず勝ち、攻撃フェイズに付近の標的に三回まで攻撃が可能。ただし弱点として、美しい音楽と甘い物スウィーツには目がなくて、それらを与えられると3ターン(コントローラーのターンで数えて)行動不能になるわ」
 ㋓「あ、甘党のワンちゃん……」
 ㋝「そして私が最初に出した『野ウサギ』は、単なる”カウンター”で、それ自体に戦闘能力はないの――とは言え、もしウサギに攻撃しようものなら、脱兎のごとく逃避するわ」そりゃそうだわ……だって”脱兎そのもの”だもん……。「ウサギにできることはただ一つ、私が戦闘を制するごとに三歩跳ね進むことだけ……でも気を付けて! ウサギが九歩(三回)進むと、特殊能力『復活祭のウサギイースター・バニー』が発動して、私に『復活祭の卵イースター・エッグ』を一つ運んでくるの! その卵の効力はズバリ『死者を蘇らせる』こと!」
 ㋓「し、死者!? この遊びって誰かが死んじゃったりするの!?」対象年齢いくつやねん、この心理療法……。
 ㋝「死があるから生もある……全てはこの世のことわりよ……」かと言って、何で野ウサギに『死者蘇生』が使えんねん! 『Resurrectionリザレクション』が、『ザオリク』が、『フェニックスの尾』が……どうして使えんねん! 冥界の番犬だの神だのがいるんだから、むしろそいつらが『インフェルノ・ゲート』を開けなさいっ!
 ㋓「で、でも僕! 誰にも攻撃させないよ! 誰も攻撃しない! そしたら誰も死なないよね?」
 ㋝「それはどうかしら?」そ・れ・は……こんなタイミングで言うべきセリフではありません……。「実は私が従えている冥界神『アヌビス』は、上位の神以外との戦闘に必ず勝つことができて、相手を”封印”することで実質的に戦闘不能にすることができるの。そして封印されたキャラクターは、6ターン後――今回で言えば3回目の私のターン時――に冥界へと旅立つ――つまり本当に死を迎えることになるわ」
 ㋓「そ、そんな……」
 ㋝「しかもアヌビスは足が速くて、1ターンに三歩進むことができるの。だから仮にこのターンで、ポーがどこかに逃げていたとしても、次のターンでアヌビスは、問題なくポーを捕らえることができるのよ」アヌビス強すぎだろっ! チェスで言う”クイーン”か! ゲームバランスどうなっとんねんっ!「けれど唯一の弱点として、アヌビスはあしの茂みには立ち入れないし、もし茂みに捕まったら最後、自力では抜け出せなくなっちゃうの……きっと幼少期のトラウマのせいね……彼、生まれてすぐ葦の茂みに捨てられちゃったから……」可哀そうなアヌビスッ!
 ※アヌビスはオシリス(エジプト神四柱の長男で、後の”冥界の王”)とネフティス(四柱の次女で、後の”葬祭の女神”)との間にできた不義の子であり、ネフティスは夫のセト(四柱の次男で”戦争の神”)から隠し子の存在を隠匿するために、泣く泣くアヌビスを茂みに置いてくる。後にオシリスの妻イシス(四柱の長女で”豊穣の女神”)が彼を見つけ、育ての親となる。ネフティスは彼を守るためだったとは言え、実質的に子を捨てたことには変わりない。
 ㋓「葦の茂み? それってどこにあるの?」
 「これよ――」セリーヌがおもちゃ箱から『緑のタイル』を取り出して見せる。レゴブロックの薄い台座パーツみたいな見た目で、いくつかの窪みがあることから、そこに草パーツを付ければ草原として扱えるようだ。「葦は水辺に自生する多年草だから、ゲーム開始時から10ターン目に、水辺を囲うようにして勝手に群生し始めるわ。幸いあなたは、最初の”地形操作”で大きな湖を作っているから、次の私のターン時には広範囲に渡って葦の茂みが形成されることになるわね!」
 「へっ……ってことは!」エリスの表情に光明が差す。
 ㋝「そっ! 次のターンで湖畔にいるポーは、葦の茂みに身を隠せるってこと! 無暗に動かなくて正解だったわね!」
 ㋓「い、イェース!(Y-Yeees!)」そこは『ウィー!(Ouiii!)』だろ、エリス……。
 ㋝「でも安心するのは早いわ! ゲームは刻一刻と変化するものだから!」
 ㋓「くぅ~、負けないぞ~!」おかしなこと全てを受け入れた様子の彼。
 ㋝「それじゃ他の子たちの能力説明を続けるけど、スマーフェットはさっきあなたが無意識にやった通り、『仲間の代わりに戦闘を引き受ける能力』があるの。それと、彼女はスマーフー(武術)の使い手だから、妖精や人、獣など大抵の動物との戦闘では勝利することができるわ――特に相手が蛇だったら、ワンパンで倒せるわね」何やねんそれっ! どの道一回の戦闘で決着着くんだから、その設定いらんやろ!「まぁ度が過ぎる大男相手だと、さすがに負けちゃうこともあるんだけど、その際も1/3の確率で相手を”メロメロ状態”にできて、仲間にすることができるわ――その判定はサイコロで行われ、1か2の目が出た場合に”懐柔かいじゅう成功”となるわ」懐柔とか言うなっ! 妖精に恋焦がれる大男に謝れっ!
 ㋓「えっと、じゃあさっきは相手が神様だったから負けちゃったの?」
 ㋝「その通り! 神様には武術もメロメロも効かないから」もう神だけ従えとけや、このゲーム!「それからポーなんだけど、彼女はコレと言って戦闘能力を有してはいないわ」そんな子を襲おうとしてたのかアヌビス! PTAから苦情が来るぞ!「でも彼女は『野ウサギの徘徊する草原』を見たら、故郷の『テレタビーランド』を思い出して”覚醒”するわ」サイキック・クリーチャーかっ! 何じゃその覚醒条件!「覚醒すると彼女は『青とピンクのスクーター(キックボード)』に乗ることができて、移動速度は通常の十倍に! しかも出会いがしらに誰彼構わず『ずんぐり抱擁ビッグ・ハグ』するようになって、その餌食になったキャラは何と!」餌食とか言うな……んでそこでセリフを切るなっ!
 ㋓「何と?(ワクワク)」つい我慢できなくなって、続きを催促するエリス。ポーの能力いかんによっては、このゲームの勝ち筋も見えてきそうだからだ。
 ㋝「みんな『子供向けテレビ番組のコンプライアンスの枠組みに押し込められる』ことになってしまうの!! 恐ろしぃ~!」もったいつけて言うほどのことかっ! どういう心理状態やねんセリーヌ!
 ㋓「つ、つまり……?」
 ㋝「誰も”攻撃”できなくなってしまうの。争いなんて、子供向け番組にはないでしょ?」
 ㋓「な、なるほど~……でも、ってことは結構すごい能力なんじゃない!?」
 ㋝「まぁ、発動できればね。実際にはウサギの徘徊する草原なんて、そう簡単に出現は――」そこで重大な可能性に気づくセリーヌ。いや待って……次のターン湖畔は『葦の茂み』に覆われる……しかも茂みは、充分に成長する最初の3ターンまでは『草原』としても扱われるから……まさか――。そこで盤面を確認し、続けて前方のエリスの顔を窺った彼女は、そこで彼がニマァ~ッと笑いながら見つめ返してくるのを目撃するのだった――彼も同じことに気づいたようだ。
 ㋓「ねぇセリーヌ? 残りの子たちの能力も教えてくれる? ちゃんとみんなのこと、知っておきたいんだ」含みのある言い方で対戦相手を威圧する彼。もはや歴戦のゲーマーのような貫禄を宿している。
 ㋝「え、えぇ……」珍しく、動揺の色を浮かべる彼女。仕方なく要求に応えていく。「あなたが小山に召喚した『ノーム』は、地中に潜ることができて、地面に埋まった資源を回収することができるの。あと特殊能力『お庭の精霊ガーデン・ノーム』によって、ガーデニングの際お庭に、たくさんの草花を咲かせたりもできる。それらは商人に売って『お金』にしたり、草花の場合は『空気中の二酸化炭素濃度』を下げたりもできるわ」いらんやろ、そのシステム! どうせ殺し合うだけのゲームなんでしょ!?
 ㋓「お金……なんてあるんだね?」
 ㋝「”貿易”は、このゲームにおいても重要な要素よ。他の’国’から武具や兵器などの”装備品”を買ったりできるから」ほらなっ! やっぱ世紀末的な世界だわ!
 ㋓「それで、セリーヌがここに埋めた”ゾウさん”は?」
 ㋝「『ガネーシャ』ね? 彼も神様ではあるけど、基本的に戦闘能力はないわ」あっても、どうせアヌビスの下位互換だもんな!「でもその代わりに彼は、”埋葬”された彼自身を掘り出したプレイヤーに、”莫大な富”をもたらすことができるの――具体的にそのプレイヤーは、『100メガ・クレジット』もの大金を得ることができるわ!」ほーぅ……まぁ通貨の価値は不明だけど、大金と言うからには大金なんでしょう……ん? メガ・クレジット……? いや、『テラフォーミング・マーズ』かっ!?
 ※テラフォーミング・マーズとは、プレイヤー全員で火星を開拓していくボード・ゲーム。各プレイヤーは一企業としての役割を演じながら、各企業固有の技術や資源を駆使して火星の温度を上げたり酸素濃度を上げたりしていき、やがては動植物が生存可能な環境(第二の地球化計画)実現を目指していく。ある程度”世代ターン”が経過した後で、それまでに最も『地球化』に貢献したプレイヤーが勝利となる。そのゲームで使われる通貨の名前(単位)も”メガ・クレジット(MC)”と言う。
 どうりで『二酸化炭素濃度』とかいうシステムがあるはずだわ! 絶対あのゲームパクッてるだろセリィィィヌ! いや待てよ……もしそのメガ・クレジットってのが、”TM”の”MC”と同等の価値なんだとしたら……TMでは海洋タイルの配置に18MC、緑地タイルの配置に23MC、都市建設に25MC、発電所建設に11MCするから……100MCは大企業の時価総額――いや、国家予算レベルの大金じゃねぇかっ!! ヤバすぎだろガネーシャァァァァ!!
 ㋓「へぇすごいね? 100メガ・クレジットで何が買えるの?」そう! ぜひともそれを教えてくれっ!
 ㋝「聞いて驚きなさい! 何と100MCは……『新品の自転車が一括で買える値段』よ!」
 あっ……全然TMのMCじゃなかったわ……いやMCはMCでも、”ミリ・クレジット”の方だったっぽい……期待して損したわガネーシャ……ガチで100ドルか100ユーロくらいしかくれないじゃん……”富の神”の名折れだな……。
 ㋓「自転車っ? それって、ポーのスクーターみたいに移動速度が上がるの?」自転車好きだから、ちょっと食いつくエリス。
 ㋝「そ! ”人型キャラ”なら誰でも装備できて、移動速度3倍になるの」そう言えば自転車は、『徒歩の1/3の力で3倍の距離進める』と言いますよね……。「あと自転車を設置したところにキャラを召喚したら、即座に装備して行動可能になるわ――そう、今までの流れで何となく気づいてたでしょうけど、キャラクターたちは『召喚酔い』するの」あっ、なるほど……『クロスギア』みたいに装備できて、それで『スピード・アタッカー』になるのか……って『ファイアー・ブレード』かっ!
 ㋓「いいね! じゃあノームでガネーシャ堀りにいこっと!」早速『チャリんこ獲得プラン』を戦術に組み込む彼。ん? よくよく考えたら、砂の上で自転車って走れるのか? まぁいいか……(ツッコむだけ無駄そう)。
 ㋝「それも手ね? 自軍の各キャラの固有能力は、自ターンの最後にある『能力フェイズ』で発動できるけど、どうする? 攻撃フェイズを終えて能力フェイズに入って、ノームの能力使って、山に潜らせる?」
 ㋓「うん! お願い!」
 ㋝「了解! これよりノームは『山の小人ドワーフモード』に移行するわ――」ザクッ……。セリーヌがノームを逆さまにして、その頭の三角帽子を小山に突き刺して、地面へと埋めていく。技名もさることながら、何ともシュールな絵図である……。「さて、他にしておきたい行動はない?」
 ㋓「あの……ボーと一緒にいるワンちゃん――名前は~”ラッキー”だっけ? その子を自由にしてあげられない?」
 ㋝「ラッキーを逃がしたいの?」
 ㋓「うん……そうしたら次の僕のターンで、ボーでセリーヌのワンちゃん仲間にできるかな、って……」
 ㋝「的確な判断ね! いいわ、ならラッキーを大地に放しましょ!」セリーヌがラッキーを、ボーから一歩離した場所に移動させる。
 ㋓「バイバイ、ラッキー……安全なその辺りで遊んでてねぇ」名残り惜しそうにラッキーを見つめるエリス。これで長かった第9ターンが終了し、待ちに待った10ターン目が始まる。
 ポイント⑨『ノームが地中に&ラッキーが野良犬に』
 ㋝「それじゃ私のターンね! 早速ドロー! っと行きたいところだけど……今回は記念すべき第10ターンだから、その前に水辺に『葦の茂み』を配置するわね! はいっ、エリスも手伝ってっ! このタイルを湖畔全域に敷き詰めればいいから――」
 ㋓「出た! 葦の茂み! これでポーは安全だ!」嬉しそうに渡されたタイルを置いていく彼。これで湖畔にいる野ウサギ、ポー、そしてミイラ化したスマーフェットが、タイルの上に乗っかった。
 ㋝「ってなわけでドロー!」何やら大きめのフィギュアを引き当てた彼女は、それから得意げな表情になって、こんな悪役じみたセリフを吐くのだった。「フフフッ……茂みにかくまわれたからって、安心するのはまだ早いわ! 見よ! これが我が切り札!」何が出るにせよ、’札’でないことは確かだ。「湖畔にそびえ立ち、水質を汚染せよ! 『ナニカノ工場(La Fabrique du Quelque-Chose)』! 建設!」ほらな、とてつもない立体物だわ……しかもだっさい”口上”だし……。
 ポイント➉-A『ナニカノ工場が第1象限と第3象限の境目の湖畔に』
 ㋓「工場!? 何の!?」ついにエリスまでもがツッコミ出す事態に……。
 ㋝「”ナニか”の工場よ!」あっ、それ知ってる! あれでしょ! ”アレ”作ってる工場!
 ㋓「だからナニ!?」聞くな、感じろ! そして開くな……漢字を……。
 ㋝「まぁマジレスすると~、何か金属を加工して~、アレやコレやを作って~、出荷してる工場よ~!」全くマジレスしてないわ、こいつ……。
 ㋓「それがあるとどうなるの?」
 ㋝「今後私は、自ターン開始時に”10MC”の利益(資金)を得られるわ」20ターン経過してようやく自転車が買えるのかよ……もういっそ工場で生産しろよ……いやそもそも、100MCで自転車しか買えないのに、プレイヤーはどうやって工場を建設したし……インフレが極まってるだろ、この世界……。「しかもこの工場は稼働中、ずっと湖に重金属(汚染物質)を垂れ流すことになり、その間は誰も湖から”水産資源”を取り出せなくなるの!」あっ、それ口上で工場長セリーヌが言ってたやつだ……むしろそっちがメイン・エフェクトだろ……。
 ㋓「そ、そんな……ってことは、まさかっ!」すっかりゲーム内の住人じゃんエリス……そんなアイマイミーなセリフ吐かないで……。
 ㋝「気づいたようね! この工場はやがて湖全域を汚染して、湖畔に繁茂した葦を枯れさせるわ! だからズバリ言うわね、エリス……あなたに残された時間は、あと3ターンよ!」あっ、ご説明どうも……と言うか、工場の汚染速度! 多年草の葦が『光の護封剣』レベルの寿命に……。
 ㋓「ふぇ~ん。工場を止める方法はないのぉ?」
 ㋝「適当なキャラに三回攻撃されると、工場は被害届を出すために1ターン休業するわ」単なる迷惑行為! さすがに工場は破壊できないか……。「あと”監査官”的なキャラに一回攻撃されると、以降5ターンに渡って汚染物質の流出量が低下するわね」一時的な取り繕い! ってか監査官的なキャラって誰やねんっ!「他には、”活動家”的なキャラに一回攻撃されると、従業員が10ターン”ストライキ”を起こして、工場が完全停止したりもする」水質汚濁防止法も労働基準法もガン無視した闇工場! そして従業員らをそそのかした活動家とはいったい!?
 ㋓「う、うん……覚えておこっと……」まるで見えない勝機に、彼の心も折れ始める……かに思われた――。
 ㋝「いいかしら? じゃあ続けるわね! このまま私は移動フェイズに入って、ケルベロスを一歩工場方面に移動させて、続いてアヌビスをポーの隣に移動させるわ。これで私はターンエン――」
 「おっと。忘れてもらっちゃ困るよ、セリーヌ……」突然とエリスが、相手の行動を遮って何やら物申す。心なしか、いつもと違った雰囲気を纏う彼……そのオーラに気圧された彼女は、「わ、忘れてるって……何を?」と、あからさまに不都合そうなリアクションを返すのだ。「僕がさっき逃がした、ラッキーの”特性”をさ。確か彼は、気まぐれで好奇心旺盛……オマケにテレビ好きだったよね?」
 「そ、そうよ? それがどうかした?」なおもすっ呆けるセリーヌ。
 ㋓?「テレビが大好きな彼のことだから、当然、平日の朝9時から25分放送されてる『テレタビーズ』も観てるはずだよね?」※2041年にはテレタビーズの新作が制作されており、ちょうど今の時期、スイスでも放映されているのだ。
 ㋝「観てる……か~もしれないわね?」
 ㋓?「じゃあラッキーは、湖の向こう側にポーが出現した時点から、彼女の存在には気づいていたはずなんだ……違う?」意外と狭いスケール感! まぁ、世界の片隅から片隅に移動するのに、19歩とかしかかからないなら、そんなもんか……。
 ㋝「気づいていたでしょうね……」なぜか涙ぐむ彼女。
 ㋓?「なら自由になったラッキーが、まず最初にすることは、湖の傍に寄って、少しでも近くからポーを眺めること……だよね?」
 ㋝「そう、間違いないわ……誰だってスターには会いたいもの……」
 ㋓?「でも彼は気まぐれだ。湖に向かっている最中、可愛らしい野ウサギを見つけでもしたら、そちらに興味が移って、ちょっかいを出したくなるかもしれない」
 ㋝「い、言えてるわ……」言えてるのかよっ! もしかしなくても、このゲームって『言ったもん勝ち』なのか!?
 ㋓?「つまり、単独で存在するラッキーの特性を整理すると、お互いの”移動フェイズ”にてプレイヤーの意思とは関係なく、付近に存在する『最も興味そそられる場所』へと移動し、続く”攻撃フェイズ”でも勝手に、それに対して”ちょっかい”を出す、ということになる……その対象は野原を飛び交うチョウチョかもしれないし、空から舞い降りてくる雪かもしれないし、どこかの家にあるテレビかもしれない……ただ今回の場合それが、葦の茂みで飛び跳ねる”ウサギ”だったってだけのこと」
 ㋝「し、しまったっ!」大袈裟に逆転場面を演出する彼女。とすると、えぇ……今言ったこと全部”アリ”なの……もしかしたらエリスも、それに気づいたからこそ、あんなハッタリ全開な態度を取り始めたの……?
 ㋓?「その通り。このセリーヌのターン、全ての行動が終了する前に、まずラッキーと野ウサギの強制バトルが執行されるんだ。行けっラッキー! 幸運の一撃ラッキー・パンチ!」ダルメシアンの子犬のフィギュアで、野ウサギのフィギュアをコツンとつつく彼。「するとどうなる……?」
 ㋝「くっ……野ウサギの特性『脱兎の跳躍ラビット・リープ』が発動する……」あっ、Rapidラピッド(急速な)とRabbitラビット(兎)を掛けたんだ……っていうかその”跳躍”はLeapリープなのか!? Jumpジャンプじゃなくて!?
 ㋓?「そう。野ウサギは攻撃を受けると、脱兎のごとく逃走する」だから脱兎そのものなんだって! 言いたいだけやろそれぇっ!「移動距離は、通常の三倍――つまり九歩分だ」一気に反対側の湖畔――ミイラ・スマーフェットの手前――まで跳躍移動する野ウサギ。いやマジで”リープ”だわ! もう量子跳躍クァンタム・リープの次元やろ? そんなん”トムジェリ”か”バックス・バニー”の世界の住人しか使えん技やんっ!
 あと、『通常の三倍』ってなんやねんっ!! それも言いたいだけやろぉっ!! ったく……さっきから妙に③って数字バカり目に付くわ……そんな③の付く数字と③の倍数バッカ再さぁ~んに渡り”さぁ~んざぁ~ん”見せられたら……バカになってまうわっ!!(もうなってる)
 ポイント➉-B『ラッキーが興味本位でウサギを攻撃→第2象限にいたウサギが一気に第3象限へリープ』
 ㋝「ば、バカな!?」そう、だからバカなんですって……。
 ㋓?「この瞬間! ”草原を飛び跳ねるウサギ”を見たポーが『覚醒』!! さぁ”お気に入りのスクーター”に乗るんだ、ポー!」
 こうして一変する戦況! はたして彼は、このまま勝利を収められるのだろうか! 次週『箱庭の決闘デュエル 後編』を、見逃すな! ってまた”次週”かよ! あれっ? 先週も”次週は後編”って言ってなかったか!? そんで結局、今回”中編”だったじゃん! 1万文字以上かけて1.5ターンしか進まないとか、終わってんなこのゲームと小説!

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